1:新米少尉
カルデニア王国の宇宙艦隊は、青の小惑星帯の境界線で、静かなる緊張に包まれていた。戦争の気配は、すでに数ヶ月前から漂っていたからだ。
ラマーン帝国の採掘艦がカルデニア星域の境界を越境し、カルデニア王国の探査ドローンが威嚇射撃を行うも、システムエラーによって照準が反れ、帝国の採掘艦を破壊。乗員122名が命を落とした事件がきっかけだった。
ラマーン帝国側はそれを「敵対行為」と喧伝し、カルデニア王国に宣戦布告したのだ。カルデニア王国政府はあらゆる外交手段を用いて、最悪の事態を回避するべく奔走したが、その努力は報われる事はなかった。ラマーン艦隊がカルデニア王国に侵攻を開始したという報がもたらされると、カルデニア王国宇宙軍は、急遽編成された小艦隊で応戦せざるを得なくなった。
平和主義の国家にとって、100年以上ぶりの本格的な戦闘が始まろうとしていた。
士官学校を卒業したばかりの新米将校、ルーディ・クラウス少尉は、カルデニア宇宙艦隊の旗艦、指揮巡航艦『センチネル』のブリッジで、ぼんやりとモニターを眺めていた。
年齢は23歳。少しグレーかかった癖っ毛の黒髪、身長は175cmほどで、体重は68kg。顔立ちは良くもないが悪くもないといった感じだ。性格に関しては、良く言えば感情の起伏が少ない安定した性格といえるだろう。いわば普通なのが彼の特徴だった。
士官学校時代の成績も同じようなもので、頭脳も身体能力も人並み。ほとんどの科目の成績が、狙ったかのように見事なまでにど真ん中だった。
ルーディ・クラウスの特筆すべき点をあげるとするならば、それはある一定の分野における知識量だろう。
ルーディは幼い頃から、本を読むのが好きな子供だった。中でも、歴史に残るような、戦争で活躍した英雄達の逸話が書かれた本は、彼の大好物だった。それは、人類がまだ地球という1つの惑星で生活していた時代の物を含めて、あらゆる本を読み漁るほどだった。ルーディが特に関心を示したのは、英雄と呼ばれた人物が、どう戦争を勝ち抜き、戦場を生き抜いたのか。その時の心情や戦略・戦術的な思考を学ぶことが、楽しくてしかたなかったのだ。
それは成長しても変わらなかった。暇を見つけては、寝る間も惜しんで本を読む生活は未だに続いている。
しかし、それも悪いことばかりではなかった。士官学校に入学して以来、ずっと平均的な成績をとり続けていた彼でも、戦略・戦術学や軍史の関する成績だけは、常に学年トップクラスであった。少なくとも彼の頭の中には、過去の偉人達の戦略や戦術的思考が、数百、数千とインプットされていたのは事実である。
今回の任務に、艦隊の作戦参謀の末席として参加出来たのは、そういった士官学校の成績を加味されたものなのか、はたまた誰かの推薦によるものなのかは、本人は知るよしもなかった。
「士官学校を卒業した途端に戦争なんて、ついてない…面倒くさい……」
と独り言を呟くのが、彼のここ最近の口癖になっていた。戦略や戦術を学ぶことは好きだったが、本の主人公のように、自分が英雄になりたいだの、戦場で活躍したいだのという気持ちは一切なかった。それは、だたの趣味でしかなかったし、士官学校に入学したのも、軍人になりたかった訳ではない。むしろ不純な動機だった。
休憩時間になっても、同僚達と会話を楽しんだり、上官に媚を売りにいくわけでもなく、仮眠室で疲れを癒すわけでもなかった。ただやる気なく士官サロンのソファに座って、ずっと本を読んでいた。
そんな彼の姿を見て、センチネルの艦内では早々に「変わり者」として認識され、陰口を叩かれていた。その事は本人も自覚はしていたが、自分のルーティーンを変える気もなかったので、全く気にしていなかった。




