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流星の英雄~Aias of the Meteor~  作者: 真田らき
第4章:奪還の嵐

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9:シーソーゲーム


 ローゼンタール中将の旗艦のメインディスプレイには、アイゼン艦隊が弓型包囲網に半分飲み込まれ、側面シールドが次々と砕け散る様子が映し出されていた。

 副官の一人が、声を震わせながら報告する。

 

 「ローゼンタール司令官! アイゼン艦隊の両翼が崩れ始めています! 包囲が完成寸前です!」


 ローゼンタールは、瞳をディスプレイに固定したまま、ゆっくりと息を吐いた。表情は変わらない。唇すら動かさない。ただ、指先だけが、テーブルに軽く叩くリズムを刻んでいる。それは、彼が冷静に「次の手」を計算している証だった。


 「……敵の遊軍が背後から来ている。我々に感知されない場所から一気に現れたな。何処か近くの星でスイングバイしてきたのだろう。艦隊の移動速度が早い。こんな手まで仕込んでいたとは尊敬に値する」

 

 副官が頷き、追加報告を続けた。


 「遊軍の正体は、エデンⅣに潜伏しているカルデニア正統政府を名乗る者達の部隊です。司令官はガルシア・ロドリゲス。艦隊数25隻、距離4万キロ。急速接近中です。既に射程範囲に入っており、我が艦隊に損傷が出始めています」


 この報告にブリッジ内の空気が重くなった。

 士官たちの視線がローゼンタールに集中する。誰もが同じことを思っていた。このままアイゼン艦隊を救援に迎えば、ロドリゲス艦隊に後ろから食い破られる。

 ローゼンタールは、静かに口を開いた。声は低く、しかし自信に満ちていた。


 「全艦、速度を維持したまま……右に進路をとれ。ロドリゲス艦隊の進路に合わせて、斜め前方へ移動するのだ」


 副官が一瞬目を丸くした。


 「右……? それではアイゼン艦隊への距離がさらに開いてしまいます!」


 ローゼンタールは、わずかに目を細めた。


 「それでいい。アイゼンならまだ多少は耐えられる。我々は後方の敵部隊を先に駆逐する」


 ブリッジ内の士官たちが息を飲んだ。

 ローゼンタールは、ディスプレイに指を這わせながら、淡々と説明した。


 「奴らは背後から奇襲をかけようとしているのだろう。ならば、望み通り今は背後を晒してやれ。奴らが前進すればするほど、我が艦隊との距離が縮まる。そして、その瞬間を狙う」


