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流星の英雄【りゅうせいのアイアス】  作者: 真田らき
第1章:青の渦巻く征野

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5:鋼鉄の蛇


 カルデニア艦隊の全艦に作戦が伝えられると、迅速とはいかなかったが、指示通りの陣形を変容していった。

 最前方で戦っていた駆逐艦4隻は後方に移動。それを助けるように、旗艦センチネルと軽巡航艦2隻が後退速度を落として前方に出る。航宙母艦もやや前方へ移動しながら、戦闘機の発艦準備を整えていた。

 作戦を考えたルーディは、司令官の指示で、参謀長の席に移動し、司令官を横で補佐することとなった。

 階級が上の幕僚達を差し置いて、新兵の自分が参謀長の席に座ることに抵抗はあったが、もはや、そんなことを気にするほど余裕がある者は誰もいなかった。


 ブリッジのメインモニターに帝国軍の最前方を陣取る駆逐艦が数隻が映し出されていた。旗艦センチネルからは肉眼でも見える距離だ。


 「プラズマ砲発射!前方の駆逐艦を集中的に狙え!」


 司令官の合図とともに、カルデニア艦隊の攻撃が一斉に始まり、勢いよく敵艦に襲いかかった。帝国側も反撃を開始し、両陣営の攻撃が交錯した。

 軍艦から放たれたプラズマ砲が闇を切り裂き、宇宙空間を照らしていた。

 互いの攻撃はシールドに吸収されていったが、完全に防ぐことは出来ない。旗艦センチネルにも、シールドをすり抜けて攻撃が着弾する。その衝撃が大きく艦を揺らした。


 「第2格納庫ハンガーに被弾!損傷率7%!」


 管制士の悲鳴にも似た報告が艦橋に響くと、戦闘経験の少ない者達は動揺は隠せなかった。自分が戦場にいて、生と死の狭間で戦っていたいるということを、否が応にも実感させられたのである。

 そんな中でも、経験値に勝る司令官は冷静だった。


 「慌てることはない。このまま打ち合えば、分があるのはこっちだ。このまま前方の敵を倒すことだけに集中しろ!」


 司令官の言葉は真実だった。

 この時、戦闘に参加出来ていた敵艦隊は、最前線にいた駆逐艦わずか4隻であった。

 一方、カルデニア艦隊は、前方で敵艦隊に相対している旗艦センチネルと軽巡航艦2隻、射程ギリギリの位置まで後退し、後方からの援護射撃を担当していた駆逐艦3隻、敵の無人戦闘ドローンの対処にあたっている戦闘機部隊と、ほぼ総戦力で対応していた。しかも、火力に勝る旗艦と軽巡航艦の攻撃によって、敵駆逐艦のシールドは限界をむかえようとしていた。


 「今だ!!全艦、全力で攻撃しろ!出し惜しみする必要は無いぞ!全力で敵を叩け!」


 カルデニア艦隊から無数の光が飛び、その光が敵艦に襲いかかった。最前線で戦っていた帝国側の駆逐艦は回避行動をとったが、少しばかり判断が遅かったようだ。シールドはエネルギー切れを起して消滅し、無慈悲にもプラズマ砲の光が装甲を破壊していった。

 直撃を食らった敵艦は爆発。前線で戦っていた4隻の駆逐艦は、瞬く間に宇宙の藻屑となった。


 旗艦センチネルのブリッジで歓声が巻き起こり、軍帽が宙を舞う。兵士達は、ほんの数分前とは別人のように歓喜し、抱き合い、互いを称えあった。


 「やったぞ!ラマーンの奴等に一泡吹かせてやった!」


 「そうさ!俺らはやれば出来るのさ!」


 「かかって来やがれラマーンのクズ供!また返り討ちにしてやる!」


 そんな空気感のなかで、2人の男だけは渋い顔で目を見合わせていた。ルーディとヴェルター司令官である。 2人は理解していた。生き残りをかけた本当の戦いは今から始まるということを。


 「馬鹿者どもぉ!!」 


 ヴェルター司令官の怒声がブリッジ中に響き渡たると、一瞬でブリッジの空気が凍りついた。


 「我々はまだ勝ったわけじゃなかろう!前を見ろ!遥かに我が軍を上回る敵が目の前にいるではないか!喜ぶのは、無事にハイデルへと帰還する時までとっておくんだな。」


 司令官の言葉は、兵達が我に返るには十分なものだった。

 戦闘中のたった1つの勝利で、思い上がった自分を恥じて顔を赤らめる者、罰が悪そうにコソコソと自分の席へと戻る者もいた。

 だが、ヴェルター司令官も内心では部下達と同じ思いだった。戦闘開始直後に駆逐艦を3隻も失い、何も抵抗する間もなく全滅の窮地にあったのだから当然である。しかし司令官にとって、これから先の戦闘を、冷静さを失った兵を率いて戦うことほど怖いものはなかった。


