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流星の英雄~Aias of the Meteor~  作者: 真田らき
第4章:奪還の嵐

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5:紛糾


 ハイデル宙域の外縁、アポロニアス星域からわずかに離れた宙域で、カルデニア連合艦隊の残存艦はようやく息をついていた。

 ロペス中将の第1艦隊は壊滅的な損害を被り、わずか17隻が辛うじて生き残っていた。艦体はどれも傷だらけで、シールドは半壊、エンジンは過負荷で悲鳴を上げていた。ブリッジの照明は点滅し、煙が薄く立ち込め、負傷者のうめき声が通信回線に混じっていた。

 そんな中、総旗艦に通信士の声が響いた。


 「総司令官! 前方から艦隊接近! 識別信号……カルデニア艦隊?……いえ、これは、エデンⅣ駐留艦隊です!」


 グラント大将は立ち上がり、画面を凝視した。疲れ切った顔に、わずかな希望の光が宿った。メインディスプレイに映ったのは、カルデニア国章が描かれた軍艦の隊列だった。


「……本当に来たのか、我々の救援のために…」

 

 通信士からの報告を聞いたロペス中将も、損傷した旗艦のブリッジで小さく頷いた。彼女の左腕は包帯で固定され、額には血の跡が残っていたが、目はまだ鋭かった。


 「ロドリゲス()()……クラウス()()……本当に奴らなのか?」




 カルデニア連合艦隊と、カルデニア王国エデンⅣ駐留艦隊の両艦隊は、互いの位置を確認し合い、徐々に接近し、宇宙空間に青いシールドの光が重なり合うように集結した。

 グラント大将は静かに命令を下した。


 「全艦、速度を緩めろ。……ロドリゲス少将とクラウス大佐を旗艦ここに招き入れろ。第1艦隊にも連絡し、ロペス司令官も呼んでくれ」


 グラントの呼び掛けを、ロドリゲス中将もルーディも素直に受け入れた。数十分後、カルデニア艦隊総旗艦の作戦会議室ブルーフィングルームに、エデンⅣ駐留艦隊の主要な指揮官たちが招かれることとなった。

 ルーディは参謀長のシュナイダー大佐に艦隊を任し、副官のエジード・フォスター中佐と作戦参謀のエレナ・ストラウス少佐、それと護衛隊長のウェスリー・モリス大尉を引き連れてシャトルに乗り、総旗艦までやってきた。

 部屋は簡素だが厳粛な空気に満ちていた。壁にカルデニアの青い紋章が刻まれ、柔らかい照明がテーブルを照らしていた。空気は重く、誰もが疲労と緊張で肩を落としていた。

 グラント大将が上座に座り、ロペス中将は血の滲む包帯を巻き、痛々しい姿で座っていた。それ以外にも、カルデニア艦隊の幹部達が10名ほど並んでいたが、そこにいる誰もが覇気がなく、先程まで居たであろう戦場の苛烈さを物語っているようであった。

 ルーディやロドリゲスが入室すると、グラント大将がゆっくりと口を開いた。


 「ロドリゲス()()、クラウス()()……よく来てくれた。我らの救援に駆けつけてくれたことを感謝する」


 ロドリゲスは、グラントの謝意に頭を下げて答えた。


 「グラント大将閣下……アポロニアスでの戦闘、艦隊の被害を見るからに、想像を絶する戦いであったことは想像できます。グラント大将がご無事で、こうして再びお会いできたこと……()部下として、心より安堵しております。……あと、どうでもいいことではありますが、訂正を失礼いたします。私は現在は中将となっており、クラウスも准将に昇進しておりますので……どうかご注意いただけますと幸いです」


 グラントがロドリゲスやルーディの昇進を知らないことは当たり前ではあるが、ロドリゲスとしては、訂正しないわけにはいかなかった。グラントは別としても、ロペス中将より下位の軍人として話合いが進むことは、ロドリゲスとしては都合が悪かったし、何より彼の高いプライドが許さなかったからである。

 グラントは2人の階級を間違えたことを素直に謝り、カルデニア連合艦隊の現状を話始めた。ローゼンタール、アイゼン両艦隊に壊滅寸前まで追い込まれたこと。ペトロス中将と第2艦隊を犠牲にしてここまで逃げて来たということ。その全てを2人に話、その上で改めて協力を求めた。


