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「ちょっと思い出したんですけど。マリアっていう名のメイドの娘がかなり遣うように見受けられました。……年も同じくらいだと思うし、どうでしょうか?」
「マリア?……ああ、あの娘か」
このマリアって娘はオレが婆さんのところに行く前はいなかったと思う。オレが帰ってきてしばらくしたとき、朝のランニング終わりに庭でストレッチをしていると、メイドが三人、掃除道具を持って歩いてきたことがあった。何気なく目をやると、そのうちの一人がやけに腰が据わっていて、とても滑らかな動きをしていた。他の二人と比べてやたらと目立っていた。
おっ、と思ってチラ見すると、若い娘で知らない顔だった。雰囲気から、なんとなく平民の子かな?と思った記憶がある。でも、たとえ平民出だったとしても馬飼いとか木こりとか荷運びなんかの体を動かす仕事をやっている連中は体の正しい遣い方を習得している場合が多い。下手すると自己流で身体強化している奴もいる。だから、そのときは、そういった商売をしている平民の子が奉公に来たのかなぁ、くらいにしか思わなかった。そしたら、その日の夜、ベッドに入ったタイミングで急に思い出した。
知らないどころか、中の人をやってるときに、刺客としてきた奴だった。結構、面影が残ってた。それに、かなり強かったんだ。双剣術と体術を駆使してよく戦った。まぁ、最後は妖剣に返り討ちにあったんだけど。確か、両手両足を潰されて、妖剣がお楽しみタイムに入ろうかってときに、舌を嚙んで自害したと思う。まぁ、正解だったとは思う。変態から上手に逃げた。
それから、オレは気になって、会うたびに注意して見ていた。だから、名前はもちろん、現時点でも大分遣うことを知っていた。……てゆうか、もうちょっと隠さないと、わかる人にはわかっちゃうと思う。
マリアは、多分だけど、ウチの陰の騎士団――それなりの規模の貴族家にはあるとされている諜報や防諜などを担っている騎士団のことだ。そして、当主とその側近以外にはその存在が秘匿されていて、オレも噂でしか聞いたことがない――のメンバーだと思う。妖剣が逃げているときもウチからの刺客が北の帝国にまで来ていた。あんなことは追跡とか情報収集とかの専門家が居ないと無理だったはずだ。間違いなく陰の騎士団がウチにはあったと思う。あの強さでメイドってことは屋敷の陰の護衛なんだろう。
うーん、と今度は父上が唸った。そして、かなりの長考の後、父上が言った。
「……わかった。前向きに検討してみよう」
「……お願いします」
おお、マジか。おっしゃー。これでオレに対する態度がフラットな従者ゲットだぜ。……って、まだか。いや、でも、感触はかなりいい。よっふー、気分が上がってくると、オレの中にムクムクと好奇心が湧いてきた。
「あのマリアって子はどこの家の子ですか?」
「……さて、どこだったかな」
「技は無手ですか?それとも短剣かな?どこで習ったと言っていましたか?」
「……」
「いやぁ、かなり遣いますよね?なぜ騎士団に入らなかったんでしょうか?」
はぁ、と父上が息を吐いて、なんか諦めたような顔をした。
「……お前、わかって言ってるんだろ?」
「何がですか?」
オレがすっ惚けると、「まったく」と言って、また、はぁと父上は息を吐いた。
「マリアのことは答えられないし、皆にも言うなよ」
「……やっぱり、ウチにも陰の騎士団ってあるんですね」
「そ、そんなもの、我が家にはない」
「えー?」
「ないったら、ない」
そんなこんなで、その後、1時間くらい父上と駄弁った。楽しい時間だった。