 副官が理解したように頷いた。


 「つまり……ロドリゲス艦隊にわざと接近させると?」


 ローゼンタールは小さく頷いた。


 「そうだ。奴らがある一定距離まで近付いてきたところで、全艦素早く右旋回し敵艦隊の側面を一気に叩く。奴等のあの速すぎる速度が逆に隙になる」


 命令が下った瞬間、ローゼンタール艦隊はゆっくりと右へと進路を変えた。

 重巡航艦が先頭を切り、駆逐艦が両翼を広げながら、緩やかな弧を描いて進路を変える。紅いシールドが一斉に輝き、後衛の砲門がロドリゲス艦隊に向けられた。

 艦隊の動きは、無駄のない統制された動きだった。

 艦列は、ロドリゲス艦隊を「誘い込む」ように斜め前方へ移動していった。

 方や、ロドリゲス中将の旗艦では、ブリッジが活気づいていた。


 「ローゼンタール艦隊が右方向へ移動! 距離縮少中!」


 この報告に、ロドリゲスは口角を上げた。


 「奴らはカルデニア艦隊と俺らに挟み撃ちにされないように逃げているのだ。今が好機だ。全艦、前進速度は落とすなよ。予定通り背後から叩き潰す!」


 25隻の艦影が、青いシールドを輝かせながら、ローゼンタール艦隊の背後に迫る。ミサイルの雨が降り注ぎ、主砲が連続で火を噴く。距離が縮まり、砲火の交差が激しくなる。

 ローゼンタールのブリッジでは通信士が叫んだ。


 「ロドリゲス艦隊が速度を落とさず突っ込んできます! 距離は約1万キロ!」


 ローゼンタールは静かに頷いた。


 「……今だ。全艦、大きく右旋回しろ。敵の側面を集中砲火で叩け」


 命令が下った瞬間、ローゼンタール艦隊は急激に右旋回した。

 重巡航艦が軸となり、駆逐艦が両翼を広げ、鋒矢陣に変形しながらロドリゲス艦隊の側面に向き直る。   

 紅いエネルギーが一斉に輝き、主砲が火を噴いた。更にミサイルの雨がロドリゲス艦隊の側面に集中し、シールドが次々と砕け散った。

 ロドリゲス艦隊は、突然の反撃に一部で隊列が乱れた。

 駆逐艦の何隻かが被弾し、炎を噴き上げて漂い始め、艦内では、負傷者が這いずりながら消火活動を続け、血と煙が混じり合い、視界を奪う。

 しかし、それもすぐに終わる。前進速度が早いロドリゲス艦隊は、ローゼンタール艦隊の猛烈な攻撃を一瞬で通りすぎることが出来た。

 ロドリゲスは、急速反転して背後を取り直すよう指示を出したが、返ってきた答えは司令官の望むものではなかった。

 

 「無理です!速度が出過ぎているため、反転するには速度を落とす必要があります」


 「では、さっさと速度を落として反転しろ!」


 そうロドリゲスの命令が飛んだが、これこそがローゼンタールの狙いだった。

 ロドリゲス艦隊の前進速度に合わせて、計算されたタイミングで右旋回し、艦隊の側面を攻撃。そして、反転しようと速度を落とすロドリゲス艦隊。その隙に素早く背後を取る。そのがローゼンタールの策略であった。速度が出過ぎた艦隊は、急な方向転換をすることが出来ない。ローゼンタールはそれを利用して、ロドリゲス艦隊との距離を縮め、逆に背後を取り返したのである。

 さっきまで敵の背後に間近まで迫っていたロドリゲス艦隊は、いつの間にか背後を取られる形となり、一気に形勢が逆転した。

 ローゼンタール艦隊の攻撃は容赦なくロドリゲス艦隊の後方部隊に炸裂し、次々と艦を破壊していった。立ち位置が変わったことで、倍近い数の力はいかんなく発揮され、ロドリゲス艦隊なす術なく破壊された。そして僅か数十分の間に、3分の1の艦が破壊され、宇宙の塵となったのである。陣形の中央に位置していた旗艦も被害は免れず、何とか航行に支障はない程度にまで攻撃を受けることとなった。その衝撃はブリッジにも伝わり、司令席に立って指揮していたロドリゲスは、内壁まで飛ばされ、頭を打ったことで気絶した。

 一時的に司令官を失った艦隊は、混乱の一途を辿り、陣形は乱れ、逃げ惑う烏合の衆と化したのである。

 その後、代理司令官となった参謀長により、行動不能に陥った艦には退避命令が出され、無数の脱出ポッドが宇宙空間へ飛び出した。しかし、それは宇宙戦闘機の格好の的となり、容赦なく撃ち落とされることとなった。

 

 一方的な攻撃が一段落する頃には、ロドリゲス艦隊は反抗の意思さえ打ち砕かれ、残った残存艦隊はただ宇宙を漂う鉄の塊のようであった。

 敵の戦意が無くなったことを確認したローゼンタールは、目標を本来のものに切り替えた。

 ローゼンタールにとって、ロドリゲス艦隊の脅威が無くなったことで、アイゼン艦隊を救出することに専念できる。


 「全艦、攻撃の手を止めろ。目標を本来の敵に戻す。全速前進でカルデニア艦隊の左翼部隊へ向かうぞ」


 そう命令が飛ぶと、ローゼンタール艦隊は、鋒矢陣のままカルデニア艦隊の包囲網へ向かって前進を再開した。

 ルーディはブリッジの立体映像ホロディスプレイでロドリゲスの状況を確認しながら、苦虫を噛み潰したような顔をしながら呟いた。


 「俺の作戦が甘かった……ロドリゲス中将生きててくれ」


 

 一方、アイゼン艦隊の旗艦は、警告音が鳴り止まなかった。

 弓型に変形したカルデニア艦隊の両端から浴びせられる砲火が、側面シールドを容赦なく削り取っていく。駆逐艦の何隻かが炎を噴き上げて漂い、爆発の衝撃波が艦列全体を激しく揺らした。

