ご飯を食べよう! その1
《チュートリアル⑦:ご飯を食べよう!》
……ご飯。ご飯ね。
視界の端に浮かぶその文字を見て、思わず乾いた笑いが出た。
「そりゃあ、食べたいけどさ……」
問題は「ここにあるのか」って話だ。
この、石と苔と闇と、ついでにぽこりんしかいないこんな場所に。
――ぴこん。
《食べられるものを探そう!》
「……またそれかよ」
今回もチュートリアルはやたらざっくりしている。
《暖を取れそうな素材》とか《食べられるもの》とか、もう少しこう……具体的にしてくれてもいいだろ。
なんなら最初から答えを提示してくれてもいいのでは?
どうせそこへ辿り着くんだし。
チュートリアルなんだから。
ぐぅぅぅ。
「……っ」
腹が鳴った。
一度「腹が減っている」と意識するとダメだな。
急に空腹感が前に出てくる。
今、何時くらいなんだろう。
腹の減り具合で時間が分かる、みたいな描写を漫画でたまに見るけど……正直あれ、意味分からん。
分かるわけねぇだろ、んなもん。
それに、だ。
視線を落とす。
目に映るのはまだ湿っているパジャマ。
「……ご飯を探す前に服をどうにかしたい」
服が濡れたまま動き回ったら間違いなく体が冷える。
かと言って裸で動き回るのも寒いしな。
せっかく、かいろ石で暖が取れてきたんだ。
ここで無理して風邪引いたら目も当てられない。
「……よし」
少し躊躇ってから、覚悟を決めてズボンとパンツを脱ぐ。
「……生きるためだ。生きるため」
床に服を広げ、かいろ石をいくつか包むように配置する。
全裸はさすがに気が引けるが、致し方なし!
これは生きるために必要なのだ!
……。
「……ぽこりん」
じっっっっ。
「こっち見んな」
もちろん通じるはずもない。
二体とも、いつもの無言のままこちらを見ている。
……どんな状況だよ。
☆
どれくらい時間が経っただろう。
体感で一時間くらい。
流石にそれくらいは分かる。
じっと見つめられて気まずいし、やることもないので数を数えてたから。
「さて、どうかな……」
服を確認したが、やはり完全には乾いていない。
触ればまだ湿り気が分かるし、着た瞬間「乾いた!」とは言えないくらいには濡れている。
だが。
ぐぅぅぅぅぅ。
「……うるさい」
腹の虫が限界を主張してきた。
もう我慢しても仕方ない。
俺はまだ濡れてる服を着込み、ポケットにかいろ石を詰める。
さらに上着の内側にもいくつか押し込んだ。
動きを阻害されないギリギリの量。
「……よし」
ぬくい。
ぬくいなぁ。
完全じゃないが、これならまださっきより動ける。
「行くぞ、ぽこりん」
俺と白い二体は《食べられそうなもの》を探す為、意気揚々と家を出た。
☆
まず考えたのが、この広間だ。
だが、ここはもう一周している。
苔と石以外、食べられそうなものは何もなかったはず。
「……となると」
残るのは、道だ。
この広間から伸びてる六つの道。
「かと言って、いきなり知らん道を行くのもなぁ……」
だから最初に来た道だ。
指輪が置かれていた台座があったあそこ。
念のため、もう一度そこを調べてみることにした。
☆
来た道を引き返し、俺が落ちてきた最初の地点へと戻ってきた。
見えるのは台座。
そして、台座の向こうには地下水が溜まった池がある。
池に近づき、ひかり石を一つ投げ込んでみる。
光はゆっくり沈んでいった。
「……思ったより深いな」
次は上を見上げる。
俺が落ちてきた穴があるはずだが……
ない。全く見当たらない。
ワンチャン、ぽこりんたちに足場を作らせて外に出ようかと思ったんだけどな。
「……穴が無いのはあのドラゴンのせいか」
俺がここに飛び込んだあと、入り口に何かぶつかるような音がした。
大方、余裕ぶっこいて狩りをしてたら、まんまと獲物に逃げられてムカついたんだろう。
入り口に八つ当たりして塞がれたって訳だ。
まぁ、あそこの穴が空いていたとしても、ここから出た瞬間にまたドラゴン親子に襲われる可能性が高い。
もう狩りの練習台はゴメンだ。
もう少し、アイツラ相手でもどうにかできる手段がないとな……。
振り返ってぽこりんたちを見下ろすが、
「……丸呑みされてヨシだな」
コイツラを囮にすればいけるだろうか……。
いや、ドラゴンがアレだけとは限らない。
ぽこりんの数がもっと多いなら可能性もあるが……え、待って、コイツラまだ増えるの?
ナチュラルに増える方向で考えてしまった。
「……やめだ。その方向は良くない。精神的に」
それはさておき。
しかし、いくらか高さがあったのに怪我一つなくて本当にラッキーだった。
池を改めて眺める。
水があって深かったから助かったのかもな。
それがなければ確実に叩きつけられて死んでいた。
池の奥を見ると、瓦礫で塞がれているように見える。
水の中を覗いても生き物の気配は一切ない。
魚もいない。
音もしない。
生き物の音が一切しないのだ。
「……ここもダメか」
分かってはいたが、希望はなかった。
☆
となると、だ。
俺は広間へ戻り、改めて横道の一つを見上げる。
この広間を上から見たら、円形になっている。
中央にあの台座たち。
六時方向が入り口。
おうちはその少し手前、台座と入り口の真ん中くらい。
横道は五つ。
八時、十時、十二時、二時、四時の方向にぽっこりと空いている。
「……まずは、ここだな」
入り口に一番近い、八時方向。
そろっと覗き込むと、以前投げ込んだひかり石が奥の方にぽつんと落ちている。
「……行くか。生きるために」
正直、怖い。
だが、腹が減ってる以上選り好みはできない。
それに――
「……一番怖いの、もう後ろにいるしな」
俺の後ろには、ぽこりんたちが無言でついてくる。
ビジュアル的に、こいつら以上に怖いものが出てくるとは思えなかった。
コイツラに比べたら、ねぇ?
∵∵
☆
横道の幅は、広間に来た道とほぼ同じ。
特に変わったところはない。
最初の通路のとき同様に、素材を採取しつつひかり石をばら撒いて歩く。
思っていたより何もない。
少し拍子抜け感もある。
しばらく歩いていると足音が変わった。
コツコツ、から――
コツゥン、と響く感じに。
「……デジャヴだな」
つまり、この先に広い空間があるのだろう。
そう考えてる内に前方が開ける。
現れたのは、広間というより……部屋だ。
それほど広くはない。
そして、その中央。
嫌でも目に入る。
「……なんだ、あれ」
巨大な門がそびえていた。
ゴツゴツとした石。
壁や床と同じ材質に見える。
ところどころ、ヒビのような溝が走っている。
見ただけで分かる。
重厚で簡単には動かなさそう。
「……これ、近づかない方がいいよな」
あのヒビ、崩れたりしないだろうか。
嫌な予感しかしない。
そして、その門の前に。
「……台座?」
指輪が置かれていたものと、よく似た石の台座があった。
「……なるほど」
理解した。
チュートリアルさんに言われるまでもない。
「食料どころじゃないな……」
どう考えても、これは――
「台座に指輪はめると門が開くやーつー!」
知ってんだ俺は。
ゲームでやったし。
このパターンはだいたいそう。
★☆★☆∵★☆★☆★
《TIPS》
■生乾きのパジャマ
近所にあるファッションセンターで購入。
セールで上下1500円とお買い得。
なお、防御力は0である。




