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倒れ伏した魔獣の頭のすぐ横でへたり込んでいるリナと目が合う。助けるのをやめて帰りかけたことを思い出して、オレは思わず目を逸らした。すぐにマズいと思い、辺りを警戒するかのようにグルっと視線を巡らしていく。かなり大きな池があることに初めて気づいた。だが、今はどうでもいい。
落ち着け。
オレは自分に言い聞かせた。黙ってりゃ、バレようがない。大丈夫だ。
リナの顔が頭に思い浮かんだあとのことはよく覚えていない。頭の中が真っ白になって、気付いたらここにいるって感じだ。てゆうか、なんか大型魔獣を倒しちゃってるし、逃げる予定だったような……。
「デレク……。ありがとう」
「お、おう……、たまたま通りがかっただけだ。気にすんな」
……何言ってんだ、オレ?もっと、他に何かあるだろ。ま、まあ、間違ってはいないか……、などと考えていると、リナが見たこと無いくらい真剣な顔で言った。
「命の恩には命で返すのがロウ家の流儀だ。何かあったらこの命いつでも使って欲しい」
「いやいや……」
結構長いことボーっと見ていただけだったことが思い出され、居たたまれない気持ちになった。
「お、大袈裟なんだよ。……今度、飯でも奢ってくれ」
ダ、ダメだ。なんか、もっと、リナの気持ちが軽くなるような、こうユーモアを交え……って、それどころじゃない。
鼻に入ってきた血の匂いがオレに気付かせた。このままここにいるのはマズい。大型魔獣の血に釣られて、新たな魔獣が来る。そして、リナはもう完全に戦力外だ。普段なら俺一人で勝てる魔獣でも、リナを庇ってとなると……。
「立てるか?」と言って、オレはリナに手を差し出した。リナが手を掴んだので、引き上げようとすると、オレも疲れていたのか、思ったより足に力が入らなかった。オレはリナの上に覆いかぶさるように倒れこんだ。
まさにその瞬間だった。オレの後頭部スレスレを何かがゴウッと音を立てて通り抜けた。
へっ?……。
オレは何かが通り抜けていったと思われる方を見た。少し離れたところにある大木といっていい木がスパッと切断され、ゆっくり倒れていくところだった。ハッとして、何かが来たであろう方に振り返った。デカい火の玉が飛んで来ていた。
あっ、死んだ。
妙に冷静にオレは思った。しかし、火の玉はオレたちの真横にあった大型魔獣の頭部に着弾した。ドンっと爆発音がし、魔獣の血や肉に土や石やらがオレたちの体を叩いた。
えっ?……。
火の玉が飛んできたと思われる方を見た。池の向こう側に人が4人いた。ローブのフードを目深にかぶっているので、顔は見えないが、ソイツらがコッチを見ているのはわかった。
一瞬焦ったが、大丈夫だと判断した。今すぐに魔法が飛んでくる気配はないし、今から詠唱を始めても余裕で逃げられるだろう。それに、剣士がいたとしても、池の周りをグルッと半周しないといけない。その間に逃げられる。一応、左右と後ろを確認した。
しばらくすると、4人組はオレたちに背を向け去って行った。
クソっ、アイツら何だ?
普通に殺されかけたんだが……。オレはそう思うものの、今はここを離れるのが先決だ。オレは「おぶされ」とリナに背を差し出す。リナは「ゴメンね」と言って、背に乗った。オレは走り出した。
「デレク、ソッチじゃない」
「えっ……、どっち?」
肩越しにヌッとリナの手が伸びてきて、左側を指さした。オレは再び走り出した。そのとき、とある考えが頭をよぎった。
もしかして……、オレって方向音痴なのかな?




