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2-11

 今のは危なかった……。


 本当に紙一重で何とか躱せた一撃だった。デレクのあの初伝の四の型のカウンターの冴え。なにより仕掛けてからの誘引が絶品だった。このアタシがふっと引き込まれるように思わず手を出してしまった。


 師としては嬉しい限りだが、まだまだ負けてやるつもりはない。その後、少し気合を入れ直して、デレクをボコボコにしてやった。


「ありがとうございました」


 まだ残って、道場の掃除をするデレクが言うのに、「お疲れさん」と応えて、アタシは部屋に戻った。


 デレクの剣がここのところ急激な成長を見せていた。


 この成長ぶりのきっかけはわかっている。


 1月ほど前のことだ。デレクがアタシの代わりに行ったアルカンタラ大森林魔宮でリナと大型魔獣を仕留めた。だが、その直後に何者かから襲撃を受けた。大型魔獣は不意を突けたからそこまで危ういことはなかったらしいが、襲撃のほうはかなり危なかったらしく、本当にただ運がよかっただけだそうだ。なんでも、転んだことでたまたま魔法を避ける形になったとか。


 その日以来、デレクの顔つきが明らかに変わってきた。それまでのぬるま湯に浸りきったクソボンボンの顔から責任ある大人の顔……は言い過ぎか、それでもかなり精悍な顔つきになってきている。アタシは内心びっくりだ。


 ただし、襲撃してきた連中には逃げられてしまった。ロウ男爵家をはじめ海賊派の八家が跡を追った――娘が襲われた以上、メンツにかけても探し出さねばならないだろう――が、行方はようとして知れない。


 それに襲撃の理由もよくわからない。普通に考えれば獲物の横取りだろうと思う。しかし、ほとんど同時に放たれていた2発目の魔法は魔獣の頭部に着弾したそうだ。かなりの遠距離だったそうだから、「アンタたちを狙ったけど外れたんじゃないの?」って聞いたら、デレクはしばらく考えたあと、「勘に過ぎないですけど、アレは最初から魔獣狙いだったと思います」と言っていた。これから横取りする獲物を傷つけるバカはいない。横取りではないのかもしれない。


 では、ロウ家に恨みがあるとかで、リナ狙いだったのか?それもしっくりこない。襲撃者は4人だったそうだが、魔宮に魔術師だけで入るのは自殺行為だ。魔法には詠唱が必要だから、剣士の援護は不可欠となる。少なくとも1人は剣士がいたはずだ。いや、魔法が2発だけだったことから考えて、2人いたと思う。そうすると、戦術としてはとにもかくにもまずは剣士をデレクたちの近くまで行かせてから、魔法を放つはずだ。魔法を囮にして剣士が不意を突くとか、その逆でもいい。でも、そんなことはせずに遠くから魔法を放っただけだ。結果、討ち漏らした。おかしいだろう。


 となると、愉快犯?けど、風魔法も火魔法もとんでもない精度だったって話だ。それほどの魔術師がそんなことする?……まあ、最近は訳の分からないヤカラも増えているからねぇ。有り得るのかもしれん。


 結局、デレクも「わからない」と首をひねっていた。


 まあ、わからないことはいいとして、バカ弟子の話だ。


 生命の危機に瀕するような修羅場を潜り抜けた経験が成長を促したのか……、まぁ、それもないとは言えん。だが、アレは……。


 女だ。リナ・ロウだ。


 明らかに、二人の関係性が変わったと思う。お互いチラチラ盗み見し合ってるし、目が合うと赤い顔になるし、暑い、暑い。かと思えば、触れ合わんばかりの距離で頬っぺた上気させて楽しそうにおしゃべりしてるし、カーッ、年寄りは体が痒くてたまらんわ。


 あの子も「先先の先」を謳う双子派スーザン流の剣士ならさっさと押し倒しゃいいのに。……アイツら、お貴族様のお坊ちゃんお嬢ちゃんだったわ。ダメか。


 アタシも長く生きて色々と見てきた。男女関係なく、異性の存在が人に大きな影響を与えることは多い。そして、男、特に若い男は爆発的に変わる。急激に信じられないくらい伸びる、デレクみたいに。男は単純なのが多いからねぇ。それに、若い男は性欲モリモリだ。いやらしい。女にいいとこ見せるためだけに命すら懸けられる生き物だ。


 だけど、これでデレクも「心・技・体」すべてがとうとう揃ったといえるだろう。


 あの子はもともと「技」の素養は持っていた。此処に来てから、アタシが修正し磨き上げてやったから、もう今となってはどこに出しても恥ずかしくないレベルだ。まぁ、ちょっと感覚派過ぎるところはあるが……。ついさっきまで欠片もできていなかったことが、右向いて左見たらもうできているときがままある。


 それに、「体」も大分鍛えてやったし、今はアレで十分だろう。まだ、14かそこらだ。これから、もっと成長し体も強くなっていく。あとは、本人の鍛錬しだいだ。大体、あの身体強化術があれば今でも何の問題もないしね。


 ただ、デレクには「心」が欠けていた。これは不思議なことだった。あれ程の「技」を習得するのは「心」がないとできないはずなのに……。


 そもそも、「心」とはなんぞやという話だが、いろんな考えがあるとは思う。なかには「人の道」だとか言って小難しい精神論をする奴もいる。でも、アタシは「強くなりたいという想い」だと思っている。理由はなんだっていい。金が欲しいでも、親の仇を取りたいでも、試合に勝つのが楽しいでもいい。


 その「想い」がデレクにはないように感じていた。なんていうか、現状で満足しているというか、これ以上は強くなれないと思っているというか。結構キツイ鍛錬に耐えていたが、それもどうも家に帰りたくないという消極的な理由でやっているようだった。「強くなりたいという想い」は全く感じなかった。アタシにコテンパンにされても、普通に受け入れているというか、勝てっこないと初めから諦めているようなところがあった。


 ホントに物足りなかった。これほどの「技」がもったいないと思った。けど、こればかりはアタシはもとより誰か他人が教えられるものじゃない。「想い」は自らの内から自然と湧き上がってくるものだ。この子には無理かな、と諦めかけていた。ところが、コレだ。


 フフフ、弟子の成長は師匠冥利に尽きる。ただ、もうじきあの子はジュライフィールド家に帰らなくちゃいけないはずだ。まったく、もっと早くに……。まっ、何とか間に合うかな。いや、間に合わせる。アタシの唯一の心残りもこれで……。


 とはいえ、たかだか14歳のヒヨッコにまだまだ一本も取らせるわけにはいかないがね。


 ……ちょっと徹夜のポーカーは控えようかね。


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