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1-3

 奥館の南側の裏庭と呼ばれている庭園の東にある修練場に駆け足で向かった。ハァハァ言いながらオレが中に入ると、もうすでにズラッとお相手の子供たちが集まっていた。


 二〇人くらいか。


 意外に少なかったんだなと思った。そういや、前回は此処に来るまで、父上にしごかれるとしか思ってなかったんだわ。思い出した。人がいっぱいいるし、ただならぬ雰囲気だしでビビった記憶がある。だからもっと大勢いるように感じたんだろう。でも、妥当な人数だ。千人もやらないからな。実際、前は20人もいかなかったと思う。怪我は治癒術とかで何とかされるけど、体力と気力がね……。いや、頑張った方だよ、……多分。


 数人のオレの御学友を除くと、少し年上の子ばかりだ。ああ、いや、記憶通りトリスタンもいる。でも、見学だけのはずで立会ってはいないと思う。オレの方をチラッと見た目つきがどうも小馬鹿にした感じがする。まぁ、オレの被害妄想かもしれんが。おっ、兄上とその御学友兼側近候補達を発見。兄上とも立会わなかったと思う。こっちのグループはなんか冷めた雰囲気だ。オレを見ようともしない。


 父上のところに行く。ウチの第一騎士団の副団長を務めているスコット・ホーバーと細剣術指南役のゲーリー・キャンベルと一緒にいた。この二人は審判役だ。どうせすぐ終わるから二人もいらんけどね。皆ポーカーフェイスだ。


「来たか……。わかっているな。お前の最近のたるみ振りは目に余る。その性根を鍛え直してくれるわ。これより、千人仕合を始める」


 えらい早口で父上が言った。しかも、抑揚がなく、なんか台本棒読みって感じだ。微妙に目ぇ逸らしてるし。うーん、なんだろう、この後ろめたそうな感じ。もしかして父上はそこまで乗り気じゃないのかも。ふーん。


 つーか、オレ、これから千人仕合だってのにやけに落ち着いてんな。


 自分でもびっくりだ。やっぱ、2回目の余裕……、違うな、ヤケクソ……でもないな、ああ、まだ現実感が薄いんだ。どこか他人事のように感じている。


 オレは長剣型の木剣を手に取った。さぼりまくってはいたが、一応、フォレスト流長剣術を習っている。めちゃくちゃ嫌々前に出た。


 初戦の相手はトーマス・デインだった。コイツはいわゆる御学友ってやつだ。一応オレも領主家の子供なので、小さい頃から同じ年頃の子供を大人たちが友達にどうぞってセッティングしてくれる。そして、その子達と学問や剣術を一緒に学び、遊ぶって感じだ。


 しかし、コイツ、無駄にやる気に満ち溢れてやがんな。懐かしいもクソもないわ。オレって全方位から嫌われていたのを実感するね。もはや感心するわ。


 トーマスは真面目で正義感に溢れおまけにストイックな奴だった。つまりはオレとは水と油ってやつだ。オレのわがままに最初に文句もとい注意をしてくるのはコイツだった。


 あっ、思い出した。クソっ、確か、前回はコイツにいいのを貰って初っ端から失神KOされたはずだ。コイツ強いんだよな……。はぁ、マジで嫌だ。


 審判役のスコット・ホーバーから「構え!」と声がかかる。


 しょうがないから構えようとしたところ、アレっ?てなった。どうやって構えるんだっけ……?辛うじて剣の握り方は合ってると思うんだけど、上体の向きやら足のポジションとかがいまいち曖昧だ。


 こちとら30年ものブランクがあるんだよ、などと思いながら、オレが構えるのにまごついていると、審判役の「始め」の声が聞こえた。


 えっ、と思って、こんな感じかなと見ていた足元から目を上げると、トーマスがあっという間に間合いの内に踏み込んでいて、もろ手突きを思い切り顔面に放ってくるところだった。うおっと思った瞬間、勝手に体が反応した……としか言いようがない。オレは左半身の構えから軽くお辞儀をするようにして、相手の木剣を頭の後ろに通らせながら、左片手突きを放っていた。これがものの見事にトーマスの喉に決まった。


 トーマスがダンっと膝をつき、それからゆっくりと前のめりに倒れ込んだ。


 はれっ!?これやばくない?物凄い手応えだったし、「ぐがっ」とかいう声だか音だかが鳴ってたんだけど。


 すぐさま、治癒術師が飛んで来て、治療を始めた。修練場内は一旦シーンと静まり返ったが、今は大きくザワついている。仕合は一時中断になった。


 ……重傷で助からないとかないよね?


 治癒術師たちが緊迫したやり取りをしてるのをオレは見ていた。


 ワザとじゃないんだ。勝手に体が……。心臓がドクンドクンとやけにうるさい。そこに「よし、もう大丈夫だろう。7番のポーション取ってくれ」という声が聞こえた。ホッとした。トーマスのことはあんまり好きじゃなかったけど、流石にね……。


 ただし、まだ治療は継続するようだ。おかげと言っては何だが、考える時間ができた。今のは何?って話だ。


 オレは治療しているところを見るとはなしに見つつ考える。めちゃくちゃスムーズに体が動いた。アレって妖剣が遣ってた技だよな。確か双子派スーザン流だ。


 ……おい、もしかしてあの妖剣クソ野郎がまだオレの中にいるとか?


 いや、それは多分ないな。なんせオレは30年にもわたり体を乗っ取られていたその道の大ベテランだ。オレの中に何者かが潜んでいるような感覚はない。……よく考えたら、乗っ取られた経験はあるが、乗っ取り返した経験はなかった。……まぁ、それは置いておこう。


 じゃあ、なんだ?……っていうかそういうことだよな。


 オレはその場からちょっとだけ離れたところに行き、軽くステップを踏んでみた。いやいや、自分で言うのもなんだが、なかなか華麗な足さばきなんですが……。ついでにちょっと突きの動作も入れてみる。いやいや、体が思い通りに動きまくるんですが……。これってもしかしなくても、オレの体が妖剣の動きを覚えているってこと?なんで?


 ……そうか。


 わかった気がする。妖剣に体を乗っ取られていてもオレは体をコントロールする能力以外は持ち続けていた。妖剣が手や足を動かしたり笑ったり真面目な表情をしているのも感覚として捉えていた。要するに、オレは妖剣の体の動かし方を覚えているんだ。


 オレは「再開」の声がかかるまで、双子派スーザン流の型の動き――暇を見つけては妖剣が練習してやがったからそうだと思う――を様々と試してみることにした。


 しかし、しばらくやっていると、なんか違和感がある。発生源らしき手元に目をやった。長剣型の木剣だ。


 ……コレだな。


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