 ブリッジの非常灯が赤く点滅し、煙が薄く立ち込め、乗組員たちの叫び声が飛び交う。

 アイゼン中将は司令席に座ったまま、拳を強く握りしめていた。髭の生えた顔に汗が滴り落ち、目には苛立ちと闘志が燃えていた。

 

 「くそっ……この包囲網、抜け出せねえ……!」


 副官が震える声で報告した。


 「中将! 左右の締め付けが強すぎます! 護衛の駆逐艦3隻が既に沈黙……残りの護衛艦も被弾が続いています! このままでは全滅します!」


 アイゼンは歯を食いしばり、メインディスプレイを睨みつけた。

 画面には、ルーディの旗艦ルミナスが、弓型の中央に位置しているのが映っていた。

 それを見たアイゼンの胸に、熱い怒りが込み上げた。

(あのガキ……俺をここまで追い詰めやがって……。もう我慢できねえ)

 彼は突然立ち上がり、ブリッジの全員に響く声で叫んだ。


 「全艦、何とか耐えろ!その間に俺が決着をつけてくる!」

 

 副官が慌てて振り向いた。アイゼンはニヤリと笑い、拳を握りしめた。


 「戦闘機部隊を出す。俺が直接、あの野郎の旗艦に乗り込む。戦闘機に紛れて小型高速艦で接近し、直接乗り込んで司令官を撃ち取る!」


 ブリッジが一瞬、凍りついた。副官が血の気を失った顔で叫んだ。


 「中将! それは自殺行為です! 敵の包囲網のど真ん中ですよ! 戦闘機だけじゃ到底近づけません!それに中将自らが行かれるなど、賛成出来ません!」


 他の士官たちも次々と反対の声を上げた。


 「危険すぎます! 中将が戦死したら艦隊は終わりです!」

 「せめて別働隊を……!」


 アイゼンは豪快に笑い飛ばした。


 「馬鹿野郎! 俺がここでジッとしてたら、包囲網に飲み込まれて終わりだろ! 旗艦を直接叩けば、敵の指揮系統が崩れる!その間にローゼンタールの応援が来るはずだ! それで勝てる!大丈夫だ!それに、俺はこう見えて白兵戦も負けたことはない!心配すんな!」


 彼はシートから離れ、ブリッジの出口に向かいながら続けた。声は低く、しかし確信に満ちていた。

 

