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流星の英雄~Aias of the Meteor~  作者: 真田らき
第2章:砂漠の王

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6:深謀の罠


 シャトルはガーディアンを離脱し、重巡航艦ルミナスへの帰途にあった。

 副長のカーラ・ベネット中佐が操縦桿を握り、エジード・フォスター少佐は隣でシステムを監視していた。ルーディ・クラウス大佐は後部座席で腕を組み窓の外を眺めている。

 会議が2時間にも及び、疲労が3人を襲っていた。シャトルの内部は静かで、エンジンの低いうなりだけが響いていた。


 ルーディの視線が前方に固定された。目的の艦が見えたからである。シャトルはゆっくりとルミナスに近づき、ベネットがドッキングベイの開口を要求した。応答がない。ベネットはパネルを叩き、何度も通信を試みた。

 

 「ルミナス、こちらベネット中佐。ドッキングベイを開けろ! 応答せよ!」


 何度やっても応答は無かった。するとルミナスの艦体はゆっくりと回転し、ハイデルの大気圏に向かう軌道を取る。それを見たベネットの顔が青ざめた。

 

 「大佐、ルミナスが何故かハイデルに戻ろうとしてる! 早く何とかしないと、大気圏に突入してしまうわ!」


 エジードのアイスブルーの瞳が細まる。


 「大佐、何か嫌な予感がします。」


 ルーディは落ち着いて腕輪型端末ネクサスリングを操作し、ルミナスの艦内カメラにアクセスした。端末の上に立体映像が映し出される。艦橋の映像だったが、何か様子がおかしかった。乗組員は何かに怯えているように見えた。ルーディが映像を切り替えると、艦長席の前に、ジェイクの首元にナイフを突きつけた男が立っていた。その回りにも武器を持った男が数名確認できた。ジェイクにナイフを突きつけている男は、30代後半の瘦せた体型で、軍服を着ていた。ルミナスの乗組員で間違いはない。だが、興奮しているのか目が血走っていた。ジェイクは顔を歪め、ゾフィーは隣で震えていた。男は何かを叫んでいるように見える。ルーディは艦内音声にもアクセスする。男の声が聞こえてきた。


 「…近くに来ているんだ。どうせ艦内映像を見てるんだろ大佐。残念だが、あんたの任務は失敗だ。王子と王女を人質に取らせてもらった。俺達は今からハイデルに戻ることにするよ。」

 

 映像を見ていたベネットが息を飲んだ。


 「どうして……艦内に裏切り者が…」


 事態の深刻さに、ベネットとエジードが冷や汗を流すなか、ルーディだけは無表情で冷静だった。「全くご苦労なことだな」と2人にも聞こえないほど小さな声で呟くと、腕輪型端末ネクサスリングを操作して、誰かに信号を送っていた。すると突然、ルミナスの艦内に白い霧のようなものが勢いよく吹き出した。艦内が真っ白になり映像が見えなくなった。数十秒後、徐々に霧が無くなっていくと、艦内の様子が見えてきた。そこに映っていたのは、床やコンソールの上に倒れている乗組員や反逆者達の姿だった。艦内に吹き出した白い霧が原因なのはわかるが、なぜこのタイミングで発射され誰がやったのか、ベネットにもエジードにも理解できなかった。

 ベネットがルーディを見て驚いた表情で聞いた。


 「大佐、これは…どういうこと……」

 

 「万が一のためだ。軍内部にもドゥランの息がかかった者が大勢いる。ガーディアンに行く前に、技術士官のエラーラ・フォス大尉に頼んで罠を仕掛けさせた。睡眠ガスだよ。俺達がいない間に何かあったら困るから、念のためにね。まさか本当にこれを使う事態になるとは思ってなかったけど。」

 

 ガーディアン行きのシャトルに乗り込む直前、ルーディが技術士官に耳打ちしていたのはこの事だった。

 ルミナスに着いてからも、ルーディはずっと胸騒ぎがしていた。参謀総長から『宇宙軍内部にもラマーンの触手は伸びている』という情報を聞いて以降、ルミナスにも、ラマーンやドゥランに与する連中がいるかもしれない。と感じていたからだ。こんな作戦を行使しなくて済むのが一番よかったが、予測できることは対処しておくべきだ、というのがルーディの考え方であった。

