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流星の英雄~Aias of the Meteor~  作者: 真田らき
第3章:星屑の借り物

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22/24

2:第2独立任務部隊


 ハイデルからの()()()()がエデンIVに到着してから、ひと月が過ぎようとしていた。

 エデンIVの衛星『ナポレ』には、カルデニア宇宙軍の駐屯基地がある。ルーディ・クラウスは、そこに駐留していた重巡航艦『ルミナス』の艦橋にいた。

 艦長席に座り、エデンⅣの市場で買ったご当地菓子を、とても艦長とは思えない姿勢で食べていた。まるで、今までのストレスを全て発散するように、想像し得る中でもっとも悪い姿勢でリラックスしていた。

 あのままエデンIVにいたら、俺の髪の毛は凄い速度で後退していたかもしれないと、ルーディは本気で思っていた。


 エデンⅣに初めて降り立ったあの日、初対面のルーディに、罵声の限りを浴びせたガルシア・ロドリゲス少将。その顔を頻繁に見なければならないのがストレスの原因だった。

 ロドリゲスは、ルーディの顔を見る度に嫌味を言うのが日課となっており、ルーディは気にしないように、引きつった笑顔でやり過ごしていたのだが、さすがに1ヶ月も続くとルーディにも我慢の限界だった。とうとうルーディは、なんだかんだと理由をつけて、シャトルに乗って宇宙へ逃げたのだ。

 ルミナスでのルーディは怠惰の限りを尽くした。艦内の自室で歴史書を読み、艦橋で作戦データを確認する…フリをして本を読む日々。(いっそこのまま一生過ごしてもいい)などと不謹慎な事を考えていた。

 大変だったのは副長のカーラ・ベネット中佐と、エジード・フォスター少佐だった。2人は、ルーディが本来やるべき仕事から、個人的雑務までやらされていたからだ。ベネットは駐屯基地とルミナスで、エジードはエデンⅣで、ルーディとは違い忙しい日々を過ごしていた。

 ベネットは一度エジードに連絡をとり、ルーディの怠け癖を注意してくれと頼んだことがあった。しかしエジードは「大佐に頼られているということです。」と当たり前のように答えて通信を切ったのだった。

 ウェスリー・モリス大尉は相変わらず元気で、艦内の訓練を主導し、乗組員たちの士気を保ってくれていた。


 この1ヶ月で、カルデニア王国正統政府の体制は着々と整っていた。首相に就任したアンナ・シュミットが中心となり、エデンIVの議事堂を拠点に組織を構築したのである。

 また、ドゥランのやり方に与せず、正統政府の理念に共感したカルデニアの政治家や官僚たちが、ハイデルから脱出し、続々とエデンIVに集まってきていた。さらに、青の小惑星帯コバルトリングの哨戒任務に就いていた第3艦隊のうち約3分の1ほどの部隊も、味方であったカルデニア艦隊から追跡を受けながらも、それを振り切り合流を果たした。他にも、カルデニアの領宙にある惑星から、志願者や支援者がシャトルでエデンⅣにやって来ていた。これによりエデンⅣに駐留する戦力は、約1.5個艦隊ほどに膨れ上がり、衛星ナポレの軍事基地は活気づいていた。ルーディは艦橋でデータを眺め、(思ったより集まってるな……だが、まだ足りないな)と、足をデスクに投げ出したまま考えていた。


 そんなある日、ある女性士官がナポレ駐屯基地に到着した。彼女は第3艦隊において、情報分析の担当官を務めていたが、今回の件で迷わずエデンⅣの駐留部隊に合流することを決め、仲間達と共にエデンⅣにやってきたのである。

 彼女は衛星ナポレの基地に到着すると、早々に、ルーディ・クラウス大佐に会う為、重巡航艦ルミナスを訪問した。艦橋で再会したルーディと懐かしげに言葉を交わし、少し疲れた顔に笑みを浮かべていた。


 「クラウス大佐、久しぶりですね。あの時の借りを返しに来ましたよ」


 ルーディは肩をすくめ、苦笑した。


 「フリーダ・ベッカー少尉…いや大尉、生きててよかった。青の小惑星帯コバルト・リングの戦い以来だね。あれからもう10年経ったなんて信じられない。」


 2人はハイデルの病室での記憶を振り返り、軽く握手した。そこへベネット中佐が入ってきた。彼女はフリーダとルーディの仲の良さを察し、嫉妬の視線を向けた。ベネットの赤毛が揺れ、明るい性格が一瞬曇る。


