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 着替えてから、朝食を摂ることになった。まぁ、普通そうなんだけど……。


 この夢長すぎない?


 個人的にあると信じている夢を夢だと自覚すると直に目が覚めるという法則が発動しない。おかしい。まぁ、起きたとしてもまた中の人をやる羽目になるので、いいといえばいいけどね。


 とりあえず、食堂に向かうしかない。幸いにも……というのも変だが、勝手知ったる我が家のはずだ。行き方はわかる。廊下に出る。うん、やっぱりウチの領地屋敷だな。


 おお、懐かしいななどと感慨にふけりながら廊下の窓から外を眺めていると、二つ隣の部屋の扉が開き、子供が出てきた。


 一瞬、誰かわからなかったが、弟のトリスタンだった。びっくりするやら嬉しいやら申し訳ないやら色んな感情が押し寄せてきて、テンションが上がる。


「おう、トリスタンじゃねーか、傷のほうはどうなんだ?もういいのか?」


 トリスタンとの戦いは今も鮮明に覚えている。見たところ、大丈夫そうだなとか思っていると、トリスタンはビクッとして、誰だコイツみたいな顔でオレをしばらく見つめたあと、フイっと目をそらして無言で去って行った。……ガン無視じゃねーか。

 

 ……うん、まぁ、失敗したな。アイツにしたら意味わからんわな。


 それに、オレってガキの頃から嫌われてたわ。うん、思い出した。この頃はもう普通に口きいてなかった。まぁ、パッと思いつく限りでも、お祖母様に誕生日プレゼントでもらったとかいうお気に入りの絵本に落書きしたり、なんか父上が手づから木を削って作ったのを貰ったとかいう大事にしていた木剣を勝手に持ちだして木にぶつけてへし折っちゃったりしたもんな。……ほら、弟の物は兄の物っていうし。うん、反省はしてる。はぁ、碌なことしてないな。そら嫌われるわ……。


 ジュライフィールド家がプライベートを過ごす屋敷――通称、奥館と呼ばれている――は伝統的なというか昔ながらの王国貴族の領主館だった。当たり前だ。修繕はしてるけど建て替えなんてしていない築200年物の家だからね。デザイン的なオシャレ感は皆無といっていい。


 正面から見ると、東西に横長の長方形の地下1階地上3階建ての建物で、ちょうど真ん中に玄関がついており、中に入るとこれまた真ん中に各階に通じる階段がある。3階は家族のそれぞれの個室で、西側は子供たちの部屋になっており、オレの部屋は一番西端だ。


 オレは階段を下りて2階に行く。家族で過ごす居間が見え、思わず覗きに行って、ちょっと感動した。2階は家族の共有スペースになっており、書庫とか遊戯室なんかもある。


 食堂は1階で、他に調理室や使用人の部屋などもある。地下一階は食料品などを置く倉庫になっていた。ちなみに、館の正門は北を向いている。これは宿敵たる北の帝国を睨み背に王家を守るという意思を表明したものらしい。


 オレが食堂に入ると、トリスタンのほかにも父上と兄上がもうすでに席についていた。最後に見たときと比べ、父上はやっぱりちょっと若いし兄上はまだ幼さがある。だが、そんなの関係ねぇ。オレは猛烈に感動していた。


 おぉ、二人とも生きている。


 あの致命の一撃の感触、二人の最後の表情、今でもありありと目に浮かぶ。ああ、でも、生きている。「よくぞ御無事で」とか言いそうになったのをなんとか堪えた。オレは学習する男だ。


 んっ、母上はいないか。


 母上は王国騎士団の要職に就いている。文武両道を地で行く人で、剣も学問も学生時代から優秀な成績を残してきた。どうしてもと熱烈に乞われたそうだ。補給関係のかなりの偉いさんだ。補給関係は文官系がついていることが多いが、騎士団では文官系は武官系に比べて立場が弱い。そこで、書類仕事もでき、剣の腕で武官にも睨みが効く母上のような人材は重宝されているそうだ。  


