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2-1

 此処かな……?


 オレは農家にしちゃあ立派な建物の前にいる。石造りだ。ここまでに見た家々も同じようなもんだった。他の農村ではお目にかかれないだろう。


 しかし、ここスー男爵領でとれる穀類や野菜はその質の高さで知られている。ここで取れる小麦なんかはおいしいし栄養も豊富とかで他所のものと比べかなり高値がつくらしい。つまりめっちゃ儲かっている。


 理由は近くにアルカンタラ大森林魔宮があるからだ。魔宮の近くの土地は魔宮から漏れ出る魔力の影響を受ける。そして森林型魔宮だから、その魔力により地味豊かになり良く植物が育つと言われている。


 ただし、魔宮に隣接する土地は大氾濫の危険が高い。大氾濫――100年単位で不定期に起きる大量の魔獣が魔宮からあふれ出る現象で理由はいまだ解明されていない――が起きると高濃度の魔力が周辺の土地に振り撒かれ、かつ、それが染み付いてしまう。すると、人が住むのさえ2,30年は無理になるとされ、また、100年くらいは人が食べる穀類や野菜が正常に育たなくなるらしい。100年も経ってまた次の大氾濫が起こったりすると、結局永遠に農地にはできないことになる。だから、通常は住宅街はもとより農地なんかにはせずに大氾濫の監視を兼ねたハンター街が創られ、魔獣の素材を扱う商家なんかが店を構えるものだ。あと、普通に砦とかね。


 しかし、スー男爵領は魔宮と隣接しているが、その境界にバジ川が流れている。このバジ川はかなり流水量を誇っていて、川幅も深さもなかなかのものだ。これが天然の堀になっている。で、魔獣もそのことを知っているのか、大氾濫でもスー男爵領方面には来ない。おかげで、大氾濫のことを考えずに農地にできたという大陸でも稀有な土地だ。


 違うかったら、泣く自信がある。もう歩きたくない。


 ゲーリーがくれた手紙に同封されていたとかいうクソの役にも立たなかった地図はすでにポイ捨てしている。


 スー男爵領の領都に着くまでの道のりは順調だった。いや、出発のお見送りはしょっぱかったけど……。父上とゲーリー以外は皆シレーっとしてた。我が兄弟に至っては「なんでこんな奴の見送りに来なければならないのか」とハッキリ顔に書いてあった。……どんだけ嫌われてんだ。


 まあ、でも、道中はもしかしたら屋敷より快適だったかもしれない。こちとら30年間、旅に次ぐ旅を経験した身だ。旅慣れはしている。ウチから領都まで馬車に乗せてくれた商人たちも結構驚いていた。野宿でもグースカ寝るし、野グソも平気だし、火おこしはできるし、夜番もするし、小型魔獣は余裕で狩るし、うん、初めて領外に旅する貴族の坊ちゃんではなかったな。


 送ってもらった商人の馬車を領都で降りてから歩いて小1時間で目的のウェスト村に着いた。家と田畑しかないなぁ、とあの時は暢気に思っていた。貰った地図には家の特徴なんかも書いてあった。が、家の色とか形のバリエーションがそんなに多くない。オレにはどれも同じようにしか見えない。しかも、家と家の距離が遠いのなんの。方向感覚も途中でなくなってくる。歩いている人に「レイ・ボイル先生の家はどこですか?」と道を聞いたところ、「すぐそこの赤い屋根の家のところを左に曲がって」とか「10分ほど行ったところの青い屋根の家の角を右に」とか言われたが、その家が全然見えてこない。赤い屋根の家まで30分、青い屋根の家まで1時間かかったんだが……、君たちの距離感どうなってんの?オレみたいなシティーボーイはついていけない。かれこれ3時間くらいウロウロする羽目になった。クソが。


「御免下さい。レイ・ボイル先生のお住まいでしょうか?」


 オレは玄関で声を張り上げた。しばらくすると、「そうだよ。誰だい?」と言いつつ人が出てきた。


 まず思ったことは二つだ。一つ目はさすがに強いってことだった。どっしりと腰がすわっていて、スイーって感じに滑らかに歩いてくる。上下左右いずれにも頭がぶれない。


 二つ目は女かいってことだ。別に女剣士が珍しいとか嫌だってわけじゃない。確かに女剣士は少ないことは少ない。10人剣士がいれば女は2人か3人くらいだ。これは素の身体能力が男より女の方が低いことが原因だ。ただし、身体強化術は素の身体能力を何倍にも上げる。だから、身体強化術が得意な女は剣士になれた。しかも、細剣だけだと10人中4人くらいはいるかもしれない。それに、双子のアンジーみたいにクソ強い女剣士もわんさかいる。スーザン流の流祖も女だしね。


 オレが驚いたのは、ゲーリーって仲の良い女友達がいるタイプなんだってことだ。勝手に男としかツルみそうにないと思っていた。だって、妻帯もせずに剣に人生を捧げたとかって話だったのに。意外過ぎる。そして、なんか負けた気分だ……。前の人生も今の人生も親しい女の子なんかいないんですけど。ま、まぁ、硬派に生きているから、オレは。……いや、約一名いたな。性悪女のハニートラップ的なものに引っ掛かったというか引っ掛かりに行ったというか……。嫌なこと思い出しちゃった。


 つーか、オレはレイ・ボイルの情報をほとんど持っていない。だって、ゲーリーが教えてくれないんだもん。確かに性別はオレの思い込みで聞かなかったけど、「年は?」って聞いても、「さぁ」だし、「どんな人なの?」って聞いても「強いですぞ」だし。そのくせ、「賭場で二人して尻の毛まで抜かれるくらい負けた」とか「どこぞのハンター集団とトラブって二人で武器持った二十人くらいをステゴロでぶちのめした」などと楽しそうに武勇伝だけは語っていた。……うん、この人もヤバい人かもしれん。いい子にしておこう。


 ああ、そういや、平民出身だって聞いたな。前のオレなら気に入らなかっただろう。オレは学園なんかでも平民を公然と下に見下していた。理由はオレが貴族の尊い血を引くからだったが、今となってはね。その尊い血のオレが妖剣を抜いてあのザマだ。そして、中の人として、多くの平民を見てきたが、オレなんかよりまともに生きている人がほとんどだった。結局、身分なんか関係ねぇんだよな。ちなみに、平民なのになぜ「ボイル」という家名を名乗っているかと言うと、剣士は大体切紙を貰うくらいのレベルになると、家名を名乗っていいという慣例があるからだ。で、ボイル道場で剣を学んだから、そこから名を貰ったらしい。


 オレはなんとかショックから立ち直り、改めてよく見てみる。白髪交じりの髪を無造作に後ろで一つにまとめていて、顔の感じからして50代後半くらいか、細身で身長は女にしちゃ高めでゲーリーと同じくらいかな。


「デレクと申します」


 オレが名乗ると、「ふーん、アンタが……、へー、遅かったね」とか言いながら頭の先から足の先までじっくりと査定された。


「とりあえず、中に入んな」


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