2-14
秘剣か……。
そういや、ゲーリーがそんなこと言ってたな。……マジか?オレって、もしかして、結構期待されてたりすんのかな?あっ、なんか今さら緊張してきた。ちょっと、おしっこ……。
婆さんが二振りの中位魔剣を持ってきた。
えっ、魔剣を使うの?ちょっと驚いていると、「ほれっ」と魔剣を渡された。いつも借りているやつだ。
「とりあえず、身体強化術だ。魔剣にもね」
……剣身強化術まで?今から何すんだよ?
「そしたら、……メンド臭いから、ダブルで面を打ってきな」
婆さんがそう言って晴眼に構えた。一瞬で身体強化術と剣身強化術が発動している。マジで、この婆さんだけは……。
それにしても「メンド臭い」ってなんだよと思いながら、オレも術を発動させ、魔剣を晴眼にとった。そして、スッと踏み込んで、婆さんの面を突いた。簡単に左に払われる。そりゃそうだ。ダブルと言われていたので、もう一発。握力は維持したまま手首から肘にかけて脱力し衝撃を逃がしつつ剣を手元に引き戻そうとした。そのとき、手の内で剣が暴れた。
えっ?……。
慌てて剣を握り直そうとするが、左手に上手く力が入らない。婆さんの剣がオレの喉元に突き付けられていた。
はあ?……。
今、何をされた?オレは唖然として婆さんを見た。
「どうだい、これが秘剣「真受」だよ」
ドヤ顔で婆さんが言った。
これが……って、それはそうなんだろうけど、そこじゃない。どうやったんだ?原理は?オレが考えていると、「アンタももう出来るさ」と婆さんがあっさり言った。
「魔力を震わせられるようになったろ?」
「……はい」
……って、あれ魔力のストレッチじゃねーのかよ。
「最初は体の魔力、その次に剣に込めた魔力だ。できるだけ速く震わせみな」
オレは今まで剣に込めた魔力を震わせたことはない。ホントにできんのかな?と思いつつやってみる。
晴眼に構えて、ゆっくりと全身に魔力を行き渡らせ、そこから今度は魔剣に魔力を込める。術が発動。そして、体、次に剣の魔力を震わせてみた。ん、んっ、……あれっ、上手く行かない。
「体で震わせた魔力を剣に突っ込む感じだよ」
婆さんのアドバイス通りにやってみる。震わせた魔力を……、おっ、できた。
「そのまま軽く受けてみな。行くよ」
婆さんの面打ちが来た。受ける動作をすること自体がムズい。が、なんとかできた。
「うん、できてるね」
婆さんは剣を持つ自分の右手を見ながらそう言い、さらに続けた。
「一応、念押ししておくけど、この秘剣は条件が厳しい。アンタも実際に遣ってみたから、わかるだろう?」
「……はい」
オレは頷いた。
まず、魔力を震わせているので、オレ自身の身体強化術があまり効いていない状態だ。次に、そもそも、腕を動かせない。少しわかりにくい例かもしれないが、団扇で顔を扇いでいるとしよう。で、めちゃくちゃ早く扇いでいるままで、その腕を前に突き出せと言われたら、なかなかの難易度だろう。これと似た感じになる。ようするに、魔力を高速で震わせたまま動くのは非常に難しいってことだ。だから、この秘剣・真受を使って突きを繰り出すなんてことはできない。受け専用にしか使えない。その受けにしても、特に腕の魔力は高速で震わせているので、ほとんど動かせない。その結果、例えば、右胸に突きが来たとすると、晴眼の構えのまま足を出したり腰をひねったりするなど体ごと右に向いて受けるしかない。それに、なにより少し溜めが要った。
「剣の魔力だけを震わせるんじゃあ、ちょっと技の効果が弱いと思う。剣だけは難しいしね。だから、全身の魔力を震わせて、それを剣に突っ込むしかないのさ。ただ、受けた瞬間は腕の魔力だけ震えてるような状態に持って行くべきだ。よく練習しときな」
技の効果か……、ふむ、左手の握力が少しなくなっただけ……、だったと思う。かなり小さな効果と言えるだろう。だが、握力はインパクトの瞬間以外は力を入れず剣を落とさない程度しか握らない。突いたり、引き戻す動作のスピードが鈍るからだ。だから、剣がすっぽ抜けるように感じたほどだ。とはいえ、さっきのより効果がないとなると、……確かに、意味ないかもな。
「原理はわかるかい?」
うーん、実はちょっとわかったかも……。
