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流星の英雄~Aias of the Meteor~  作者: 真田らき
第4章:奪還の嵐

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3:邂逅


 ハイデルの宇宙軍基地を離れたカルデニア艦隊は、宇宙空間の深い闇の中を隊列を組んで進んでいた。

 第1艦隊(カミラ・ロペス中将指揮、約40隻)と、第2艦隊(イヴァン・ペトロス中将指揮、約40隻)の連合艦隊は、ラマーン帝国軍の艦隊の進行ルートであるアポロニアス星域を戦場に設定し、目下移動中だった。

 エンジンが低く唸り、艦体が微かに振動するたびに、乗組員たちはシートに体を押しつけ、緊張したように息を潜めていた。艦内の通路では、下士官が部下に声をかけ、士気を保つ為に必死に声をかけており


「ハイデルは我々のものだ。盗人共を必ず打ち倒すぞ!」


 という叫びが、廊下に響き渡った。


 宇宙艦隊総司令官マルコム・グラント大将は、総旗艦の司令席に座り、作戦計画書を確認していた。40年以上王国軍を支えてきた男の顔には深い皺が刻まれ、軍服は長年の着用で少し色褪せていたが、胸の勲章は磨き上げられ輝いていた。

 総司令官の前には、艦隊司令官である、ロペス中将とペトロス中将が立っていた。3人は今、最終的な作戦確認の最中だったのである。短距離通信を使わず、わざわざ顔をつき合わせているのは、盗聴による情報漏洩を恐れていたためであった。

 ロペス中将は指でディスプレイを軽く叩き、赤い進路線を拡大した。


 「ローゼンタールとアイゼンは古くからの親友であり、数々の戦場で共闘し、成果を残してきた名コンビです。ローゼンタールは緻密で無駄のない艦隊運用に秀でており、アイゼンは強引な力業で短期決戦を仕掛けてくるタイプの指揮官です。おそらく、今回もアイゼンの艦隊が先鋒として攻めてくるでしょう。こちらの陣形が薄いと、中央突破され、あっという間に崩されてしまうでしょう。」


 隣に立つイヴァン・ペトロス中将は、腕を組み、黙って画面を見ていた。50代の物静かな男は、。彼はゆっくりと口を開いた。


 「そうだ。だからこそ、奴らにはこの陣形が最も有効であろう。単横陣を5列つくり、中央に突っ込んできた敵を陣の厚さで受け止める。前方2列に位置する私の艦隊が、敵を受け止め時間を稼ぐ。その隙にロペス中将の艦隊は、上下左右から飛び出し相手を包囲する。上手くいけば敵の艦隊を袋小路に誘い込み、一気に殲滅できるだろう。アイゼンの性格と戦術を上手く利用することが、この作戦の肝であり、我らの勝機へと繋がるだろう」


 グラント大将は顎を軽く引き、ホロディスプレイに指を這わせた。赤い敵進路と青い自軍進路が交差するポイントが拡大された。アポロニアス星域。無数の大小様々な小惑星とガス雲が漂う、視界の悪い宙域だ。


 「アポロニアスを選んだのは正解だったな。小惑星の重力井戸の影響で、敵のセンサーも乱れる。いくらローゼンタールが緻密な作戦を立てようとも、何が起こるかわからないのがあの領域だ」

 

 カミラは指で小惑星帯をなぞった。


 「アイゼン艦隊を退けた後、我々第1艦隊は小惑星帯に侵入し、ローゼンタール艦隊に不規則かつ予測不能な攻撃を仕掛けます。」


 イヴァンは頷き、静かに付け加えた。


 「では、私の第2艦隊は、正面から迎え撃とう。奇策と王道の戦法の合わせ技で、敵を混乱させ、陣形を崩そうではないか。戦闘機部隊は陽動に徹して、敵の対空火力を無駄撃ちさせる」


 グラント大将はゆっくりと頷いた。


「いい案だ。だが、まずはアポロニアスへ急ぐ事が先決だ。敵が到着する前に、陣形を整えなければならんからな」


 イヴァンは腕を組みながら、静かに言った。


 「その通りです閣下。我々も自らの旗艦に戻り、アポロニアスに全速で向かうことにしましょう」


 2人の司令官が旗艦を離れ、自らの艦に戻ったのを見届けたグラント大将は、両手をテーブルに突き、ゆっくりと息を吐いた。ブリッジの照明が彼の白髪を照らし、勲章が鈍く光った。