 「クラウス大佐!忙しいんですから、喋ってないで手伝って下さいよ。だいたい、この人誰ですか?」


 ルーディはため息をつき、ベネットをなだめた。


 「ベネット中佐、彼女はフリーダ・ベッカー大尉だ。士官学校時代の同級生なんだ…そういえば、君は今からエデンIVに降りるんだろ?ベッカー大尉はここに来たばかりで、まだ下には降りたこと無いらしいから、一緒に連れて行って案内してあげれば?どうかなベッカー大尉?」

 

 フリーダはちょっと戸惑った様子だったが、ベネット中佐が良いのであればお願いします。と返答した。ベネットは頰を膨らませたが、結局フリーダを連れてエデンIVへ降下していった。だがその時、2人は全く同じ感情を抱いていた、(女心がわかっていない)と。


 

 軍部の組織編制も滞りなく進んでいた。ハイデルの統合参謀本部に変わって、エデンⅣ駐留軍を統括する組織が発足した。それが『統合軍事本部』である。本部長には、元第3艦隊司令官の、マルコ・リベラ中将が大将に昇格したのち就任する。今後、この組織がエデンⅣの駐留軍全体の調整と、作戦立案を統括する組織となる。

 また、ガルシア・ロドリゲス少将が中将に昇格し、艦隊司令官に着任。エデンⅣに集結した1個艦隊の指揮を執ることとなり、これが実質的なエデンⅣの主力艦隊となる。そして、残りの半個艦隊ほどの艦で小艦隊を組織し、独自の任務を与えられる予定となっている。


 重巡航艦ルミナスにも、エデンⅣにある統合軍事本部から短距離通信レーザー・コムによって辞令書が届いた。

 ルーディ・クラウス大佐、エジード・フォスター少佐、カーラ・ベネット中佐、ウェスリー・モリス大尉が、それぞれ一階級昇進することが通達された。王子殿下と王女殿下を救出したことの功績によるものだが、駐留軍には上位の階級にある軍人が不足しており、それを補うという意味もあった。

 ルミナスで、怠惰の極致を極めようと考えていたルーディにとって、昇進の通達は何一つ嬉しい事ではなかった。たが、追い討ちをかけるようにエデンIVから通信が入ってきた。送信元はシュミット首相だった。


 艦橋のモニターにシュミットの顔が映る。彼女は疲れた表情だが、目には決意が宿っていた。


「クラウス准将、ご苦労様。昇進の通達は受け取ったでしょ?おめでとう。さっそくで悪いんだけど、准将に昇格したあなたに大事な任務があるの」


 嫌な予感がしたルーディは、腕を組み、足まで組んで、とても首相に対する態度とは思えない姿勢で聞いた。


「どういうことですか、首相」


 シュミットは説明した。


「今の我々の現状を考えると、いくら戦力が集まったとはいえ、ラマーンやハイデルの自称カルデニア国と相対するには、まだまだ力不足感は否めないわ。そこで、私達は同盟国のアルメリア連邦に協力を求めに行くことになったの。そこで、あなたに道中の護衛を任せたい。だから、今日付けであなたを小艦隊の司令官に任命するわ。編成と人事もある程度の権限を与えるから、なるべく早く準備してほしい。もちろん私もできる限りの協力は惜しみません。詳細は追って短距離通信レーザー・コムで送りますから、頼みますね」


 シュミット首相は一方的に話した後、慌ただしく通信を切った。

 ルーディはため息をつき、正直面倒くさいなと思ったが、やるしかなかった。唯一の救いは、編成と人事権を与えられた事だった。どうせやらないといけないなら、上から口出しをされる前に、この権力を大いに使って艦隊を編成してやろうと思ったのだ。ルーディはすぐさまベネットとエジードに連絡を取り、指示を出した。こうして急遽ルーディ小艦隊発足に向けての準備が始まった。