 「我々の艦隊には第1艦隊の残存艦19隻と、この総旗艦。そしてそれを護衛する駆逐艦3隻しか残っておらん。貴官達の協力がなければ、もはや、迫ってくるラマーン艦隊と戦うことすらできん。どうか我々と一緒にラマーン艦隊と戦ってくれんか?」


 グラントは再び2人に頭を下げた。それを見て、ロペス含める幹部達も続く。グラントもロペスも、彼らが自分達の救援に来たことは分かってはいたが、不利な状況に陥っている現状にあっては、頭を下げ、改めて協力を頼むことで誠意を見せたつもりであった。

 ロドリゲスは全員に頭を上げるように言うと、笑顔で答える。


 「もちろんです。閣下。私達はその為に遠いエデンⅣから駆けつけたのです。ハイデルは私にとっても故郷です。ラマーンの手に落ちるのを見過ごすわけにはいきませんからな。貴官もそうだろう?クラウス准将」


 ロドリゲスから話を振られたルーディは、難しい顔をしながら答えた。


 「…えぇ、もちろんです。…しかし、私達の艦隊が加わったとしても、ローゼンタール、アイゼン両艦隊に勝てる可能性は限りなく低いでしょう。我々に勝機があるとするならば、アルメリア艦隊の救援まで持ちこたえられるかどうかに懸かっています。ですから、我々はアルメリアの救援が来るまで、なんとか持久戦に持ち込む必要があるでしょう」


 グラントは頷き、ルーディの意見に賛成する意思を見せた。

 しかし、ルーディが次に言った予想外の言葉は、それを聞いていたた幹部達の表情を、怒りや困惑に変えた。


 「そこで、我々が協力するには1つ条件があります。それは、そちらの残存艦の全てをロドリゲス中将の指揮下に入れるということです。数で劣る上に、少数の艦隊が統率も取れずに戦うことほど無謀なことはありません」


 ルーディの発言に激昂した男が、勢いよく席を立ち、興奮しながら反論した。

 カルデニア連合艦隊の参謀長サガ・オルセン中将である。


 「なんだと!!なぜ我々がお前達の指揮下に入るのだ!?貴様の第2独立任務艦隊こそ、ロペス中将の指揮下に入るべきだ!実績も経験もロペス中将の方が優っているのだからな!その上で、ロドリゲス中将とロペス中将の艦隊をグラント総司令官が指揮なさるのが妥当だろう!」


 それを聞いたルーディが、両手を上げて溜め息をついた。それを見たエジードは、ルーディがわざと相手を煽るような態度を取る時は、本気で頭にきている証拠だなと思っていた。


 「で、優秀な指揮官の元で戦った結果がこれですか?」


 エジードが想像していたよりも、ルーディの言葉は過激だった。

 オルセン中将は顔を真っ赤にし、今にも噴火しそうな勢いだったが、ルーディは気にせず話を進めた。


 「失礼を承知で言わせていただきます。80隻もいた艦隊を短時間で僅か20隻程度にまで減らし、多くの犠牲者を出したにも関わらず、ラマーン軍に一矢も報いることが出来ず逃げて来たのでしょう?そんな人に私の大切な部下の指揮権を与えろと?冗談じゃありません。今はあなた達とは上下関係も無い。こちらの条件が飲めないのであれば、私は部隊を連れてエデンⅣに帰らせていただきます」


 流石に煽りすぎたか?とも思ったが、ルーディとしては、偉そうにされる筋合いもなかった。だいたいアルメリア連邦に支援の交渉をしたのは()()()()だ。自分達エデンⅣの艦隊と、アルメリア艦隊の支援が期待出来なければ、カルデニア連合艦隊など、もはやただの敗残兵である。ルーディとしては、今後の為にも立場をハッキリとさせなければならなかったのだ。

 オルセン中将や周りの将校達は激昂し、今にもルーディに殴りかからんという様子だったが、グラント大将は右手を挙げてそれを制し、落ち着いた表情でルーディの要望に答えた。


