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2-4

 オレたちがお互いに名乗り合ったところ、やっぱりチンピラはエリック・ヒューだった。そして、デカいのはフランク・スーだ。だろうねって感じでオレに驚きはない。コイツらこんなガキの頃からツルんでたのかってだけだ。だが、女の子は「リナ・ロウ」と名乗ったが、名前も顔も全く記憶にない。ちなみにオレは「デレク」とだけ名乗った。


「それで、アタシに何の用だい?」


 婆さんがそう聞くと、フランクがかなり丁寧な口調で言った。


「先生の御高名を耳に致し、できれば一手の御指南を頂けないかと思い、参りました」


 婆さんが少し考えてから言う。


「アタシはもう年でね。弟子でいいかい?」


「もちろんです。是非」


 というわけで、立会うことになったんだが、「一番手は俺が行くぜ。あのガキ、なんか顔がムカつくわ。ボコボコにしてやんぜ」とかバカが言っているのが聞こえてくる。しかも、フランクが婆さんに口上を述べている間ずっとエリックはオレにメンチを切ってきた。


 ただ、オレはムカつくどころか、戸惑っていた。


 ……コイツ、キャラ違い過ぎない。


 ここスー男爵領を含めこの辺の八つの領地は海賊八家あるいは海賊派と呼ばれてる連中が治めている。ちなみに海賊派は王国の派閥の中では中立派に分類されている。


 エリックは前世では次世代の海賊派の領袖とみなされていた。文武共に優れ、剣は学園在学中に切紙を貰ったほどの腕だった。しかも、カリスマ性もあって、集団の中にいても誰がどう見てもコイツがボスだってわかるほどだった。断じてこんなキャンキャン吠えるチンピラキャラではなかった。いつも冷静で落ち着いた態度で、ほとんど表情を変えることのない澄まし顔の男だった。オレは全くそうは思わなかったが、女共には顔面そのものも男前と評価されており、「氷の貴公子」だのと呼ばれて、キャーキャー言われていた。マジでムカつく。


 それが……コレ?えーっ、うーん、とかオレが思っていると、「おら、早くしろよ。ビビってんのか?」とエリックが言ってきやがった。さすがに戸惑いよりムカつきが大きくなってきた。オレはもう一度、エリックをじっくりと値踏みしてみた。うん、勝てる。キャラ問題はいったん置いておいて、これはチャンスでは?  


 ぶっちゃけたところ、前の人生ではオレはコイツにビビッていた。だって、クソほど強かったんだもん。学園の剣術の授業とか大会でド素人のオレから見ても他の奴とは格が違うのが分かったほどだ。


 ただし、今この時、オレが負ける要素が見えない。前にも言ったと思うが、相手の力量を図る眼は中の人をやっていた30年の間に磨かれている。


 ここでボコボコのギタギタにして格付けを済ましてやる。 


 学園ではなんのかんのと再戦を避け、勝ち逃げ状態をキープする。そうすると、のちのちコイツが強くなってもずっとマウントを取り続けられるというわけだ。というか、再戦する気も起きないように心をへし折ってやることすら今ならできるかもしれない。


 フフフ、完璧だ。モテ男には死あるのみ。


 とりあえず、煽っときますか。


「師匠、アイツら貴族なんでしょう?適当に負けてあげればいいんですか?」


オレはエリックに聞こえるように大声で聞く。


「本気でやりな」


「ええぇー、マジですか?弱い者いじめみたいで嫌なんですけど」


 オレとエリックが開始の位置で着き向き合うと、エリックはオーソドックスな中段に長剣型の木剣を構えた。コイツらがおウチからわざわざ持ち込んできていた木剣だ。あと、ルールは身体強化術ナシだ。そりゃそうだろう、剣を学びに来たって建前なのに、身体強化術でゴリ押しするとかダメだもんな。


 確かシンシャ流長剣術だったな、とオレは古い記憶を思い出す。シンシャ流は純粋な剣術とは一味違って、剣術の型に体術が組み込まれている総合武術ともいうべき流派だ。いや、もちろん他の流派も体術は学ぶ。剣術というのはいわば表看板ってやつで、体術、弓術、槍術やら馬術まである。当然双子派スーザン流もそうだ。現にオレも体術と弓術もやっている。ただ多くの流派は剣術と体術は別個に教えている。だが、シンシャ流は剣の型の中に普通に蹴り技やら投げ技やらが組み込まれている。だから、接近戦が超得意なんだ。万が一のことを考えて。離れて戦うべきだろう。


