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流星の英雄【りゅうせいのアイアス】  作者: 真田らき
第1章:青の渦巻く征野

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4:策略


 ルーディは周囲がざわつくなか、右手で頬杖をつきながら、冷静にモニターを凝視していた。

 モニターには、後退するカルデニア艦隊を、猛追するラマーン艦隊が映っていた。その様子は、ウサギを狩るライオンのような迫力であった。

 

 ブリッジに集まっている幕僚達は、呆然とした面持ちで、モニターと司令官の顔を交互に見つめることしかできなかった。

 そんな中、艦隊の参謀長を勤めるジャン・ベルトラン大佐が立ち上がり、ヴェルター司令官に歩みよった。


「ヴェルター司令官、ここは一度撤退するべきです。このまま後退しながら反撃しても、圧倒的な戦力差の前に勝ち目などありません。」


 ベルトラン参謀長がそう進言すると、周囲は一瞬にして静寂に包まれた。表情を見ると、他の幕僚達も同意見のようである。

 参謀長は続けた。


「帝国の戦力は我々が想定していたものより多く、かたや、こちらの艦隊の数は敵の半分以下です。先程の攻撃で駆逐艦の半数を失った我々に勝つ術はありません。今なら反転し、超光速航法フォールド・ドライブでこの宙域から離脱することもできましょう。」


 ヴェルター司令官がベルトラン参謀長の顔を見ることはなかった。ずっとブリッジの前面にあるメインモニターを、鋭い眼光で見つめたまま返答した。


「今ここで反転すれば、後退している艦の動きが一瞬止まる。そうすれば猛追する敵艦との距離が縮まるだろう。前面に展開している駆逐艦は、格好の的だ。これ以上距離が縮まれば、シールドも長い時間もたないだろう。無論、超光速航法フォールド・ドライブを使用する隙など与えてくれん。それでも反転して撤退をすべきと言っているのか?」


 ベルトラン参謀長は一瞬たじろいだものの、わずかに声を張り上げて反論した。


「心苦しいですが、ここは戦場です。多少の犠牲が出ることは仕方ありません。全滅を選ぶか。1人でも多くの隊員達をハイデルへ帰還させるのか。答えは明確です。駆逐艦の隊員達も、仲間が逃げる為に最後まで戦う覚悟はあるはずです。軍人としての使命感もあるでしょう。」


 ルーディは(勝手な言い分だな。自分だけは逃げおおせたいと思ってる奴が、残される側の人間を美徳化することほど、気持ち悪いものはない。結局、自分の罪悪感を消したいだけだ)そんな事を思いながらも、流石に口にはださなかった。

 しかし、ヴェルター司令官も同じ思いのようだった。表情が一変し、参謀長を睨みつけると、鼻同士がぶつかる距離にまで顔をよせた。


「なるほど、参謀長の意見はわかった。正論だろうな」


 発言の内容と表情が合っていないことは明白だった。


「みんな参謀長の意見に賛成か?他に意見のあるものはいないのか?」


 そういうと、ヴェルター司令官は幕僚達の顔を1人づつゆっくりと、覗き込むように目線を移していった。幕僚達はメデューサにでも睨まれたかのように体が固まり、冷や汗を流すものもいた。最後に司令官は、作戦幕僚の末席として乗艦していたルーディの顔をじっと睨みつけてきた。

 他の幕僚達とは違い、ルーディには一切の恐怖心はなかった。士官学校時代、何度もヴェルターのこの表情は見てきたからだ。怖さよりも懐かしさのほうが勝っていたのだ。


「クラウス少尉。君はどうだ?新兵だからと遠慮はいらん。お前も幕僚の1人だ、意見はあるか?」


 ルーディは、まさか意見を求められるとは正直想定しいなかった。ただ、自分に意見を求められたということは、ヴェルター司令官が、何らかの返答を期待しているのだということは、士官学校時代から勘で理解していた。仕方なく、か細い声で申し訳なさそうに答えた。


 「…私はベルトラン参謀長の作戦には反対です」


 ヴェルター司令官の眉がピクリと動き、周りの空気もピリッと張り詰めた気がした。


 「言ってみろ。どういうことだ?」


 そんな怖い顔で凄まれたら、誰だって萎縮して答え難いだろう。とも思ったが、今更「やっぱり何もありません」とは言えるはずもなかった。

 周りの上官達は、新兵が余計な事を言い出さないかと不安な表情でルーディに注目していたが、ルーディはそういう空気感になると、逆にそんな雰囲気を壊したくなる性分であった。


 「では、僭越ながら意見を述べさせて頂きます。少しでも多くの仲間が生き残る為にとるべき行動として、参謀長の作戦は適切ではないと考えます。まず、超光速航法フォールド・ドライブは使えません。ガス雲に近すぎます。これだけ重力異常が発生しているなかで、超光速航法フォールド・ドライブを使用することは自殺行為に等しいと考えます。それは、計算した上で否定し得ない事実です。成功確率は27%といったところです。」


 彼は既に参謀長の作戦は想定して、計算済みだったのである。それだけではない。ガス雲の重力異常で計器が乱れることを利用して、帝国軍がガス雲に隠れていることも想定していたし、その後の展開も様々なシュミレーションを頭の中で張り巡らしていた。その中でも、参謀長の作戦は、彼から言われると愚策以外のなにものでもなかった。