 「おまえ達は実戦経験こそ少ないが、日々訓練を積んできているはずだ。冷静さを失わなければ大丈夫だ。次も上手くいく。自信をもって任務にあたれ!」


 そうやってフォローの言葉も入れるところは、やはり士官学校の教官に長年従事していたからだろう。

 ルーディも(さすがヴェルター司令官きょうかん)と感心していた。ルーディ本人も、何度も士官学校時代にヴェルターの怒号の標的となり、何度も心を折られたが、それと同様に自信も与えられた経験があった。だからこそ、ヴェルター司令官の統率力と人心掌握術は、生意気ながらも一定の評価をしていた。 


 かくして、司令官の言葉で艦内は一旦の落ち着きを取り戻したのであるが、それも一時の事であった。


 「新たな敵艦が射程圏内に接近!軽巡航艦1隻。駆逐艦2隻です。」


 艦内の警報アラームが急遽けたたましく鳴ると、皆が臨戦態勢に入った。カルデニア艦隊は、再度陣形を整えつつ、迎え撃つ姿勢みせていた。

 ヴェルター司令官は、ルーディに自分の横に来るように命令すると、今後の作戦について話し合った。


 「ルーディ少尉。このまま戦い続ければ不利になるぞ。」


 そういうとメインモニターの画面を指差した。


 「見てみろ。我らが駆逐艦4隻を相手にしている間に、敵の後方部隊が迫ってきている。もはや、蛇というには胴が短すぎる。このまま奴等が前線に合流すれば、我らに勝ち目はない。少尉に何か策はあるか?」


 そう言うと、ルーディの顔を見たヴェルター司令官だったが、その表情に少し驚いた。この事態を予期していたのか、不安など1ミリもないと言わんばかりの顔をしていたからである。


 「ヴェルター司令官。良い頃合いかもしれません。全艦後退を止め、前進しましょう。最大速度で。」


 近くでそれを聞いていた周囲の幕僚達は驚愕した。今までルーディの作戦通りに後退を続け、蛇の頭である駆逐艦4隻を必死の思いで撃ち取ったばかりである。今度は、敵艦隊に向かって前進するというのだから、驚くのも無理はなかった。そんな中で、唯一ルーディの意図を理解していたのは、司令官であるヴェルターのみであった。


 「やはり、それしか道はないようだな…」


 司令官はそういうと、ブリッジ中央にある立体型ホロディスプレイに幹部を集合させ、ルーディに作戦の概要を説明するよう命じた。


 ルーディが説明した作戦は次の通りである。


【①今まで後退しながら反撃をしていたのは、敵艦隊の陣形が今のように寸胴体型になるのを待っていたためである。(戦いながら後退していても、いずれ敵の後方部隊は追い付いてくることは予測の範囲内であった。)


 ②カルデニア艦隊は、今から最高速度で敵艦隊の側面を通過し、敵の後方まで一気に抜ける。(敵艦隊の前方と後方の距離が短くなったことで、敵艦隊の横を通過することが比較的容易になったため。)


 ③敵艦隊を突破後、指定した座標まで移動し、追ってくる敵を迎え撃つ。】


 以上である。


 無論、この作戦に反対する者は少なくなかった。中でも、敵艦隊突破後、重力異常のない宙域まで移動し、超光速航法フォールド・ドライブで首都星ハイデルまで撤退すべきである。という意見が多数を占めていた。ハイデルに一度戻り、帝国側と対等に戦える戦力を整えるべきだというのである。

 この意見は正論にも思えたが、ヴェルター司令官はそれに与することはできなかった。


 「このまま我々が逃げたら、青の小惑星帯コバルト・リングはどうなる?ハイデルへ帰って戦力を整える間に、ラマーン側は援軍を送り込み実効支配に移るだろう。そうなれば、取り返す事は容易ではないぞ。今回の我らの任務はなんだ?目の前にいる奴等を倒す事ではないのか?それを成し遂げる前に逃げ出すことはできん」


 それがヴェルター司令官の返答であり、彼の軍人としての覚悟と使命感であった。

 このまま帝国の進攻を見逃し、ハイデルへ帰還したところで、ラマーン帝国の脅威は無くなるわけではない。           

しかも、青の小惑星帯コバルト・リングの所有権を奪われたとなると、カルデニアの経済に黒い影を落とすことは疑いようもなかった。だが、この戦いでカルデニア軍が一定の戦果を上げ、自国の軍事力を示威することができれば、もしかするとラマーン帝国との間に対話の道が開けるかもしれない。

 ヴェルターはそう考えていた。

 だからこそ、カルデニア国民としても軍人としても、この任務から中途半端に逃げ出すわけにはいかなかったのである。


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