 婆さんの「始め」の声に、オレは構えを取らず木剣をだらりと下げて普通に歩いて間合いを詰めた。


 さらなる挑発の意味もあったんだが、エリックはあれだけ威勢の良いこと言ってた割には、ブチ切れて突っ込んで来ない。まずは防御を固め、受けて返す形のようだ。顔つきも舐めた口きいていた時とは違い真剣だ。もしかしたらオレと相対して我彼の実力差に気付いたのかもしれない。


 間合いに入ったかなといったくらいのタイミングで、オレは左に行くと見せて右にステップを切った。これにエリックはあっさり引っ掛かって背後を取れた。後頭部を切っ先でチョンチョンとつついてやった。まっ、今はコイツも子供だしこんなもんか。楽な勝負になりそうだ。


 「オラ、もう一本だ」と叫んだエリックの顔が真っ赤になっている。屈辱か怒りか。二本目、今度は、逆に右に行くと見せて左に行ってみると、またもや簡単に背後を取れた。コイツ、全然見えてねぇなと思いながら、また後頭部をチョンチョンしてやる。 


 エリックはまだ下がろうとしない。フフ、いいぞ、そうでなくっちゃ、心が折れない。三本目、左に行く素振りを見せたオレに対し、エリックはいきなり見もせずに腕だけで右側に木剣を振った。ステップを見切るのは無理と判断しての、山勘だったんだろう。しかし、残念、見え見えだ。オレは移動していなかった、今度は顎先をチョンチョンしてやった。


 エリックの顔がもはや赤を通り越してどす黒くなってきた。が、エリックはまだやるつもりのようだ。四本目、初めてエリックが先に間合いに突っ込んできた。だろうね。強引に距離を潰して、シンシャ流の十八番ともいうべき組み打ちの超接近戦に持ち込むつもりだろう。でも、近付かせる気はないけどね。エリックが間合いに入ったタイミングで、いったん左斜め後ろにバックステップし、横に左・左と行ってから右に行くと見せてさらに左にステップを切った。また背後をとった。後頭部をチョンチョンする。


 五本目以降も簡単に背後を取るか、エリックが足をもつれさせて倒れるかで終わる。大体二十本ほどやったかな、赤を通り越してどす黒くなるほど猛っていたエリックの顔が真っ白になって、息が完全に上がっていた。時間的には10分ちょっとくらいとはいえ、格上との仕合は体力も気力も削られる。オレも婆さんに毎日やられているから良くわかる。立っているのもやっとのエリックにリナがさすがに見かねたのだろう、「エリック、ズルいぞ、そろそろ代われ」と声をかけた。うまい言い方だなと思った。


 代わって出てきたリナ・ロウと名乗った女の子を改めてよく見た。うん、かわいい……、じゃなくて知らない顔だわ。マジで誰だ?間違いなく海賊派の連中の中にこんな子はいなかった。断言できる。このオレがこんなかわいい子を忘れるわけがない。


 リナは慎重にオレの動きを見て戦ってはいたけど、五本中三本はオレのステップについていけず、足をもつれさせて倒れていた。残りの二本はまともに反応できず背後を取れた。もちろん、いずれの勝負もオレは首筋に木剣をそっと寸止めした。紳士だからね。


 フランクとも立会ったけど、まあ、まだまだ子供だな、相手にならなかった。でも、コイツも強くなるはずだ。それに、フランクはメチャクチャ賢かった記憶がある。常に、筆記試験ではどの科目でも1位か2位を取っていたと思う。


 立合いの後、白湯好きの婆さんが珍しく気を遣ったのか茶を出してもてなした。まあ、一応、家名を名乗られたからね。リナっていう子は人見知りをしないのか、積極的に話しかけてきた。「どこから来たの?」とか「どれくらい修行してるの?」とか「いくつなの?」とか、オレがそれに答えると、「凄いね」とか「同い年だ」とか言ってた。正直なところ、近くで見ても可愛かったという記憶以外はあいまいだ。


 帰り際になって、オレとの立ち合いが終わってからずっと静かだったエリックが「次は俺が勝つ」とかって言いだした。オレは丁寧に「ごめんなさい、オレの修行にならないので、来ないでもらってもいいですか。どうしてもというなら、せめて20年は修行してからで」と言っておいた。……でも、なんか嫌な予感がした。


 嫌な予感ほどよく当たる。3日後、「今日は勝つ」とかってエリックが来た。なぜたった3日であの実力差をひっくり返せると思うんだろう?本物のバカだな。つーか、全然心折れてないよね。


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