 自らの作戦を新米の参謀に否定されたベルトラン参謀長は、顔を真っ赤にして声を張り上げた。


「クラウス少尉!では、このまま帝国軍と正面からやり合うのか!?それこそ自殺行為であろう。計算上は可能性が低い?ここは本物の戦場だぞ!臨機応変に対応しなければならない。計算機の上で戦争しているのではないからな。うちの航宙士達は優秀だ。成功確率を高め、きっと上手くやってくれるだろう。ともかく、今は反転して逃げる以外の道はないのだ!」


 参謀長の怒号は艦橋に響き渡ったが、ルーディは一切気にする様子もなく、寧ろ冷めた目で参謀長を見ていた。


「お言葉ですが参謀長、それは違います。データを無視した作戦は、もはや作戦ではありません。」


 少し刺のある言い方をするのは、ルーディの欠点かもしれないが、誰にでもそうなわけではない。ただ、非合理な事を、立場を使って押し通そうとする人間に対しては、徹底的に反論しないと気が済まない性格ではあった。

 ベルトラン参謀長が更に反論しようと、顔を震わせながらルーディに近づこうとした時、ヴェルター司令官が左手を挙げて制した。


「続けろクラウス少尉。君には対案があるのだろう?」


 先程とは違って、落ち着いた表情と、少し穏やかな声だった。


「はい。私はこのまま最高速度で後退し、帝国軍との距離をなるべく維持しながら反撃することがよろしいかと思います。ただし、旗艦と軽巡航艦2隻を最前方に移動し、その後方に駆逐艦を後退させます。」


 艦橋がどよめいた。艦隊の頭脳である旗艦を最前線で戦わせると言っているからである。戦略的観点で考えるとあり得ない作戦である。

 作戦参謀首席であるベン・ウォーカー中佐が戸惑いながらルーディに問うた。


「旗艦を最前戦に出すのか?この艦が堕ちれば艦隊は機能しなくなるぞ。」


 そんな当たり前の事はわかっているに決まっているだろうと、内心嫌気がさしたものの、ルーディは丁寧に説明した。


「どのみちこのままでは我々は全滅します。旗艦があろうがなかろうが変わりません。この艦は重巡航艦です。我々の艦隊の中で、一番高い攻撃力と装甲性能を持っています。そんな艦を現在の状況下で、後方に置いておくことに意味はありません。万が一旗艦が堕ち、司令官がいなくなった場合の事を考えるのであれば、今のうちにベルトラン参謀長は、後退してくる駆逐艦に移艦して頂くのがよろしいかと思います。旗艦無き後の司令部を駆逐艦が受け継ぎ、参謀長が司令官として指揮をとって頂けます。ヴェルター司令官は、このまま本艦に止まり、前線で指揮をとって頂くのが最善かと思います。すいません、これは私の希望でしかありませんが。」 


 ベン・ウォーカー中佐は納得出来なかった。いくら旗艦の性能が優れているとはいえ、敵の艦隊も同等以上の艦を保有しているし、何より敵には圧倒的な数の有利があるからである。こちらが旗艦や軽巡航艦で対抗しようとも、数の力には勝てる訳がないと思ったのだ。しかし、それもルーディには分かりきったことであった。

 ルーディはメインモニターを指差して話を続けた。


 「見ての通り、帝国側は我々の艦隊を逃がすまいと猛追してきています。しかし、その動きに秩序は無く、陣形は乱れ、蛇のように直線状に伸びきっています。いくら帝国側の方が戦力的に上だとしても、後方に位置する艦のように、戦えなければ意味はありません。我々はこのまま艦首を敵に向けたまま、全速力で後ろ向きに後退し、今の相対速度をなるべく維持します。逆に前線で数の有利につくり、蛇を頭から攻撃していきます。幸いにも、蛇の頭は駆逐艦で構成されています。この旗艦と軽巡航艦で応戦すれば有利に戦えます。もちろん簡単な事ではないと思いますが、現在考え得る最善の策ではないかと考えます。」


  幕僚達には不満の顔が滲んでいたが、反論の余地は無かった。

 ルーディが参謀長を他の艦に移そうとしたのは、司令部の機能を予備として維持する目的もあったが、本心としては、ただ単に、目の前からいなくなってほしいという理由の方が大きかった。ヴェルター司令官ごと、司令部機能を駆逐艦に移動する手もあったが、司令官自らが最前線で指揮を執ることが、兵士達の士気を高めるし、何より、ヴェルター司令官の性格を分かった上での進言だった。

 ルーディの提案に、艦長は一瞬迷ったが、覚悟を決めたように頷いた。


「…わかった。いいだろう。私もクラウス少尉の作戦にのろう。それが、今できる最善の方法だろうな。その後の作戦は戦いながら考えよう」


 そう言うと、司令官は周囲を見渡した。


「反対の者はいるか?……いなければこの作戦を実行する。我々にはこれ以上考える時間は無いぞ!すぐに準備にとりかかれ!」


 司令官の声に周囲は慌ただしく動きだした。さっきまで不安な表情を見せていた幕僚達も、覚悟を決めたようだった。生き残る為にやはるしかないのだ。だが、ただ1人苦虫を潰したような表情で、ルーディを見つめている男がいた。ベルトラン参謀長である。

 そんな参謀長の様子を見た司令官は、顔を見ることもなく冷たい表情で言った。


 「何をしてるベルトラン参謀長。早く移艦の準備をしたらどうだ?私が死んだら、後の事は頼んだぞ」


 そう言うと、もはやベルトラン参謀長の存在は無いかのように、周囲に指示を出していた。 

 ベルトラン参謀長は悔しそうな表情で、司令官の背中に向かって敬礼すると、ブリッジを後にしていった。


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