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2-5

 アルカンタラ大森林魔宮は頂点が南を向いた逆三角形の形をしており、王国と帝国の国境のかなり西よりのところに両国にまたがって存在している。大陸南部を制している、つまり、大陸の約三分の一の国土を誇る王国の半分超もの広さがあるといわれ、大陸で2番目の巨大魔宮だ。で、その頂点付近の東側がスー男爵領で西側がヒュー男爵領となっている。ちなみにいうと、アルカンタラ大森林魔宮は北の帝国側の方が強い魔獣が多く、かつ、大氾濫の頻度も高い。ざまぁみろ、帝国のカスどもめ。


 オレはアルカンタラ大森林魔宮からの帰りで、ちょうど戦利品の魔獣の素材を換金しに行くところだ。今日はオレとリナとフランクとエリックの四人で狩りに行ってきた。ちょっと時間を見誤って遅くなったのには参った。もう昼の2時は過ぎている。


 「ハラ減った。死ぬ」とオレが言うと、「私もだよ」と困り眉をさらに困ったようにしてリナが応えた。


 こういう顔も可愛いんだよなぁ。


 リナは前の人生を含めて初めてと言っていいほど親しくなった女子だ。……なんかちょっと虚しい。あっ、ハニトラ女のことを久々に思い出しちゃった。クソっ。でも、あのクソ女とは全然違う。オレに向ける笑顔に邪気がない。あのクソは目が笑ってなかった……ような気がする。


 リナはホントに優しくて良い子だ。こないだはオレも気づいてなかった服のほつれを繕ってくれた。「直ったよ、はい」って渡してくれた時のリナの笑顔はマジでまぶしかった。


 ……クッ、オレはチョロくない。チョロくないったらチョロくない。


 リナの笑顔は周りも明るい気持ちにさせる笑顔だ。性格もさっぱりしている。はきはきしゃべってよく笑う。あんまり出しゃばってあれこれ口を挟まないが、陰のリーダータイプで、エリックがなんだかんだリナのいうことはよく聞く。おまけに剣もよく遣う。


 ……いや、ちゃんとわかってるよ。


 モテない男は女子にちょっと話しかけられただけで自分のことを好きなんじゃないかとかキモい勘違いをするらしいけど、オレはそんなことはしない。つーか、オレはモテないんじゃなくて硬派なだけだしね。それに、そもそも、友人として好ましいっていうだけだ……。うん、決してそんなんじゃない。


 最近になってよくリナ達とアルカンタラ大森林魔宮に魔獣を狩りに行くようになった。他の海賊派の連中も来たりする。前の人生でも見知っていた魔術師のポーラ・カーとかもいた。婆さんが「対魔獣の経験も大事だから」って言うしね。いや、オレは魔宮なんか行き慣れている。中から見てただけだけど……。でも、見てただけってのもバカにはならない。何をどうすればいいのか知っているのはデカい。実際、最初はちょっとビビってたけど、すぐ慣れた。


 何でそんなことになっているのかというと、アレ以来、エリックのバカが来なくていいのにちょくちょくウチに来やがるようになったのがきっかけだ。そしたら、リナ達も来るようになった。婆さんも「長剣との戦いの勉強だ」とか言って認めてるから、オレにはどうしようもない。てゆうか、エリックの住むヒュー男爵領はスー男爵領の隣領とはいえ、アルカンタラ大森林魔宮とバジ川が間にある。わざわざいったん南のリナの住むロウ男爵領に迂回してから来るらしい。魔馬と川船で1時間半はかかるそうだ。暇な奴だ。まぁ、リナも来るようになったので、悩ましいところではある。


 で、そんなこんなしていると、オレには全くよく分からない成り行きで、逆にオレがフランクの家に稽古に行ったりするようになった。エリックたちはもとより、スー男爵家の家中の子とかときおり大人とも稽古している。婆さんが「いいから行け」ってさ。いや、ホント、なんで?


 とはいえ、フランクの家でのシンシャ流との稽古は新鮮で面白かった。普通は剣を叩き落されたりして無手になると、そこで勝負ありとみなされ、終わるものと思っていた。だが、奴らは違う。そこから体術勝負に移行しやがる。オレがナックルガードの部分で相手の剣を弾き飛ばして、終わったと思っていたら、正拳突きを顔面に喰らい、何が起こったのかわからなかったよ。


 オレが中の人をやっていたときもシンシャ流と戦ったことはなく、最初は戸惑った。本気のアイツらはオレが相手だと剣を盾代わりにして、体ごとぶつかるように突っ込んできやがる。アレには参った。ハナから剣をまともに振る気がないんだもん。それで体を掴まれでもしたら、もう終わりだ。どうやら、初めて来たときも含めてフランクたちがウチに来るときは剣を教えてもらいに行くのだから、無手の技を使うのは失礼に当たると考えて使わなかったそうだ。……オレが手加減されてたの?


