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2-12

 今日はフランクの屋敷に稽古に行った。最近のオレは絶好調と言っていい。剣でも無手でも、もはや敵なしの状態だ。素晴らしい。


 ただ、一つだけ不満なのは、ここのところエリックが来ていないことだ。アイツこそボコりたい。腕を骨折したとか聞いたけど、もう2ヶ月近く経っている。リナに聞いたら、「誰にも会いたくないと言って、家に引き籠っている」そうだ。腕だけじゃなく頭の方も診てもらうべきだろう。


 ……あと一つ心配事もあった。リナのことだ。リナは最近、生傷が絶えない。この前も、目の上にデカいコブを作っていた。例の件以降、少し無茶をしているようだ。リナのことはオレが守るから、そこまでしなくても……。いや、これはアレだよ……、騎士が友のために体を張る的な……。


 ……でも、守るって言っても、今のオレでは中途半端過ぎる。せめて、婆さんから一本くらいは取らないと。


 婆さんの家の近くまで帰ってきたら、道端に誰かがしゃがんでいた。オレは足を止めることなく歩き続けながら、腰の細剣の鞘に右手を添えた。ソイツがオレに気付いたのか、立ち上がった。エリックだった。


 エリックの雰囲気がいつもと違う。人をナメくさったようなチンピラスマイルは影も形もなく、恐ろしく無表情だった。「氷の貴公子」の復活だ。


「よう、エリック。久し振りだな」


「……ああ」


「腕の方はどうなんだ?」


「……ああ」


「……?」


 何か俺に用事があるんだろうと待っていたが、エリックはムッツリと黙ったままなかなかしゃべりださない。


 ……何だ?


 オレがちょっと戸惑っていると、ようやくエリックが口を開いた。


「例の大型魔獣の件だけど……」


 そう言うから、新しい調査結果でも教えてくれんのかと思ったんだが、違った。


 エリックの話によると、子供たちにダゴ池を見せてやろうと思ったそうだ。リナは反対したけど、強引に池まで行ったところ、アレが出た。逃げたが、あっさり追いつかれ、初撃でエリックは腕を折られたらしい。で、リナが殿を買って出た。「子供を連れ、ついでに援軍を呼んできて」と言われたとか。


 へー、そんな感じだったんだ。リナは「池に行ったら、アレがいた」としか言ってなかった。


「リナが死ぬ気なのはわかってた……。でも、ガキどももいるし、片腕の俺じゃ時間稼ぎもできねぇ。だから……」


 エリックが黙り込んだ。さっきから全然コッチを見ない。


「俺は自分が考えなしのバカだってわかっているんだ」


 しばらくして、エリックが唐突にそんなことを言い出した。


「周りの大人からもよく考えてから行動しろとしょっちゅう言われてるし、リナやフランクの言動を見てれば嫌でも気付く」


 お、おう。何?


「でも、考えるより先に体が動いちまうのは生まれ持った性分だし。拙速を尊ぶとかって話も聞いたことがある。それに、今までは何とかなってた。で、深くは考えてこなかった」


「……」


「今回の件はさすがに堪えた。もしリナが死んじまっていたら……。そう思うと、俺は此処にいない方がいいんじゃないか……」


 またもエリックが黙り込んだ。


 いやいや……、コイツどうしたんだ?


 かなりの沈黙の後、エリックが今日初めてオレを見た。


「お前はムカつくとこもあるけど、俺よりはるかに強ぇし、なにより俺に気なんか遣わねぇ。……正直に答えろ。俺は強くなれるか?」


 へっ?……。


 まったく話が見えない。論理の飛躍がエグ過ぎる。だけど、オレはその答えを知っていた。


「……ああ、お前は強くなれるさ」


 オレがそう言うと、なぜかキレられた。


「テメェ、面白がってんじゃねぇぞ。俺は真剣なんだ。ちゃんと答えやがれ」


 はあ?……。


 殺すぞ、ボケ。だが、今日のコイツは明らかに様子のオカシイ人だ。触らぬ神に祟りなし。もう一度答えてやった。


「お前は強くなれる」


 そこで、オレはハッとした。コイツは前のときと違って物凄いバカだった。一応保険をかけておくべきだ。後でなれなかったと苦情を言われても困る。


「ちゃんと、死ぬ気で修行すればな」


「……死ぬ気でか?」


「当たり前だろ?生温い修行で強くなれるかよ」


「ヘヘッ、そりゃそうか」


 エリックがニヤリと笑った。


 それから、エリックは何か言いかけてやめ、視線をあちこちに飛ばしだした。エリックはしばらくそうしていたが、首を大きく2回振って、ふーっと息を吐いた。そして、オレを真っ直ぐ見た。静かな眼をしていた。


「一応、礼を言っとくぜ。ありがとよ」


 エリックはそう言うと、クルッとオレに背を向け、そのまま走り去って行った。


 ……何しに来たんだ、アイツ?


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