 ルーディは手始めに、自分の身近な人事から固めた。

 まず、自分の()()()な役割を担う副官に、エジード・フォスター中佐を、小艦隊の旗艦となるルミナスの艦長に、カーラ・ベネット大佐を、ウェスリー・モリス少佐は、司令官の護衛隊長に任命した。

 次は、司令部を構成する幕僚人事を考えるにあたり、ルーディはナポレ駐屯基地を練り歩き、自らの目で見て、優秀な人材をヘッドハンティングして回った。幕僚はそこで見つけた人材で組織したのである。

 参謀長にはカール・シュナイダー大佐。43歳の男で、ルーディと彼は、駐屯基地内の士官サロンで彼と意気投合したのである。正直、参謀タイプの軍人ではなく、肉体派の軍人であった。鍛え上げられた肉体と、大人の色気漂う色男で、かつ豪快な人物でもあり、部下からの信頼も厚い男だった。女性関係は派手だが、普段は至って常識的な人物だとルーディは評価していた。

 士官サロンでは、シュナイダー大佐以外にも、ルーディにとって恩師のような存在にも再会することが出来た。ニコライ・ドラホス特務曹長である。彼とはルーディが大尉になったばかりの頃、同じ艦で共に働いた時期があった。今年で47歳になるドラホスだが、豊富な経験と並外れた指導力を持ち合わせていた。ルミナスに乗艦していた時期もあり、現乗組員にも彼の教え子といえる兵達が多くいる。今は別の部隊に所属していたが、ルーディは軍務本部に掛け合い、半ば強引に小艦隊の先任曹長として迎えることにしたのである。

 作戦参謀には、エレナ・ストラウス少佐を任命した。36歳の女性で、シュナイダー大佐とは真逆の性格だった。真面目を絵に描いたような人物で、正直ルーディは苦手なタイプだったが、不真面目が服を着てるような自分には、絶対必要な人材だと自分に言い聞かせ、自らの心と葛藤しながら彼女をスカウトした。

 後方参謀は、ティモシー・ウィルソン大尉にお願いした。彼は32歳でルーディの1つ下の男性だった。いつも自信無さげに基地内を歩いていて、何故か普段はおどおどしているが、補給計画の立案に定評があることが分かったルーディが、一番最初にスカウトしたのが彼だった。

 そして、情報士官には、フリーダ・ベッカー大尉を任命した。彼女の情報分析力は疑いようもなく、ルーディも信頼を置いていたので、このポジションの人事を迷うことはなかった。フリーダも二つ返事で承諾してくれたのだった。

 こうして、司令部の人事は比較的スムーズに進んでいった。

 

 だが、 大変だったのがルミナスの改修工事だった。

 ルミナスは通常の重巡航艦であり、それを指揮専用の指揮重巡航艦に改造しなくてはいけなかったのだ。乗り替えようにも、ナポレ駐屯基地には余分な指揮専用艦が無かったため、ルミナスを突貫工事で改修したのである。

 司令部区画の拡張。通信・情報機器の増強。幕僚用の個室やブリーフィングルームの追加。脱出ポッドの追加。シールドジェネレーターの増設。などであるが、それらをわずか2週間程で終わらせたのは、技術者と作業ロボットの努力の賜物であった。

 

 こうして、急遽編成されたルーディが司令官を務める小艦隊が、正式に動きだしたのである。

 艦隊の規模は約半個艦隊の15隻で構成されている。

 旗艦となる指揮重巡航艦1隻、重巡航艦1隻、軽巡航艦隊4隻、駆逐艦6隻、航宙母艦1隻、補給艦1隻、偵察艦1隻。という構成である。

 ガルシア・ロドリゲス中将が率いる、第1艦隊の半数程度の規模ではあるが、このルーディ率いる小艦隊は、カルデニアの第2戦力として、これから重要な任務を遂行していくこととなる。

 小艦隊の正式名称は『第2独立任務艦隊』であったが、ラマーンとドゥランの手からカルデニアを取り戻す。という意味を込めて、通称『REAVERリーヴァー』のコードネームで呼ばれる事が、正式に発表された。

 最初これを聞いたルーディは、エジードに小声で呟いた。


 「エジード、きっと軍務本部には中等部の生徒がいるはずだぞ。この名前を考えたのは()()()だと俺は睨んでいる。」


 エジードは何も言わず、最近覚えた愛想笑いをしていた。


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