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暖まる

《クラフトリスト:かいろ石》


 表示された文字を見て、思わずガッと拳を握ってしまった。大きな声も出ちゃったし。


「……運よく見つけられてよかったな、これ」


 見逃さなくて良かった。

 しかし、正直賭けみたいなもんだと思っていたけど。

 乾いた苔を集めはしたものの、これで暖まれる保証なんてどこにもなかったからだ。

 苔が乾いたからって、それが素材になるなんて思わんだろ普通。


「素材が変化したものも素材になる世界観か……」


 ちょっと管理がめんどいタイプのクラフトゲームみたいだな。

 だが、クラフトリストの一番下。

 そこに確かに表示されている。


《・かいろ石》


 どういう理屈でこうなるのか、全く分からんが……。

 でも、今はそんなんどうでもいい。


「ぽこりん。クラフト、かいろ石だ!」


 俺の指示に、ぽこりんの一体が前に出る。


 ぶるぶるぶるぶるぶる。


 顔全体が小刻みに震え、黒い穴がわずかに歪んだ。


 ――ぽこっ。


 地面に転がり出たのは、こぶし大ほどの石だった。

 ひかり石よりも少し濁った色。

 白の中に、わずかに茶色が混じっている。

 光ってはいない。


「……これが、かいろ石……」


 指でちょんちょんと突いてから、そっと拾い上げる。


 ……なっ!?

 こ、これは――


「……あったけぇ」


 指先から、じんわりと熱が伝わってきた。


 熱い、というほどじゃない。

 火傷するような強さでもない。

 ほんのりと、だけど確実に。


 暖かい。


「……っ」


 寒さで強張っていた指が、少しずつ緩んでいく。

 そのまま手のひら全体に熱が広がり、手首、腕、胸へと染み込んでくる。


「……やば」


 震えていた身体が、ゆっくりと落ち着いていくのが分かった。


「……暖かい……暖かいなぁ」


 それだけで、喉の奥がぎゅっと詰まった。


 ……なんだこれ。

 ただ暖かいだけなのに。


「……やべぇ、泣きそう」


 それだけなのに、生きてるって実感できるんだな……。


「……ぐすっ」


 鼻をすすり、慌てて顔を擦る。


 ……だめだ。

 浸ってる場合じゃない。


「一個じゃ足りないよな」


 俺はすぐに指示を出す。


「ぽこりん、追加でクラフト」


 ぽこっ。

 ぽこっ。

 ぽこっ。


 ぽこりんたちから次々に吐き出される、かいろ石。


 それを拾い上げ、片っ端から配置していく。


 ズボンのポケット、左右に一つずつ。

 上着の腹の中に一つ押し込んで。

 さらに、両手で二つを握る。


「……はぁぁぁっ」


 思わず息が漏れた。


「やべぇ……ちょうあったけぇ……!」


 思わず笑いが漏れた。

 身体の芯までじわじわ温まっていく。

 寒さで強張っていた筋肉が、途端に緩んでいくのが分かる。


 もう震えていない。

 指先もちゃんと動く。


 ――ぴこん。


 視界の端で軽い音。


《クエスト達成》

《チュートリアル⑥:暖まろう!》


「……よし」


 ようやく、だ。


「とりあえず……帰ろう」


 探索はもう十分だ。

 今はちょっと休みたい。


 俺は来た道を引き返す。

 目印に置いたひかり石を辿って、白いとうふ建築へ戻る。


「……こんなんでも、『帰ってきた』って感じがするのはなんでだろな」


 中に入ると、外よりはマシだがまだひんやりしている。


「……冷ややっこってか? 豆腐だけに」


 かいろ石の暖かさに触れ、心に余裕ができたのかね。

 そんなしょうもないことを口走ってしまう。


「よし、ここにも少し置いておこう」


 ぽこりんたちに指示して、かいろ石をクラフトできるだけ追加でクラフトさせる。

 それを部屋の隅や壁際、真ん中辺りに配置する。


 空気が少しずつ変わっていく。


 冷え切っていたおうちの中が、ほんのりと冷たさを失っていくのが分かる。


「……はぁ」


 思わず、長い息。


「生き返る……」


 冷たさが薄れていって、呼吸で吸い込む空気の鋭さもなくなっていった。

 しばらくそのまま座っていると、身体が完全に落ち着いてきた。


「……よし、じゃあ次は服だ」


 意を決して上着に手を掛ける。

 さすがに全裸は躊躇する。

 なので、まずは上だけ。


 濡れた上着とインナーのシャツも脱いで、かいろ石を包むようにして床に置く。

 その周りにもいくつか石を配置する。


「……これで乾いてくれればいいんだが」


 少し不安はあるが、今は信じるしかない。

 服が乾くまでの間、俺もかいろ石をニ、三個腹に抱えこんで丸くなる。

 ズボンの裾の中にも入れられるだけ詰め込んで。


「お前らも一個ずつ持ってろ」


 俺のすぐそばでじっとこちらを見てくるぽこりんたちにも、かいろ石を持たせておく。

 その時にコイツラに触れてみたんだが、コイツラには体温が無かった。

 なんか、その辺の壁や石を触っているような冷たさ。

 そんな奴らに近くにいられると寒いからな。


 一人と二体は並んで暖を取る。

 ……傍から見るとすごいシュールな光景だなこれ。

 三角座りした上半身裸の濡れたおっさんと、それを俺を挟んで左右から黙ってじっと見つめる白い化け物。


 ……シュールだ。


 しかし、暖かいなこれ。

 このかいろ石とかいうの、ホッカイロみたいなもんか。

 今はしょうがないが、低温やけどとかにも注意しなきゃだな。


 それに暖を取る手段が、現状これだけしかない。

 あの乾燥したひかり苔も見つけ次第採取しておこう。

 幸い、ひかり苔自体はそこら中に自生している。

 見つけるのも簡単だとは思うが……最悪、自分で乾燥させる必要もあるかもな……。



 そうして暖まりながら、これからやるべきことを頭のなかで整理していると、


 ――ぐぅぅぅ。


「……」


 静かな部屋にやけに大きく響いた音。

 俺は腹を押さえた。


「……腹、減ったな」


 喉もやたら渇いている。

 寒さが落ち着いたせいなのか、次の欲求が顔を出したみたいだ。

 我ながらわかりやすいな。


 そのタイミングで。


 ――ぴこん。


 またもや聞き慣れた音。

 絶対こいつこっちの動き把握してんだろ。


《クエスト》

《チュートリアル⑦:ご飯を食べよう!》


「……だよな」


 思わず苦笑する。

 生き延びるには、次は飯。

 実に分かりやすい。


「……さて」


 俺はぽこりんたちを見る。

 じっ、とこちらを見返す二体。


「次は……食い物探しか」


 まだ、やることは山ほどあるらしい。

 生きるって……忙しいなぁ



 ★☆☆★☆★★☆★


《TIPS》

■かいろ石

乾いたひかり苔と小石でクラフトされる石。

淡い熱を継続的に発し、直接触れても安全。

携帯用の暖房具として利用できる。


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