序
初投稿です。暖かい目で見てやって下さい。
冬のとてつもなく寒い夜だった。王都屋敷においてオレは父上から学園の退学処分と今後家名を封じること――要するに、貴族から平民にされたわけだ――を言い渡された。一兵卒として領地・領民に尽くすもよし、他領に行くもよし、好きにしろとも言われた。
その後、オレは頭の中はもちろんのことおそらくは顔色も真っ白にして自室にいたはずなんだが、気付けばなぜか宝物庫にいて、目の前にある細剣に手を伸ばしているところだった。ハッとして、手を引っ込める。
その細剣は妖剣だった。
貴族の義務の一つとして、妖剣を管理するために――もっとも最近は、多くの貴族がその義務を履行していないどころか、そもそも義務があることすら知らない――父上がオークションで競り落としたものだ。父上から絶対に手を触れるなと何度も念押しされ、そのときに教えられたので、妖剣を手にした者の悲惨な末路も知っている。
しかし、オレは何故か妖剣から目が離せなくなってしまった。最初は明らかにヤバいことになっていると思い、宝物庫の外に出て誰か人を呼ぼうとした。でも、もうちょっと、別に見ているだけならいいだろうという気持ちになり、そのうちに風邪のひき始めのように悪寒を感じ頭がぼんやりとしてきたと思ったら、いつの間にか酒に酔っ払ったみたいに妙に気分が高揚してオレなら何でもできるという全能感が心を支配した。オレなら妖剣くらい大丈夫でしょ、てなもんだ。
そして、オレは妖剣を手に取り、抜いた。そう、抜いてしまったんだ。
すぐに何かがオレの頭の中に入ってきた。オレがまだ高揚した気分のまま、うおっ、なんだこれウケるぅなどと思っているうちに身体が動かせなくなった。妖剣にオレの身体を乗っ取られたんだ。
これは後になってわかることになるのだが、オレは身体をコントロールする能力だけを失った。五感なんかは通常通りで、目は見えているし、音も聞こえているし、痒みや痛みも感じることができた。ただし、どう頑張っても自分の意思では指一本動かせなかった。
オレは――いや、オレの身体を乗っ取った妖剣は、屋敷にいる者を出合い頭に片端から突き殺していく。そして、異変に気づき部屋から抜き身をもって出てきた父上に、「賊のようです、あちらに逃げました」などと平然と嘘を吐いて、父上が背を向けた瞬間に細剣を突き入れた。
父上は剣で貫かれながらも、必死に首をひねってこちらを向き、何が起こったのかわからないといった様子で目を見開いてオレを見た。妖剣がオレの顔で笑っていた。そして、そのまま父上は何も言わずに廊下に倒れ伏した。このときにはもうオレは正気に戻っていた。
その様子はオレの目に焼き付き、父上に剣を突き入れたあの手の感触はずっとオレを苛みつづけることになる。
それから30年くらいだろうか、後悔やら罪悪感やらにまみれた地獄の中で自分の身体の中の人――ただし、オレの意思で体は動かせないというクソみたいな人生が続くことになった。
我が家から送られてくる刺客たち。その中には、兄上と弟がいた。兄上は殺した。弟には深傷を負わした。最悪の気分だった。
他にも、王国の滅亡や第三次魔獣凶悪化により人類の生存圏が急速に狭まっていることも噂で聞いた。
さらに、別の地獄がもう一つあった。
妖剣には恐ろしい本性があったんだ。奴は連続快楽殺人鬼だった。大陸中を転々と移動しながら凶行に及ぶ。ターゲットは若い男女だ。急所をわざと外して細剣を何度も何度も突き入れる。さんざんに苦しめてから、最後のとどめの一突き、オレの顔は口が裂けるかと思うくらい笑っていた。
いや、マジで気が狂いそうだった。なんせ、中の人たるオレは目も耳も自分の意思ではふさぐ事が出来ないうえに感覚だけは生きている。強制的に凄惨な殺人シーンを見せられ、人を突き殺す感触がこの手に残り続ける。何の罪もない人を何人殺したことか。助けてと哀願する顔や悲鳴がオレの脳裏にこびりついた。
毎日どころか毎分毎秒レベルで誰かオレを殺しくれと願っていた。危ないシーン、いや、もといビッグチャンスは何度かあったのだが、妖剣はしぶとく生き残った。
しかし、終わりの日は唐突に訪れる。あっけないものだった。魔宮でのバイトの魔獣狩りで獲物を仕留めての帰り道だった。あれほど慎重で狡猾な妖剣でも油断したのだろうか、猿種の魔獣の群れの奇襲を喰らった。オレは体を食い千切られ、爪でえぐられるとてつもない痛みを感じながらも、うれしかった。……いや、ホッと安堵していた。
やっと死ねる……。
体が熱いんだか冷たいんだかよくわからなくなり、頭も回らなくなってきたと思ったら、ブチッと意識が途切れた。
そして、オレは目を覚ました。