 さすが大佐!とベネットがルーディに抱きついた。エジードは(この人はどこまで先を予測しているんだ)と思い感嘆した様子だった。


 ルミナスから通信が入った。エラーラ・フォス大尉だった。彼女はマスクを外し、顔を拭いていた。


 「大佐、上手くいきましたね。もう大丈夫です、ガスを排出しましたから。今からドッキングベイを開けます。」


 ルミナスのベイがゆっくりと開いた。シャトルを侵入させると、固定クランプが締まるのを待ってハッチを開けた。ルーディたちは艦内へ入り、艦橋へ急いだ。道中の艦内は、眠った乗組員たちが散らばっていた。

 艦橋にいた反逆者たちは全部で6人。全員眠っている。ジェイクやゾフィー王女も無事だった。睡眠ガスの影響で眠っているだけだ。

 怪我人がいなかったことに、ホッとしていたルーディの元に、興奮した様子で技術士官のエラーラ・フォスが走ってきた。


「大佐、後1人がいないんです! 裏切り者は7人いました……」


 その時、ルーディの後ろからマスクをした男が襲ってきた。ナイフを振り上げ、ルーディの首を狙う。ルーディは咄嗟に身をかわすが、男の動きは速かった。ナイフがルーディの顔に迫ってくる。だか次の瞬間、男は白目を剥いて即倒した。ルーディが見上げると、モリス大尉の振り下ろした拳が男の脳天を直撃していた。

 モリスは笑顔で腕を回しながら言った。


「大佐、無事ですか?間一髪ってところでしたね。」


 ルーディは息を吐き、驚いた表情でモリスに聞いた。


「モリス大尉、ガスが効かなかったのか?」

 

 モリスは肩をすくめ、何故か申し訳なさそうな顔をしている。


 「いえ、1分ほど眠っていたようです。まだまだ修行が足りませんね。でも次は耐えてみせますよ大佐。」


 そういって笑い、ベネットが走ってきて、よくやった大尉!とモリスの胸を叩きながら褒めていた。その光景を見ながらルーディは唖然とし、今後モリスを人間扱いするのを止めよう心に決めたのであった。



 反逆者達を縛り上げたルーディは、自白剤を使って尋問した。彼等はやはりドゥランの手先だった。ジェイク王子をハイデルに連れ帰ることが、彼らの任務だったらしい。何か政治的思想があるわけでもなく、動機は単純に金のためだった。

 尋問を終えたルーディは、くだらない!と吐き捨てて彼らを営倉にぶち込んだ。



 さすがのルーディも、いい加減疲れが限界を越えていた為、部下に後を任せて自室に帰ろうと艦内を歩いていた。そこへジェイクが歩み寄ってきた。隣には、ジェイクのズボンをギュと握りながら寄り添うゾフィー王女の姿もあった。ジェイクはルーディに頭を下げた。


 「ルーディ……またお前に助けられたな…それにあの時は興奮してすまなかった。俺は母上のことで頭がいっぱいで……」

 

 ルーディは首を振り、ジェイクの肩を叩いた。

 

 「気にするな。誰だってああなるさ。俺にも気持ちはわかる。それに、エマ様を助けられなかったのは俺の責任だから…」


 ジェイクはルーディに近づき、力強く抱き締めた。ルーディには、その手が震えているのが背中越しに伝わってきた。


 「馬鹿なこと言うな!お前の責任なわけがないだろ……2度とそんなこと言うな。わかったか?」


 ルーディはジェイクを抱き締め返して、ありがとうジェイク。と小さな声で言った。2人は目に涙を浮かべながら、遠い過去の光景を思い出していた。庭園で王妃が作ってくれたクッキーを食べながら、王妃の美しい歌を聴くのが楽しみだった日々を。

  

 ジェイクは袖で涙を拭くと、わざとらしく眉間に皺をよせてルーディを睨んだ。


 「でもな。おれに瞬眠針スリープダートを打ったことは許してないからな。ここで1発殴らせろ。それでチャラにしてやる。」

 

 そう言って、ジェイクが自分の拳に息を吹きかけていた。その様子を見てルーディは呆れたように答えた。


 「ふざけんな馬鹿王子。」


 言われたジェイクは拳を下ろし、怒るでもなく、何故か嬉しそうな表情をしていた。


 「カルデニアで俺の事を馬鹿王子なんて呼ぶのはお前だけだぞ」


 2人は大声で笑い合った。 

 昔から、ルーディだけはジェイクを特別扱いしなかった。いつも普通の友達のように接してくれた。それは今でも変わらない。ジェイクにとって、それが一番嬉しかったのだ。

 笑い合う2人を横で見ていたゾフィーの顔に、ようやく小さな笑みが浮かんでいるようだった。



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