これは身体強化術の魔力が持つとある特性を利用しているんだと思う。有名な話があって、千年くらい前、戦場で騎士のカップルが身体強化術を発動した状態で相手の頬を両手で優しく挟んだところ、頬と手の間に薄皮一枚くらいの隙間が開いていることに気付いたそうだ。そこから、「身体強化術の魔力は体の外側に漏れていること」と「他人同士の魔力は混ざらないこと」がわかった。
この「体外に漏れた身体強化術の魔力が他人の魔力とは混ざらない」という効果は、「身体強化術の魔力の効果はあくまで生物の体内でのみ発揮され、それも肉体の性能を向上させるだけだ」という当時の通説の唯一の例外――後に、剣身強化術や魔力剣がさらなる例外となる――と考えられた。つーか、震わせられるっていうのも案外知られていないような……。
ともあれ、これに人類は色めき立った。この特性を生かして見えない鎧的な術やちぎって遠方に投げる術ができないかなど様々試した。だが、全て成功しなかった。
結論としては、体表に沿ってうっすらと「ただただ自然に漏れてしまうだけ」で漏れないようにすることも漏れる量を増やすこともできない。それに、分離することもできない。まぁ、体温みてーなもんかな。また、水と油みたいなもんで他人の魔力と「ただ混ざらないだけ」で形を維持するなどの効果を付与することはできないということだ。
話が逸れた。この秘剣はこの特性を利用して、魔力の振動を伝播させることで、相手の魔力を強制的に震わせて身体強化術を解くというか緩めるものだ。相手にとっては予期せず手の内が緩むことになり、その刹那の隙を突く技だ。自分の身体強化術も緩んでいるから、かなりリスキーだと思う。
オレが自分の考えたことを言うと、「おお、正解だよ。珍しい。でも、所詮は初見殺しの騙し技にすぎない。わかるかい?」と婆さんが続けざまに聞いてきた。
一言多いんだよ、と思いつつ、そうだなと納得した。
「相手が魔剣に魔力を通していないと意味がないし、双剣術との相性も最悪でしょう。知られていれば、簡単に対処されます」
オレがそう言うと、「うん、そういうセンスだけはいいね」と言われた。……褒め言葉と取っておこう。
「それに……、遣いどころが難しいですよね。双子派スーザン流が相手の攻撃を待っているなんて、「今から何かします」と言っているようなものだし」
「そうだね。実はアタシは実戦で一度も遣ったことがないよ」
ちなみにいうと、細剣の先っぽの方はダメだが、根元の方は指2、3本分の太さはあるただの鉄の棒だから、流派によっては受け技が豊富にあるところもある。大剣の一撃をも受け止めるだとか。
「ああ、あとこの秘剣はアンタがコレはと思った者に伝えていいよ。他流でも長剣でもだ」
「……そうなんですか?ボイル道場所縁の者だけじゃ……?
「アタシも師匠からそう言われている。適性を持つ者が少ないからね。せっかくの秘剣が断絶するのはもったいないそうだ」
ほえー、そうなんだ。
「ただし、将来コレを誰かに伝えるときは気を付けないといけないことがある。まずなにより、魔力を震わせるのはセンスがいる。そして若いうちからやった方がいい。でも、魔力を震わせることと身体強化術は相性が悪い」
なるほど、確かに身体強化術は魔力をギュッと固める感じだ。正反対だ。そして、それがこの秘剣の肝だ。
「だから、ダメだと思ったらすぐに止めさせるんだよ。身体強化術が下手になるからね」
「……ダメだと思う基準は何ですか?」
オレが聞くと、婆さんはスッと目を逸らした。
「……勘だよ」
……おい、ババア。オレの目を見て、もう一度言ってみろ。
それから、他の流派の秘剣もこんな初見殺しの騙し技が多いらしいとか、魔獣――魔獣も第一次魔獣凶悪化以降、身体強化術を使う――相手にも使えるとか教わった。ああ、あと「真受」という名前は「震」と「真」をかけているらしい。
そして、オレが「よくこんな秘剣を思いつきましたね」と感心すると、婆さんは真面目な顔になって「魔力を震わせることは双子派究極奥義「双子」のための第一歩とも言われているよ」と言っていた。例のアンジーの分身術だ。ただ、……詳細は失伝しているそうだ。
なにはともあれ、無事、奥義と秘剣の伝授が終わったようだ。
……展開が早すぎて、全然実感がないけど。