 まっ、それでも、当初から剣を持っての稽古なら5本中4本は取ってたけどね。でも、無手の稽古になるとねぇ……。5本中1本取るのがやっとだった。だって、むちゃくちゃ無手の技のレパートリーが豊富なんだもん。なんでもシンシャ流はもともとは無手の技から始まったそうだ。それに距離が近過ぎて、オレのステップの効きが悪いしね。


 だけど、最近は剣を持っての稽古では10本中9本は楽に取れるし、無手の稽古でも5本中3本は何とか取れるようになってきている。ちょっとしたコツを掴んだ。要はどうやって自分の間合いで戦い続けるかってことだ。そのための距離を取るための前蹴りが大分磨かれたよ。相手を突き離すんじゃなく、相手の体を蹴ってオレが後ろに飛ぶみたいなイメージだ。それに、接近戦に持ち込まれたときでも、肘や膝、頭突きなんかの技量が上がったと思う。もっとも、掴まれるとねぇ……。面白いように投げ技だの関節技だの締め技を決められることになる。


 エリックの野郎に裸締めを喰らって締め落とされたのは一生忘れん。オレがタップしているのに気付かなかったとかぬかしやがって。それからはオレもアイツには余計な追撃の一発を入れるようにしている。


  ……しかし、オレ、海賊派に馴染んでんな。これは最近よく思う。


 前回のオレじゃ考えられないことだ。前のオレは海賊派を毛嫌いしていた。いや、オレだけじゃないんだ。多くの貴族がそうだった。


 というのも、海賊派は王国のみならず大陸中の貴族の中でも異端といっていい存在だ。


 そもそも、海賊派という呼称は出自が海賊だからというそのままの意味とともに、お前らは貴族じゃないという侮蔑や反感が込められていたりもする。ぶっちゃけ、王国貴族の中には出自が怪しいのが結構混ざっていた。大戦国時代のどさくさにまぎれて、香具師やらサンカやら山賊やら盗賊やらが国盗りに成功している。海賊派もこの口だ。だが、普通は、その出自は虚偽の経歴で糊塗する。領民や他の貴族に舐められないためなどの為政者としての嗜みってやつだ。でも、海賊派はそれを隠さない。これにカチンとくる貴族は多い。隠してるウチがカッコ悪く見えるってなもんだ。


 それに、なによりも、全ての貴族が等しく持つ絶対的な価値観である家名を遺すというものを軽視している態度が嫌われている。家名を遺すというのは単純に家の名前を継いでいくっていうだけではなく、血をつないでいくという意味だ。しかし、海賊派の八家はこれを全く重要視していない。というのも、八家の当主はその家の前当主の指名と他の七家の当主の承認で決まる。もうこの時点でおかしい。当主選定に他家が入ってくるなんてあり得ない。さらには、全く血のつながりのない者が指名され、養子になって当主を継ぐことが普通にある。いやいや……、家名を遺すことに命を懸けてきた連中からすれば喧嘩を売ってるのかとしか思えないだろう。もっとも、海賊派曰く「当主はその器量がある奴が継ぐべきだ」だそうだ。


 他にも、家名の短さとかね。今は違うよ、短い家名も多い。でも、昔は長い家名ほど力がある家みたいなノリがあった。それなのに、「スー」だの「カー」だの「ソウ」だの「ヒュー」だのね。しかも、なんかテキトーにつけた感が半端なくあるし。家名を軽視していると思われる一因だ。せめて3文字にしろよ。2文字はないわ。貴族的には1文字とはいえ印象が大きく変わる。今は3文字の家名もかなり多いしね。ちなみに、我がジュライフィールド家は結構長い家名にあたり、大戦国時代どころか統一大帝国時代の歴史書にも家名が載っている由緒正しき大貴族である。


 あと、出自が怪しい者でも平気で受け入れることもよく知られていて、どうなの?と思われている。盗賊崩れでも気骨があるとか言って家臣にするし、遊女やら南の大陸の人間やらも能力次第であっさり家中に受け入れている。「来る者は選び、去る者は追わない」がモットーだとか。まぁ、貴族的にはちょっとねぇ。


 海賊派の八家の内訳は伯爵家1、子爵家1、男爵家6だ。カー伯爵家は王家に帰順したときに海賊派の頭を張っていた家だ。別に、このカー伯爵家がずっと海賊派の頭ってわけではなく、代によって変わる。ついでに言うと、リー子爵家は二代国王のとき男爵家から戦功で昇爵したのだが、これは海賊派の八家が誇る鉄の結束を乱すための離間の計だったと言われている。まったく効果はなかったけど。


