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流星の英雄~Aias of the Meteor~  作者: 真田らき
第3章:星屑達の絵図

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5:石の女王


 アルメリア連邦の歴史は、人類の星間拡大時代に遡る。数百年前、地球圏から脱出した移民団が、豊かな資源惑星「トロイアーク」を発見し、そこを拠点に国を築いた。トロイアークの豊富な鉱物資源と彼らの高度な技術開発によって、国は急速な成長を遂げた。アルメリア連邦は、自由主義と資本主義を掲げ、周辺星系を経済力で取り込み、軍事力を背景に領土を拡大していった。転機は150年前の「第2次星間大戦」だった。共産主義陣営の侵攻を、革新的な艦隊戦術と同盟国との連携で撃退し、星間国家の覇者となった。今やアルメリア連邦は、経済規模や軍事力で他を圧倒するほどの超大国となった。連邦軍は『宇宙の守護者』を自称する。他国間の争いにも積極的に介入し、自主的に宇宙平和の維持を担い、星間国家に多大な影響力を持っている。


 アルメリア連邦が誇る首都星トロイアークは、地球のような美しい惑星だ。直径1万2千キロの青緑の球体で、大気は人類にとって完璧な酸素バランスを保ち、表面の70%が海洋、残りが大陸と都市群。この中でも、中央都市『アポロニアス』は、大陸中央に広がるメガシティで、そこだけで5億人程の人々が住んでいる。高層ビルが空を突き刺し、ネオンライトが夜を彩る。街路は浮遊自動車で埋め尽くされ、空には浮遊タクシーが飛び交っている。連邦の富が集中し、一見すると経済格差は少ないように見えるが、移民労働者が支える地下経済も存在する。


 トロイアークの軌道上にある衛星都市『オービタル・ガーデン』は、宇宙軍の軍事基地になっており、連邦軍の艦隊が常駐している。居住区や商業区も存在し、巨大な衛星都市としての側面もあった。そこから首都へ繋がる宇宙エレベーター『スカイ・リンク』があり、アルメリア連邦の技術力の象徴となっている。

 

 ルーディの小艦隊、第2独立任務艦隊-通称REAVERリーヴァー-は、アルメリア連邦の外縁宙域に到着していた。15隻の艦艇は超光速航法フォールド・ドライブを抜け、首都星トロイアークの青い輝きを視界に捉えた。旗艦ルミナスの艦橋で、ルーディ准将は腕を組み、モニターを眺めて思った(エデンⅣよりだいぶ美しい惑星ほしだな…)と。


 通信士が報告した。


 「アルメリア連邦管制局から入電。衛星都市オービタル・ガーデンへの着艦を許可。宇宙エレベーターで首都へ降下せよ、とのこと」


 シュミット首相は頷き、グレイ知事に話しかける。


 「グレイ知事やっと来ましたね。ここからは私達の出番です。頑張りましょう」


 グレイ知事は難しい顔に少し笑みを浮かべて答えた。


 「ああ、そうだな。私達に出来ることは全部やって、成果をエデンⅣに持って帰ろう」


 艦隊は衛星都市オービタル・ガーディアンに接近した。衛星は巨大な環状構造で、直径100kmの巨大な建造物である。重力を発生させるため、ゆっくりと回転しているのがわかる。無数のドックと防衛砲台が並び、連邦軍の艦隊が停泊していた。重巡航艦ルミナスはドックにドッキングし、惑星に降りる人員は、用意された自動走行車に乗り込み、衛星都市の中心に向かった。オービタル・ガーデンの中心にある回転軸には、首都星トロイアークから1本の真っ直ぐと延びた宇宙エレベーターの入口があった。一行はそこで降下カプセルに乗車し、惑星を目指す。

 宇宙エレベーター『スカイ・リンク』のカプセルは、ガラス張りの豪華なものだった。直径20mの円筒形で、内部はラウンジ風になっている。シュミット首相、グレイ知事、官僚たち、そしてルーディ、エジード中佐、フリーダ大尉、モリス少佐らが乗り込んだ。ちなみに、第2独立任務艦隊は、参謀長のシュナイダー大佐に代理司令官として任せてあった。カプセルはケーブルを滑り降り始め、窓からはトロイアークの青い大陸が見える。エジードはアイスブルーの瞳で外を眺め、


 「クラウス司令官、この惑星は美しいですね……」


 と呟いた。それは心の底から感じているようにルーディには見えた。


 「エジード、お前変わったな。…良い方向に」


 モリス少佐は巨漢の体を座席に沈め、


 「司令官、俺の体重でエレベーターが落ちませんかね?」


 と冗談を飛ばしていた。ルーディは顎を撫でて笑った。


 「心配すんな、モリス少佐。君ならここから落ちても死なない気がする」


 カプセルは大気圏を脱出し、中央都市アポロニアス側のターミナルに到着した。降り立つと、少し乾いた空気とネオンの匂いが迎えた。

 連邦軍の警備隊が敬礼して出迎えている。シュミット首相は知事と先頭に立ち、ルーディたちは後ろを歩いた。

 街は活気に満ち、浮遊広告が飛び交い、多様な人種の市民が忙しなく動いていた。


 大統領府は、アポロニアスの中心にそびえる白い要塞のような建物だった。エントランスで自ら出迎えたのは、アルメリア連邦大統領マーガレット・ローズベルトである。彼女は今年65歳になる女性で、金髪を結い上げ、赤いスーツに身を包んでいた。目付きは鋭く、口元に自信たっぷりの笑みを浮かべ、声は低くて力強い。


