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2-16

 一般に魔剣は三種類に分類されている。低位、中位、高位だ。低位魔剣は魔剣化したてのもので新魔剣と呼ばれることの方が多い。で、この新魔剣が7、80年くらいすると、中位魔剣になると言われている。もちろん、実戦で使われていないといけないけどね。そして、中位魔剣が高位魔剣になるのだが、ここは絶対になるわけではないし、年数もまちまちだ。一説によると、200本に1本くらいしかなれないとも言われている。


 何が違うのかと言うと、要は剣身強化術と魔力剣の効果が変わる。魔力剣を例にとると、新魔剣で1,2倍程度剣身が伸び、中位魔剣で1,5倍くらい、高位魔剣になると2倍にもなるそうだ。


 さらに、高位魔剣には決定的な違いがいくつかある。


 まずは己の主を選ぶことだ。どういうことかというと、持ち運んだりするのは問題ないが、鞘から抜こうとすると、抜かれるのを拒否する。この拒絶の態様はいろいろある。どんなに力を入れても抜けない、柄の周りに空気の壁ができる、持っていられないほどに重くなる、あるいは、柄が異様に熱くなったり、静電気みたいなものを出してきたりということが起こる。


 ちなみに、主がいるときは抜くのはもちろんのこと触られることすら拒否する。ここから、主がいないときは新たな主に出会うため、剣は歩けないので持ち運ばれることだけ許容していると考えられている。


 次に有名なのは、自己修復能力だ。折れちゃったりするとさすがにご臨終みたいだが、ちょっと欠けたとか罅くらいまでなら鞘に何日か入れとけば直るらしい。これは大きい。魔剣も所詮は剣であり、消耗品だ。しかも、研ぎ師にいちいち出さなくていいのもお財布にやさしい。なにより、使い慣れない代剣で殺し合いとかしたくないもんな。


 他にも、高位魔剣で主の術が格段に強化されるのは魔剣が主に力を貸してくれるからだそうだし、剣身の色が独特なやつがあったり、刺客の存在を剣がブルっと震えて教えただの主に魔力を受け渡したとかって話もある。


 これらのことから、高位魔剣は「意志ある魔剣」とか「知性ある魔剣」と呼ばれたりもする。さらに、今のところ伝説に過ぎないが、魔法を使う魔剣があるとも言われている。ちなみに、妖剣も実はこの進化を遂げたものではないかと考えられていたりする。人の身体を乗っ取る魔法ってわけだ。


 婆さんが俺の物欲しそうな目つきに「ったく」と舌打ちしながら、オレから見て左側の二つを指し、「この2本は高位魔剣だよ。もう1本は知っているね」と言った。うん、知ってる。右端はいつも借りていた中位魔剣だ。


 つーか、凄ぇな。高位魔剣は一本で平民の家族が200年は遊んで暮らせると言われるお値段がつく。中位魔剣でも50年は固い。しかも、婆さんの愛剣も高位魔剣だったわ。全部金に換えたら5、600年は余裕で遊んで暮らせる。超がつく金持ちじゃねーか。


「好きなやつを1本持っていきな。……抜けたらだけど」


「いよっふー」


 いや、期待はしてたけど、やっぱり出るよね、声が。


「何ちゅう声を出すんだい。アンタも双子派の切紙持ちなんだから、いい魔剣の一つでも持っときな」


 そして、婆さんは「まずは、試してみな」と左側の高位魔剣二本を指し示した。


「……はい」


 いよいよ俺も高位魔剣持ちになっちゃうの?テンションMAXで手を伸ばしてかけて、ハッとして、手を止めた。


「触っても大丈夫なやつですか?」


 オレがそう聞くと、「端の奴は触れない系でもう1本はビリッと来る系だよ」と言われた。先に言え。


 オレは、まず、触れない系の方の鞘を一応用心しながら手に取った。大きく深呼吸。「ヨシッ」、……触れなかった。柄とオレの手の間に空気の硬い壁がある。未練たらしくいろいろ角度を変えても無理だった。無念……。


