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「えっ?……、スー男爵領に行くんですか?」
予想外の話にびっくりして大きな声が出た。
父上に呼ばれて執務室に来たら、オレの師匠が決まったという話だった。そしたら、他領に行けって言われたんだが……。ウチに呼ぶんじゃないのかよ。
「うむ」と頷きながら父上がゲーリーを見た。
「先日、デレク坊ちゃんの師の話になったとき、実は私には既に意中の人物がおりましてな。祖奴にすぐに手紙を認めたのです」
ゲーリーが説明を始めた。なんでも、その人とは若いころからの付き合いで、修行の一環として、一緒にハンターをしていたこともあったらしい。ほかにも、その人は結構大きな道場の師範もしていたことがあるとか。ところが、最初は貴族のところに教えに行きたくないと断られたそうだ。貴族と揉めたことがあったらしい。それでもゲーリーは諦めずに食い下がった。
「奴にはちょっとした貸しがありましてな。その貸しを仄めかしてやったところ、こっちに来るのなら教えても良いと返事がきました」
褒めて褒めて、と言わんばかりの態度だ。
いや、それ大丈夫なのか?脅してんじゃねーか。行ったらいびられるとか嫌なんですけど。
それ以前に、スー男爵って別に親戚筋でも何でもねーし、ウチとは派閥すらも違う。平民に毛が生えたような騎士爵ならいざ知らず、一応、伯爵家の息子のオレが関係性の全くない他領に行くのは不味いんじゃ?オレが怪我でもしたらややこしい話になりそう。護衛とかつくのかな?
とはいえ、オレも貴族の端くれだ。当主の言うことに拒否権なんぞないのはわかっている。オレが黙っていると、ゲーリーが「私の知る限り最高の双子派スーザン流の遣い手ですぞ。しかもですぞ……」とそこで少し声をひそめて言った。
「ボイル道場の秘剣を伝授されているとかいないとか」
おお、秘剣か、……ロマンがある。
秘剣というのは流派の奥義とは違うもので、各道場固有のものだって話は聞いたことがある。初見殺しの技が多いとも聞いたことがあった。
「うむ、まあ、そういうことで学んできなさい。ただ、貴族家の子供が他領に住み込みで修行に行くなど我が家はもちろん他家でも前例のないことだと思う」
そう父上が言うのに、ゲーリーが「これが前例となるのです。大体、己にあった剣を学ぶだけなのに何の問題があるというのですか?」と早口でまくし立てた。
「わかったから。少し黙っててくれ」
ああ、これはオレに言う前にひと悶着あったくさいな、と思った。
「そこでだ、デレク。お前は家名を伏せろ。スー家との面倒ごとは避けたい。それに、これはお前の師になる方の希望でもある」
ああ、そういうことね。まあ、貴族同士の挨拶とかメンドくさそうだしなぁ、家と家の貸し借りの話だもんなぁ。
……てゆうか、父上、絶対ゲーリーの勢いに負けただろ。