 「…確かに、貴官の言うこと正論だろう。私達に選択の余地は無い。……わかった。我らの艦隊の指揮権をロドリゲス中将に委譲する。よいかロペス中将?」


 ロペスから言葉は無かったが、小さく頷き、同意の意思を示した。無論、オルセンを始めとする周りの将校は納得はしていなかったが、グラントが決断し、ロペスが同意した以上は従わざるをえなかった。

 ただ1人、それに反対の意思を示したのはロドリゲスであった。

 

 「ちょっと待って下さい。…正直私の能力では、これ以上の艦隊を指揮するに足りません。こちらの指揮下に入るのであれば、クラウス准将の艦隊に合流していただきたい」


 ロドリゲスの隣に立っていたルーディは、話が纏まりそうな時にに何を言いだすのだ思ったが、それはカルデニア連合艦隊の面々も同じであり、作戦会議室ブルーフィングルームが再び荒れ始めた。階級的にロペスと同格のロドリゲスの指揮下に入ることには同意したが、ルーディのような下位の将校となれば話が別だ。

 反対意見が作戦会議室ブルーフィングルームを埋め尽くす中、ロドリゲスは眉間に皺を寄せて野太い声で叫んだ。


 「ラマーン軍と戦っていたのはあなた達だけではありません!私達もつい先日までラマーン艦隊と戦っていたのです。ラマーン軍が私達のハイデル遠征を足止めするために、1個艦隊をエデンⅣに送り込んできたのはご存知か?それを打ち倒したのは誰か知っておられるのか?50隻のラマーン艦隊の猛攻に手も足も出ず、壊滅寸前だった私の艦隊を助け、わずか11隻の艦隊で、50隻の敵を打ち破ったのは誰か?それこそがクラウス准将なのです!そんなことがあなた達に可能でしょうか?いや、無理だ。そんな事は彼にしか出来ない。それでも彼の指揮下には入れないと思う部隊は個別に戦って下さい。私の言ったことを信じる者は、彼の指揮下に入って頂きたい」


 ロドリゲスの言葉は、将校達に、疑惑や希望、自尊心などの葛藤を生み、何とも言い難い感情が渦巻くなか、作戦会議室ブルーフィングルームに静寂が訪れた。

 グラントは目を閉じ、深く息を吐いた。


 「……クラウス准将が優れた用兵家だということはわかった。我々が生き残り、カルデニアを守ることが出来る可能性が少しでもあるのであれば、私はロドリゲス中将の案に乗ろう。皆もプライドは捨てろ。……今ここで、クラウス准将に指揮権を委譲しようではないか」


 もはやグラントの決断に反対する者はいなかった。

 かくして、第1艦隊の残存艦隊約19隻と、総旗艦の護衛をしていた駆逐艦3隻は、第2独立任務艦隊に吸収されることとなり、総数37隻の規模となった。これにより、連合艦隊の総司令部は事実上解体され、グラント始めとした司令部の構成員は、統合参謀本部への報告の為に、総旗艦で一度ハイデルへ帰還することとなった。

 また、第1艦隊司令官であったロペス中将は、ルーディの補佐役として第2独立任務艦隊の旗艦に座乗する予定である。


 こうして、カルデニア連合艦隊との話合いが終わり、旗艦ルミナスに戻ったルーディを待っていたのは、満面の笑みを浮かべたシュナイダー大佐だった。


 「結局、俺の言った通りになったな司令官。これで生きて帰れる見込みも出てきたぜ」


 と言い。大笑いしながら上機嫌になっていた。

 方や、ルミナスに移って来たロペス中将は、しばらく沈黙していた。彼女の瞳には複雑な感情が浮かんでいた。

 そして、静かに呟いた。


 「……クラウス准将。貴官の手腕を信じよう。私の部下を、そして、カルデニアを頼む…」


 ルーディは深く息を吐き、ゆっくりと頷いた。


 「……ありがとうございます。先程は失礼な物言いをしてしまってすいません。私に出来得る限りの努力はしようと思います」


 そういうとルーディは右手を差し出し、2人は握手を交わした。ロペスの手は力強く、瞳は真っ直ぐルーディを見ていた。



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