 「全艦、前進速度を維持しろ。目標はアポロニアス星域。敵の艦隊より前に到着し、迎撃陣形を整えるのだ」


 グラントの低く厚みのある声が、艦橋に響き渡った。



 カルデニア連合艦隊は限りなく最大戦速に近い速度で航行し、アポロニアス星域に近づいていた。すると、徐々に艦内の空気は張りつめ、乗組員たちはシートベルトを締め直した。機関室では整備士がエンジンの温度を監視し、「過負荷に注意しろ!」とヒステリックな声で叫んでいる。医療室では医師が慌ただしく負傷者用のベッドを準備し、航宙母艦の格納庫ではパイロットたちがコクピットで呼吸を整えていた。


 一方、ラマーン帝国軍の2つの艦隊は、堂々とカルデニア領宙域へ進撃していた。マティアス・ローゼンタール中将とルーカス・アイゼン中将が共同指揮する2つの精鋭艦隊は、単縦陣の整然とした陣形を保ちながら前進していた。重巡航艦が中央を固め、駆逐艦群が前衛に展開し、旗艦は後方に位置していた。

 ローゼンタール中将は旗艦のブリッジで、冷静にモニター越しの宇宙空間を眺めながら、もう一人の司令官と短距離通信で会話をしていた。


 「偵察部隊からの報告によれば、敵の艦隊は80隻程度。やつらはアポロニアス星域を戦場に設定したようだ。カルデニアのやつらは逃げずに抵抗するつもりらしい。ルーカス、いつものようにお前が先陣をきれ。中央突破し陣形が崩れたところで俺が追い討ちをかける」


 アイゼンは画面の向こうで笑いながら答えた。


 「了解だ、マティアス。俺の艦隊で敵を粉砕してやる。その代わり後で文句いうなよ。俺が全滅させるかもしれんからな。お前が相手をする敵はいないかもしれんぞ。まぁとにかく、派手に勝とうぜ!」


 ローゼンタールはわずかに口角を上げ返答する。


 「……派手すぎるのはお前の専売特許だ。だが、今回はそれでいい。カルデニア艦隊を短時間で潰す。アルメリアのゴミ共が出てくる前にハイデルまで侵攻するぞ」


 アイゼンは返答する代わりに、拳を握り、画面越しに突き出した。


 ラマーン艦隊は加速を続け、アポロニアス宙域の外縁に迫っていた。カルデニア艦隊とは対照的に、乗組員たちは自信に満ち溢れ、ブリッジでは士官たちが笑い声を上げていた。常勝の司令官2人の部下達には、帝国の勝利を疑う者など誰もいなかったのである。

 一方カルデニア艦隊は、一足先にアポロニアス星域に到着し、グラント総司令官が総旗艦で命令を下していた。


 「全艦、戦闘配置。敵は100隻、我々は80隻、数的には不利だ。だが、そんなことは関係ない!絶対に勝たねばならんのだ!負けは許されん!これはカルデニアの存亡をかけた戦いなのだ!ハイデルに無事に帰りたいだろう!?家族に会いたいだろう!!であれば、全員死ぬ気で勝て!」


 グラント総司令官の声が各艦に響き渡ると、それに呼応するように、乗組員達が「おぉー!」と声を上げ、拳を掲げていた。


 カルデニア艦隊の陣形は単横陣が5重になった陣形をとっていた。1列目と2列目にイヴァン中将の第2艦隊の艦艇が並び、この艦隊が前方を担当することとなる。3列目と4列目にはロペス中将の第1艦隊が担当。最後の列に総旗艦とそれを守るように駆逐艦数隻が並んでいる。

 ロペス中将とイヴァン中将は、それぞれの艦隊の隊列整え、敵の到着を待った。


 そして、両陣営の艦隊はついに遭遇するに至った。

 ラマーン艦隊100隻の大軍が、アポロニアス星域に現れ

、互いの射程距離ギリギリの位置で止まり、数万キロを隔てて睨み合った。

 ローゼンタール中将は回線を繋ぎ、カルデニア艦隊に宣戦布告した。声は冷たく、威圧的だった。


「私はラマーン帝国軍のマティアス・ローゼンタール中将だ。我々は今からハイデルへ侵攻する。大人しく撤退するなら、命だけは助けてやらんこともない。ただし、抵抗し邪魔をするならば、貴様らは無惨にも宇宙の藻屑となるだろう」


 グラント大将は、静かに返信した。声は低く、しかし揺るぎない。


 「ローゼンタール中将。申し訳ないが、わしらには撤退する意思はない。だが、宇宙の藻屑になる気もない。今さら言葉などいらんだろうて。正々堂々と戦え。ワシがお前を地獄へ送ってやるわ、若僧!」