 母上は結構厳しい人だった、……オレには。ちなみに、父上はあんまりオレには興味がなさそうだった。


「おはようございます」


 オレがちょっとテンション上がり気味に朝の挨拶をすると、兄上がオレを見て驚いたような顔をした。目が合うと、サッと逸らされた。本日二度目。地味にダメージが入る。


 そういや、兄上にも嫌われていたな。勉強しろだのなんだのうるせぇからオレの方も無視してたしな。父上だけが「おはよう」と挨拶を返してくれたが、こちらは見ない。うーん……。


 シーンとした気まずい雰囲気の中で朝飯を食う羽目になった。いや、静かに飯を食うのは貴族のマナーとされている。けど、このそこはかとない気まずさよ……。久し振りに家族でご飯食べるのに、しかもこれまた久し振りに自分の手を自分で動かして食べる食事なのに、その感動は皆無だ。なんかオレのせいっぽいけど……。


 食事が終わったタイミングで、父上が厳しい顔をして今度はオレをちゃんと見ながら言った。


「デレク。9時に稽古着に着替えて、修練場に来なさい」


 ああ、これ知ってるわ。


 すぐに思い出した。千人仕合だ。そんなのあったなぁ……。


 オレは自分の部屋にトボトボと戻り、現状についていろいろ考えてみた。どうも7:3で夢じゃないかもしれない感じがしてきた。昔の、それももはや忘れていたような出来事の夢なんていまさら見るか?しかも、何から何まで滅茶苦茶リアルだし。全然目も覚めねぇし。


 となると……。


 オレ、これから千人仕合すんのかよ。クソっ。なんでこのタイミングなんだよ?夢にせよ過去に戻ってるにせよ、せめて明日からにしてくれ。千人仕合はないわ。


 千人仕合とは騎士団などで行われる立会稽古を千人連続でこなすという訓練だ。その目的は大きく別けて二つある。一つは可愛がり、要するに体罰、もっと言えば、いじめだ。生意気な新人とかやらかした奴がやられる。いろんな騎士団で行われている悪習だ。もう一つは結構まともなもので、本物の戦場で多勢に無勢になった場合でも戦い抜けるよう、体力のペース配分やらスタミナが切れてきたときの省エネで戦う方法やらを学ぶというものだ。


 今回はオレの性根を入れ換えさせる的な意味合いのイベントになるから、可愛がりの方だ。オレはこの頃からちょっと道を間違え始めていたからね。いや、いろいろ鬱屈した思いがね……。


 確か相手は子供だけで、身体強化術はなしだったと思う。得物は立合稽古用の木剣だった。アレ痛いんだよなぁ。柔らかくてよく曲がるんだけど、普通に骨が折れることもある。相手はそこそこやる連中ばかりだったから、オレが勝てる道理もなく、ボコボコにされて、ボロ雑巾みたいになった記憶がある。


 てゆーか、オレ、今10歳だわ。千人仕合は10歳のときのイベントだ。いや、今はそんなことはどうでもいいんだけどね。現実逃避だ。


 はぁ、ため息が出た。それにしても10歳のガキに千人仕合って、……まぁ、平民のガキは6歳くらいで奉公に出るらしいけど。でも、これ意味なかった……どころか、同年代の子供たちの前――そういやトリスタンもいたと思う――で恥をかかされたと思いオレが余計にやる気を失くし不貞腐れて堕落していく大きな要因の一つになったような気がする。ホント、こういう教育的指導ってマジで逆効果。


 面倒くせぇし、痛いの嫌だし、一人目でわざといいのをもらいに……、いや、ダメだ。どうせ無理矢理治癒術とポーションで復活させられるんだった。はぁ、マジでため息しか出んわ。


 ベッドでゴロゴロしながら、行きたくねぇーと思いつつ、ふと時計を見ると、もう8時50分だった。慌てて稽古着に着替えて、修練場に向かう。そういや、前はワザとちょっと遅刻したんだよな、父上をはじめ皆の視線がエグイことになってたんだわ。なんであんなことしたんだろ?アホだったんだろうな。


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