 いや、海賊派ももうちょっとほかの貴族に合わせれば、もっと楽に世渡りできるのにと思わんでもないが、それが彼らの矜持ってやつなんだろう。


 もっとも、海賊派に大っぴらに喧嘩売る貴族もいないしね。海賊派はどの家も武力も経済力も抜群だからな。


 魔獣の素材の換金にはオレとエリックが行く。いつも大体そうだ。あんなガラの悪いところにリナは行かせられないし、フランクはここの領主家の息子で誰に貴族だと気付かれるかわかったもんじゃないからだ。なんせ完全にお忍びだからね。いや、ここが凄いところだよ。護衛なんかいないからね。ガチでオレ達だけで狩りから何から全部やっている。普通の貴族家じゃ考えられないと思う。さすがは海賊派だよ。だって、魔宮なんか普通に死ぬリスクがあるし。街中だって貴族だから誘拐とか暗殺のリスクがある。そのことをフランクに言ったら、「そのときはその程度の器量だったってことだよ」って言ってた。いつかオレもそんなこと言ってみたい。


 ……んっ?でも、よく考えたら、オレの扱いもたいがいヒドくね?護衛もなしでここまで旅させられたような……。あの頃は子供に戻ったばかりで貴族的な感覚が麻痺してたけど……。なんか悲しくなってきた。……全部ゲーリーが悪い。


 オレ達がいつもの店に入ると、まぁまぁ人で混み合っていた。ピークは正午前と夕方の4時から5時くらいだ。儲かってんなとか思いながら、魔獣の素材をタイミング良く空いたカウンターに持って行く。すると、突然、「横入りしてんじゃねーぞ」って後ろから怒鳴られた。オレがすぐに動けるように体をリラックスさせながら振り返ると、ガラの悪いおっさん共がいた。三人だ。「おら、さっさとどけ」と真ん中の額に傷のある男がオレに凄んできた。


 いやいや、明らかにお前ら今来たところじゃねーか。こういうことはこれまでも何回かあった。ガキだから舐められるんだよなぁ。これだからリナに換金なんてやらせられないんだ。小汚いハンターどもの臭いツバが飛んで来たらかわいそうだ。


 中の人をやってるときもこんなことはよくあった。所詮ハンターなんてこんな連中ばっかだ。対処法はシンプルだ。どうせ殴り合いになるんだから、四の五の言わずにサッサと終わらせるに限る。身体強化術はナシ、使うと騎士団案件になって大事になるからね。


 オレは無言で額に傷のあるおっさんの顔の前に腕を突き出し左手の掌を見せ、それと同時に前蹴りを金的にブチ込む。そして、おっさんが股間をおさえてちょうどいい高さになったその顔面を膝蹴りでカチ上げた。


 「この野郎」とか言いながら残りの二人がオレに向かってきた。コイツらちょっと反応が鈍すぎない?オレは左側の奴の横腹にエリックが膝を入れるのを横目で見てから、右側の奴のオレの顔面へのパンチを首を横に傾げて避けながらカウンターの左肘を合わせた。モロに顎にヒット、少し甲高い音がして、ソイツが前のめりに倒れた。


 エリックの方を見ると、もう気を失ってるクサい奴の髪をひっつかんでガンガン膝を入れまくっている。「おい、殺すなよ。面倒だ」と注意した。まったく。


 倒れているおっさん共に目を戻すと、最初にヤッた額に傷のある方がうめき声を上げながら起き上がろうとしていたので、その側頭部を蹴り飛ばしておとなしくさせる。


 いつの間にかできていた野次馬共の壁から「もう終わりかよ」とか「ガキ相手に情けねぇ」とか「またあのガキか」とかの声が聞こえてくる。まぁ、毎度のことだ。


 さて、換金するか、と思ったが、「おう、デレク、邪魔になるしコイツら片づけた方がいいんじゃねーか?」とエリックが言ってきた。「それもそうだな」とオレが倒れている奴らの足首を掴んで外に持って行こうとすると、「何してやがんだ、テメーら」と今度は入口の方から怒声が聞こえた。見ると倒れている奴らと似たようなおっさんが二人いた。お仲間のようだ。


 「ここじゃ皆の邪魔になる。表に出ろ」とオレが言うと、手前にいたおっさんが「お前は殺す」と言いながらオレに背を向けた。コイツ……マジか?アホ過ぎる。オレはその背に思い切り飛び蹴りをかました。



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