 ローゼンタールはわずかに口角を上げ、冷笑を浮かべながら応える


 「…いいだろう。生き延びるチャンスを与えてやったのだがな。せめて最後ぐらい派手に殺してやろう」


 通信が切れたと同時に、カルデニア艦隊総旗艦の通信士が叫ぶ


 「敵の艦隊が動き出しました!最大戦速で迫ってきます!」

 

 先手を切ったのはアイゼン艦隊だった。猛烈な速度でカルデニア艦隊に迫ろうとしていた。駆逐艦群が先陣を切り、重巡が主砲を構え、猛獣のように前進している。

 宇宙空間が閃光と爆炎で染まり、戦いの火蓋が切られたのであった。



 一方その頃、衛星ナポレにある駐屯基地を出発したカルデニア()()の艦隊は、カルデニア()()()軍の救援に向かうために進軍していた。

 第2独立任務艦隊の司令官ルーディ・クラウスは、いつものような態度で司令席に座り、幕僚達と作戦を練っていた。口火をきったのは艦隊の参謀長を務める男だった。


 「我々の艦隊は数が少なすぎやしないかね司令官。俺達の作戦は、まず、ロドリゲス中将から指揮権を奪うことじゃないか?全艦とは言わん、半分でもいいからよこせと言ってみたらどうだ?」


 参謀長のシュナイダー大佐は、何も悪びれもせず真剣な表情でルーディに進言した。ルーディは呆れた表情をシュナイダーに向けたが、言葉を発したのは別の幕僚だった。


 「シュナイダー大佐。今はふざけている場合ではありません。参謀長なら参謀長らしい提案をしていただきたい」


 そう苦言を呈した作戦参謀のエレナ・ストラウス少佐が、シュナイダーを鋭い目付きで睨みつけていた。しかし、シュナイダーは全く気にする素振りも見せず反論した。


 「おいおいストラウス少佐、俺はいたって真面目に提案してるんだ。だいたいロドリゲス中将は、こういう状況だから艦隊司令官になれたのは間違いないだろう?先日の件もそうだ、俺らが救援に駆けつけなかったら奴の艦隊は壊滅し、エデンⅣだってどうなっていたか分からなかっただろ?それが事実だ」


 シュナイダーの発言は、軍隊という階級社会の組織に属する人間としては、容認されるものではなかったが、正論ではあった。周りにいた幕僚達が苦笑いを浮かべながらも、何も言えなかったのは、皆が心の中では思っていたことだったからだ。しかし、ルーディまでそれに同調する訳にはいかなかった。彼は頭を掻きながら、シュナイダーを諭した。 


 「大佐。そんなことを言っても何も始まらないだろ。不可能な事を作戦に入れるわけにはいかないからね。それに、万が一俺が1個艦隊を指揮できたとしても、有能かどうかなんてわからない。そんな大部隊を指揮したことがない男をこれ以上過大評価しないでくれ。」


 それを聞いてもシュナイダーは納得しなかった。


 「逆にあんたは自己評価が低すぎるんだ。おまけに欲もない。俺ら軍人は命をかけて戦ってるんだ。どうせ死ぬなら優秀な指揮官の下で死にたいと思って何が悪い。無能な奴の下で死んだんじゃ、悔しくて成仏もできんだろうよ」


 それを聞いたルーディは立ち上がり、先ほどよりも少し強い口調で言った。


 「大佐やめてくれ!俺ら軍人が身勝手に力を求めたら、民主主義に亀裂が生まれ、軍国主義に足を踏み入れることになる。俺はそれを望まない。俺は今の立場で出きることをするだけだ」


 シュナイダーは、本心としては納得出来てはいなかったが、それ以上は何も言わなかった。ルーディが言っていることは理解していたし、彼の言い分は正しかったからだ。

 結局のところ、民主主義国家においては、軍人というのは、選挙で選ばれた文民の指揮・監督下で業務を遂行する存在であり、文民統制シビリアン・コントロールという原則の上に存在している。軍は政治的中立の立場にあり、法の支配のもとで活動することが求められている以上、自分勝手な言い分で、指揮系統をむやみに壊す行動はとるべきではないのだ。無論そんなことはルーディもシュナイダーもわかっている。だが、命をかけた戦いの中では、そんなものは綺麗事にすぎないのではないかと、シュナイダーは思っていた。命よりも大事なものは無い以上、生き残る為に最善の道を選ぶことが、そんなに駄目な事だとは思えなかったのだった。

 ともかく、ルーディとしては、自分に与えられた15隻の艦隊を使い、ラマーン帝国に対して出来得る限りの事をするしかなかった。

 しかし、数日後、シュナイダーの望みが最悪の形で実現することになろうとは、この時はだれも想像していなかった。



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