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3-3

「遅くに、悪いな」


「いえ、父上がお忙しいのはわかっていますから」


「年度末はどうしてもな……」


 オレと父上は代々当主が書斎として使っている部屋で向き合って座っていた。実は要件は此処に来る前からすでにわかっている……と思う。学園におけるオレの「従者」の話だろう。


 こないだ、ちょっとした遠足でダドリー洞窟魔宮に行ってきた。ダドリー洞窟魔宮はウチの領内にある小規模魔宮だ。討滅は可能だ。だが、そこそこいい魔鉱石がそこそこの量採掘できるので、討滅せずに残してあった。そんな魔宮は大陸中に他にもたくさんある。


 で、その遠足、もとい、魔獣狩りにはオレと同世代の連中10人――かつての御学友がほとんどだった――と引率の大人たちで行った。いや、引率って、海賊派とは違うなと強く思ったよ。まぁ、それはいいか。目的は子供たちの絆をより一層深めよう……、というか、主にオレと他の連中の仲を取り持つことだった。だが、結果はあえなく失敗。全然、仲良くなれなかった。そして、この遠足の裏テーマがオレの従者選びだ。事前に父上からそう言われていた。


 しかし、なんだろうね?あのよそよそしさ……。


 嫌われているというか警戒されているというかね。オレがドキドキしながら頑張って話しかけても、目も合わさないし、返事は何かモゴモゴ嫌そうに言うだけだ。


 確かに、昔のオレの態度は酷いものだったとは思うよ。でも、そんなに?って感じなんだけど。ぶっちゃけ、40年近く前のことだから、オレが都合よく忘れてることも多いとは思う。それにしても……。そういや、一度、家でトリスタンにもメンチ切られたことがあったわ。何だ、アイツ?


 まあ、ガキの頃のことだからこそ、強烈に印象に残っちゃってるのかもな。トラウマ的なね。ガキの項に苦手になったものは大人になっても嫌いとかあるはな。犬に追いかけられて、犬嫌いになるとか。逆に、よく食べてた食い物なんかは大人になっても好きとかね。まぁ、あの様子じゃ関係修復はもう無理だろう。オレも途中でアホらしくなって、魔獣狩りに専念してたし。


 オレが今回の人生の最重要課題としていた家中の人間関係改善はこうして頓挫した。いや、大人たちとはそこそこ関係がうまく行き始めている。特に第二騎士団の連中とは同じ細剣遣いが多いからか、かなり仲良くなった。将来の就職先だからオレも気を遣っている。だから、半分失敗と言ったところか。


 ガキどもはもういい、クソっ。最近、エリックの顔が懐かしくなってくるほどだ。今なら再び妖剣を抜いてしまうかも……。


「……ほかでもない、従者の件だ」


 父上が言った。やっぱり。もう1週間後には学園入学のため王都に出発だしね。そろそろ、決めとかないといけない。


 さて、従者とはなんぞや?ってことだが、従者とは学園における護衛と小間使いと話し相手を兼ねたような存在だ。そして、これは学園の暴力沙汰の歴史と密接な関係にある。


 学園は初代建国女王の肝入りで設立された。その目的は国内融和、具体的には、多感な時期を一緒に過ごさせることで、将来的に貴族たちを仲良くさせようというものだ。もっとも、これは建前で本音は人質とか言われることもある。


 ところが、当時の学園生たちの両親や祖父母世代は大戦国時代を生き抜いた猛者ぞろい、気の荒いこと荒いこと。そんな親に育てられた子もまたしかり。1期生から10期生くらいまでは年に一人か二人くらいは刃傷沙汰で死人が出ていたらしい。そこで、帯剣禁止の案も出たが、「騎士の魂がーっ」とか「軟弱者がーっ」とか横槍が入りまくりでポシャッた。それで、子供、特に嫡子を守るために従者制度が出来た。護衛兼肉壁だ。


 ついでにいうと、その後、王家と大公家のゴタゴタが勃発し、国内の派閥対立がエグいことになると、学園における年間の死人の数が二ケタ台に乗ってしまったことがあった。いくらなんでもマズいとなり、派閥を超えていくつかの貴族家が中心となった必死の根回しを経て、ようやく法律が出来た。剣を抜いたら問答無用で退学。抜かなくても相手を殺してしまったら、退学に加え鉱山労働送り。ただし、とある事件をきっかけに正当防衛だけはOKとなった。


 そんなこんなで、現在の学園について「私たちの頃に比べれば大分大人しくなった」と上の世代の連中は口癖のように言っている。が、今も結構荒い。模擬戦という名の暴力沙汰は日常茶飯事。それ以外のただの喧嘩・乱闘もちょいちょい起こる。そりゃ、北の帝国と年に一回は小競り合いをし、4、5年に一回はデカい戦争をしている。そんなに丸くなるわけがない。だから、いまだに従者制度が残っている。


 特に武官系はねぇ。昔から強い奴が偉いという思想が蔓延しこびり付ている。なかでも新入生は激しかった記憶がある。上下関係をはっきりさせないと気が済まない奴らばかりで、まず同じ派閥の中、次に他派閥と、と言った順番でやっていくことになる。上級生ともやるバカもいた。尚武の気風と言えば聞こえがいいが、やってることはその辺のスラム街と同じだ。ちなみに、前のオレは従者に戦わせてた。……いや、そういう制度だから。


「誰か……、これはと思う子はいたか?」


 父上が聞いてきた。うーん、困ったな、と思ったが、しょうがない。


「いや、いません」


 オレは正直に言った。「そうか……」と父上にちょっと悲しそうな顔をされた。申し訳ない気分になる。……子供に友達がいないって、親は悩むんだろうな。


「あの、オレは次子だし、別に従者なんて要らないと思うんですけど」


「まぁ、そうなんだが……。一応、ウチは代々、次子にもつける習わしになっているし、伯爵家の体面もあるし……」


 煮え切らない感じだ。ちょっと強く出てみるか。あのメンツの誰かにくっつかれるのは勘弁して欲しい。気の遣い過ぎでハゲる。


「正直なところ、気が合う奴もいないし、そもそも護衛なんてオレに要ります?」


 「うーん、まあ……」と父上は少し考えたあと、「いや、やっぱり、選んでくれ」と言ってきた。


 ……はぁ、もうダメか。


 遠足のメンツの顔を思い浮かべていく、「ないわー」としか思えん。ちなみに、前回の従者はトーマス君だったのだが、誰かに殺されかけたとかで、遠足にそもそも不参加だった。誰だ?……。


 うーん、と唸っていると、ふと思いついたことがあった。


 でもなぁ……、多分……、いや、ダメ元で言ってみるか。

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