3:開戦
青の小惑星帯は、アルデバラン星系の辺境宙域に広がる広大な環状領域だった。直径5光分もの広さで、無数の小惑星が浮かび、青いガス雲が渦を巻いていた。このガス雲はセンサーを乱し、重力異常を引き起こすため、艦隊戦の難易度を高めていた。
カルデニア王国軍の艦隊は、旗艦である重巡航艦1隻・軽巡航艦2隻・航宙母艦1隻・駆逐艦6隻。
対するラマーン帝国第3艦隊は、重巡航艦2隻・軽巡航艦6隻・航宙母艦1隻・駆逐艦10隻。
カルデニア側は数で圧倒的に劣勢だった。今回の事態に急遽編成できたのはこの小艦隊だけだったのだ。
突然、警報がけたたましく艦内に鳴り響いた。
「敵艦発見!! ガス雲内から突如出現しました!」
通信士の声がブリッジを震わせた。ラマーン艦隊がガス雲内に待ち伏せしていたのだ。
暗闇の中をプラズマ砲の閃光が輝き、虚空を切り裂いた。カルデニア艦隊の駆逐艦が一瞬で炎に包まれる。
「損傷大! 駆逐艦メディカの艦橋が破壊されました!」
悲鳴にも似た報告に、司令官は顔を歪めた。
「全艦、散開! 敵に的を絞らせるな!」
ヴェルター司令官の命令は迅速で適切だったが、各艦の行動は明らかに緩慢だった。緊張と経験不足がパニックを引き起こしたのだ。
一方、ラマーン軍の攻撃は見事だった。カルデニア艦隊の緩慢な動きを見るや否や、猛攻撃を仕掛けてきたのだ。
前面に展開していたカルデニア軍の駆逐艦は、瞬く間に業火の中にさらされてしまった。
「みんな落ち着いてシールドを展開しろ!そうすれば易々と破られはしない!大丈夫だ!一度体勢を立て直す。全艦落ち着いて、かつ迅速に後退しろ!」
ヴェルター司令官は、士官学校の学生を諭すような口調で、だが力強く落ち着いて命令を下した。だが、いくらベテランの司令官といえど焦りの色は隠せなかった。言葉の落ち着きとは裏腹に、額からは大量の汗が吹き出していた。
全てが想定外だった。ガス雲が原因の重力異常によって計器が乱れ、敵艦の発見が遅れたことも、味方の動きが予想以上に悪かった事もだ。
カルデニア艦隊は、艦首を敵艦隊に向けながら反撃しつつ、後ろ向きに猛スピードで後退していたが、敵艦隊との距離がなかなか広がらない。ガス雲から次々と現れるラマーン艦隊との相対距離を、維持するのがやっとであった。
旗艦を守るように前方に配置されていた駆逐艦隊が、敵艦隊の的になっていた。シールドが悲鳴をあげ、エネルギー切れを起こす艦も現れた。シールドが消滅した艦を、敵の超光速ミサイルが紙のように引き裂き、艦体は内側から膨張し、巨大な花弁のように開花した。散ったのは鋼鉄ではなく、幾千の命の残光だった。
戦闘が始まってわずか数十分の間に、味方の駆逐艦の半数は宇宙の塵となり、その数百倍の人命が失われてしまったのである。