 ハァ、なんかもう一本の方も無理っぽい気がしてきた。持っていた魔剣を静かに元の位置に置き、隣の剣に恐る恐る手を伸ばす。が、寸前で手を止めた。


「ビリッて、どのくらいですか?」


 オレがそう聞いたら、婆さんは呆れた表情を見せつけて「早くしろ」と言いやがった。


 ちょっと怖いんだけど……。


 オレはゆっくりと慎重に鞘を右手でつかみ上げた。問題なし。深呼吸を3回。「シャッ」と気合いとともに左手の人差し指で柄にチョンと触れた。……何も来ない。んっ?チョンチョンと指で突ついてみる。


 ……えっ、イケる?どうなの?


 婆さんを見る。腰に手を当て、可哀そうな人を見るような顔をしていた。


「早く抜いてみな」


「シャーッ」と再度気合を入れて、オレは思い切って柄をグッと握った。握れた!


 ……マジか?

 

 握れる。握れたよ、オイ。剣身を鞘からゆっくりと抜いていく。ポワァーッとかすかな光が漏れてくる。おお、剣身がうっすら光ってるんだけど……。黄みがかった色だ。うっひょー、かっけー。それに夜中に便所行くとき便利そう。なんてことを考えていたら、柄がオレの手に吸い付くようにフィットしてきた。うおおっ。


 晴眼に構えて、突いてみる。二度、三度と突きを繰り返していくと、最初はちょっとあった重さをだんだん感じなくなってきた。剣の重心が変わった?すると、ニュルッとした感触が人差し指を這った。


 えっ?……。


 柄をのぞき込むと、さっきまでなかったフィンガーリングが出来ていた。オレの細剣の握りは鍔に人差し指をかけて持つタイプだ。この剣の鍔は半球状で手を上から覆うタイプだったので、持ち方を変えるか棒を柄に取り付けるかしないといけない、と思っていたところだった。それに、なんかナックルガードもジャストサイズになってるような。主に合わせて少し形を変えることがあるとは聞いていたけど、本当だったんだ。……もはや魔法生物だろ、コレ。


 オレが驚きと感動に打ち震えていると、「それは山賊討伐の戦利品さ」と婆さんが俺の魔剣の来歴を話し始めた。


「人間の屑の見本のような奴でね。結構いいとこのボンボンだったのに、実家の力を盾にやりたい放題やった挙句、人を殺して逃げたんだったかな。それが山賊のボスになってね。襲われた人たちは全て皆殺し。子供でも赤子でもだ。若い女は攫って散々嬲ってから殺す。退屈だってんで子分を殺す。まあ、クソみたいな奴だった」


「……」


「でも、強くてねぇ。確か……、ガキの頃から細剣じゃ神童と呼ばれていたとかだったかな。グローブ流だったよ。いやぁ、手古摺った。まっ、アタシもまだ若かったしね。それはソイツの剣さ」


 ……そのエピソードトーク要る?


 すると、「こっちの剣はね」ともう一つの高位魔剣をなんだか優しい眼で見ながら、婆さんが言った。


「アタシの妹弟子の剣でね。まだ40前だったてのに、病には勝てなくてねぇ」


「……」


「ああ、ちなみにアタシの剣は師匠の師匠に当たる人の剣さ」


 ……なんだろう、……いや、うれしいよ、うれしい。でも……、コレジャナイ感がエグい。


 そんなことを思いながら、手元の高位魔剣を見ていると、「コレも遣るよ」という婆さんの声が聞こえた。


 顔を上げると、婆さんがオレの前にナイフを差し出していた。タガーナイフだ。


「コレはね、師匠から弟子に、って形で代々伝わってきたものさ。アンタが弟子を取ったら、その中で一番マシな奴にあげな」


 ……鼻炎かな?鼻の奥がなんか重たくなってきちゃった。


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