 「自らの手で、あのガキを撃ち取る。そうでもしないと俺のプライドが許さん」


 副官が必死に止めようとしたが、アイゼンは振り返らず、背中を向けたまま言った。


 「黙れ。俺は戦うためにここにいる。お前たちは残って艦隊を守れ。俺が敵の司令官を倒せば、すべてが変わる。自棄やけになったわけじゃない。俺を信じろ」


 ブリッジに重い沈黙が落ちた。誰もが、アイゼンの決意を止めることができないことを悟っていたからだ。

 アイゼンはそのまま格納庫へ向かい、戦闘機部隊に紛れた小型高速艦に乗り込んだ。

 周囲の整備士やパイロットたちが、驚愕と尊敬の眼差しで彼を見送る中、アイゼンはコクピットに収まり、ヘルメットを被った。

 小型高速艦は、戦闘機の群れに紛れて発進した。

 アイゼン艦隊の残存艦が、包囲網の中で必死に抵抗を続ける中、小型高速艦はカルデニア艦隊の包囲の隙間を縫うように、ルーディの旗艦ルミナスへと急接近していった。


 ルーディの旗艦ルミナスは、弓型包囲の中央に鎮座していた。それを軸としてカルデニア艦隊の両翼がゆっくりと締め上げ、アイゼン艦隊を飲み込もうとしている。

 ルミナスのブリッジでは、ルーディが静かに立体映像ホロディスプレイを睨み続けていた。


 コクピットの助手席座るアイゼンは、ヘルメットのバイザーを下げ、拳を強く握りしめていた。

 髭の生えた顔は汗で光り、目は血走っている。

 彼の後ろには、選りすぐりの精鋭兵士10名が、狭い船内に詰め込まれていた。全員が重装備の戦闘服に身を包み、ヘルメットのバイザーを下げ、ライフルを膝に抱えている。

 艦内の空気は熱と緊張で息苦しく、エンジンの低いうなりと、時折響く警告音だけが響いていた。

 アイゼンは通信機で短く命令を下した。


 「全機、散開。敵の対空砲火を分散させろ。俺はルミナスの左舷下部、整備ハッチ付近を狙う」


 戦闘機部隊が一斉に散開し、ルミナスの周囲を包むように動き始めた。

 ミサイルと機関砲の火線が交錯し、カルデニア艦隊の対空砲火が戦闘機群に向かって集中する。

 爆発の閃光が連続し、戦闘機の何機かが炎を噴き上げて散った。だが、その混乱の隙を突いて、アイゼンの小型艦はルミナスの左舷下部へと滑り込んだ。


 「敵旗艦との距離100メートル。エネルギーシールドに接近します!」


 パイロットが叫ぶと、アイゼンは低く唸った。


 「構うな。突っ込め」


 小型高速艦は急加速し、自らのシールドとルミナスのシールドがぶつかり合い激しい光を放つ。強引にシールドを突破しようと試みた。シールドの青い光がコクピットの窓を眩しく照らし、艦体が激しく振動する。

 ようやくシールド内に入ると、直ぐ様左舷の下部に接舷した。

 アイゼンはシートから立ち上がり、部下たちに短く叫んだ。


 「すぐに準備しろ! 敵の外装に穴を空けろ」


 パイロットが操作すると、小型艦の先端部が開き、磁気アンカーがルミナスの外装に打ち込まれた。

 ガコン、という重い音が響き、艦体が固定される。同時に、外装切断装置が作動し、ルミナスの整備ハッチ付近の装甲板に高温プラズマトーチが食い込んだ。

 火花が散り、金属が溶ける音が艦内に響く。

 ルミナスでは警報が鳴り響き、対空砲火が小型艦に向かって集中し始めたが、すでにアンカーで固定され、艦に密着しているため、なかなか攻撃が当たらない。


 「切断完了まであと30秒!」


 アイゼンはヘルメットのバイザーを下げ、ライフルを構えた。部下たちも一斉に立ち上がり、武器を手に取る。全員の呼吸が荒く、緊張で手が微かに震えている。

 アイゼンは低く、しかし力強く言った。


 「俺が先頭だ。敵の司令官を仕留める。万が一生きて帰れなくても、奴だけは道連れにする」


 部下の一人が、震える声で言った。


 「中将……本当に……」


 アイゼンは振り向かず、ただ一言。


 「黙れ。行くぞ」


 切断装置が最後の火花を散らし、ルミナスの外装に穴が開いた。真空の冷気が流れ込み、ルミナス艦内の空気が一瞬で白く凍りついた。アイゼンは先頭に立ち、磁気ブーツを鳴らしてハッチから飛び出した。部下たちも続いて飛び出し、ルミナスの外装に張り付くように移動する。

 次の瞬間、ルミナスの対空砲火がようやく小型艦を直撃し、爆発が起こったが、すでに全員が外装に張り付いていたため、被害は最小限に留まった。

 アイゼン達はは外装を這うように移動し、穴を開けた整備ハッチの隙間から艦内に侵入した。

 艦内の通路は赤い非常灯に照らされ、警報が鳴り響いている。

 カルデニアの兵士たちが慌てて駆けつけるが、アイゼンは容赦なくライフルを連射した。銃声が通路に響き、兵士たちが次々と倒れる。

 アイゼンは部下たちに短く叫んだ。


 「ブリッジへ向かう! 司令官を見つけ出して仕留める!」


 部下たちが一斉に動き、ルミナスの内部を突き進む。

通路の角からカルデニア兵が現れ、銃撃戦が始まった。

アイゼンは壁に身を寄せ、正確に敵を撃ち抜いていく。

血の臭いと硝煙の匂いが混じり合い、通路は地獄絵図のようだった。

 アイゼンの肩に弾が当たり、血が噴き出したが、彼は歯を食いしばって前進を続けた。


 「まだだ……まだ終わらねえ!」


 ブリッジへの道は長く、敵の抵抗は激しかった。

 アイゼン艦隊の精鋭たちは、次々と倒れながらも前進を続けた。

 アイゼンは最前列で戦い続け、ルーディのブリッジが近づくにつれ、胸の鼓動が速くなった。

 ブリッジの扉が目前に迫る。


 戦いは、指揮官同士の直接対決へと移ろうとしていた。



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