 「ようこそ、カルデニア王国の皆さん!そして 私の旧友グレイ! よく来てくれたわね。さあ、中へ入って。話はゆっくり聞くわよ」


 グレイ知事は笑顔でハグし、大統領と挨拶を交わす。


 「マーガレット、久しぶりだ。元気にしてたかい?」


 と、親しげに話した。シュミット首相は丁寧に頭を下げ、


 「大統領閣下、ご多忙の折、ありがとうございます」


 と少し固い挨拶をする。ルーディは軍人らしく敬礼し、礼儀正しく挨拶した。

 

 「ルーディ・クラウス准将です。お目にかかれて光栄です。大統領閣下。」


 と言い慣れてない言葉で言うと、ローズベルト大統領はニッコリと笑い、ルーディと握手を交わした。その感触は、とても65歳になる女性とは思えぬほど力強かった。


 マーガレット・ローズベルトは、アルメリア連邦の歴史に刻まれるほどの異色の経歴を持つ女性大統領だ。彼女は連邦の首都星トロイアークの小さな街で生まれ、父は中堅企業の鉱業技師、母は学校教師というごく普通の家庭で育った。

 幼少期から機械いじりとビジネスに興味を示し、14歳で小型の資源探査ロボットを自作。連邦の名門大学「アルメリア工科大学」に推薦で入学した。

 大学卒業後、彼女は政治家を目指すわけではなく、すぐに起業の道を選んだ。25歳で設立した会社『ローズベルト・テクノロジーズ』は、連邦の鉱業分野で革命を起こした。彼女が開発したのは、『量子スキャナー・ドリル』という革新的な資源採掘技術だ。これは量子コンピューターを応用したスキャナーで、惑星の地下深くまで瞬時に資源を検知・分析し、ドリルが自動的に最適ルートを掘り進むもの。従来の採掘技術より効率が5倍に上がり、環境負荷を半減させた。この技術は資源豊富な星で爆発的に普及し、会社は連邦最大の資源企業に成長した。マーガレットは30代で億万長者となり、『石の女王』と呼ばれるようになった。

 しかし、彼女の人生はビジネスだけでは終わらなかった。50代に入り、連邦の資源政策に不満を抱き、政治活動を始める。会社のCEOを辞任し、大統領選に立候補した。資源開発の規制緩和を訴え、大衆の心を掴んだ。対立候補を圧倒的な経済知識と演説力で破り、当選したのである。就任以来、経済政策だけでなく軍事予算の増大にも力をいれ、強権主義に走るラマーン帝国に対抗する姿勢を強めている。彼女の政治スタイルは派手で、時には過激な発言で注目を集めるが、アルメリア連邦の繁栄を第一に据えた、実業家らしい現実主義が支持を集めている。


 

 シュミット首相ら政治家達は大統領の執務室に通された。執務室は広大で、ホロディスプレイが壁一面に広がっていた。ここで、カルデニア王国の行く末を左右する交渉が始まるのである。

 一方、ルーディをはじめとした軍人達は、交渉の間、別の部屋で待機することになった。

 用意された部屋は広い会議室で、執務室と違って何の装飾もない無機質な部屋だった。

 そこへ1人の男がやって来た。アルメリア連邦軍最高司令官のロバート・ハント大将であった。軍人なら誰もが名前を知るほどの大物である。60を過ぎた年齢だが、肌艶も良く血色も良い。見るからに勇敢な熱血漢という感じだった。巨漢の体に髭を生やし、声は雷のように響いた。


「ようこそ皆さん!そして、 カルデニアの英雄クラウス准将! 君のハイデル脱出の話は聞いているぞ。10年前の青の小惑星帯コバルトリングの事もな。俺はずっと君に会いたいと思っていたんだ。その若さで大変だっただろう。さあ、座ってくれ。俺はロバート・ハントだ。一応連邦軍では偉いほうだ。だが、そんなことは気にするな。君の話を聞きに来たんだ。クラウス准将はなかなかの戦略家だと評判だからな」


 ルーディは完全にハント大将の勢いに飲まれていた。


 「あ…ありがとうございます、最高司令官閣下。私が生き残れているのは、ただ単に運がいいからですよ。それに助けてくれる優秀な部下に恵まれたことですね」


 ハントは大笑いし、ルーディの背中をバシバシと叩いた。


 「ははは! 謙遜か?俺はそんな君が気に入った! 部下思いの良い指揮官だな。俺の部下たちも、君の脱出劇に感心してるぞ。とりあえず、今のハイデルやカルデニアの状況を詳しく聞かせてくれ。最終的な判断は大統領が決めるが、俺は同盟国として出来ることは協力したいと考えてる」


 ルーディはフリーダに目配せし、情報をまとめたホロファイルを受け取り、ハントに渡した。ハントは真剣に資料を読みながら話した。


 「ふむ、ドゥランの狐め、やはりラマーンと結託しているのか! 許せんな! 俺の艦隊でぶっ飛ばしてやりたいもんだ!」


 と拳を叩いた。ルーディは内心、面倒くさい人だなと思いながらも、この熱血漢が味方になってくれたら頼もしい限りだなとも感じていた。

 アルメリア連邦との交渉はここから数日間に及ぶだろう。ルーディは心の底から成功を祈った。ラマーンの軍事力に対抗するためには、アルメリアの力は必要不可欠だったからだ。



 大統領執務室では、交渉が始まろうとしていた。

 マーガレット・ローズベルト大統領は席に座り、両肘を机につき、組んだ両手の上に顎を乗せながら話し出した。その眼光は鋭く、執務室に緊張感が張り詰める。


 「さぁ始めようではないか。カルデニア王国とアルメリア連邦、2つの国の未来に関わる話を」




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