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6話 小角のちから


 父親のピンチにロッキが駆けつけた。



 「父上、お呼びですか?」


 「……ロッキ、どうして?」


 「集合所の……。ぎるどでしたか。受付嬢から依頼を受けたのですよ。父上を連れ戻せと」


 「……馬鹿が、馬鹿野郎がぁ! こんなとこに来る奴があるか! お前まで殺されちまうんだぞ!」



 ゴーシは取り乱した。

 自分だけならまだしも、最愛の息子ロッキがこの状況下の洞窟にいるのだから当然だ。



 「父上、脚が……」


 「そんなことはいい! こいつらが動いてない今のうちに逃げろ!」


 「大丈夫ですよ。この妖たちは私の許可なく動けません」


 「……ロッキ、何を言っている?」



 小角はゴーシの潰された足に手をやり、トロール達の動きを止めている一言主神の力を発動させる。



 ――⦅元に戻れ⦆――。

 


 「!」



 瞬く間にゴーシの足が元に戻っていく。

 痛みもなく、潰されたことが嘘のように元通りになった。



 「嘘だろ? ロッキ、これはどういうことだ?」


 「これだけ妖に囲まれていると落ち着きませんね」



 小角は静止しているトロール達の方を向き唱えた。



 ――⦅魑魅魍魎の存在を滅する⦆――。




 50匹はいると思われたトロールの群れは、一瞬で焦滅した。



 「なっ!」


 「これで落ち着きました」



 ゴーシは立ち上がり、折れた剣をロッキに向けた。



 「何者だ? 俺の息子に化けたお前は何者だぁ!」



 役小角は急ぎだったとはいえ、登場の仕方に配慮が足りなかったと反省した。

 命を落としかねない状況だったゴーシの精神状況は張り詰めており、冷静ではないはずだ。

 いるはずのない我が子が現れ、このような所業を見せれば敵の一味と思われても仕方がない。



 「落ち着いてください父上。私はロッキです。あなたの息子のロッキです」


 「ふざけるな! ロッキにこんなことができるわけない! あいつは昨日荷物持ちして死にかけたから家にいるんだ!」



 小角はこの際いっそすべてを話すべきか悩んだ。

 しかし、この世界をまだ把握していない状況で味方を失うのは望ましくないと考えた。



 「存じております。ただ、生死を彷徨っていたはずの私は目を覚ますとなぜかこのような力が使えるようになっていたのです」


 「何をふざけたことを!」



 剣を握る手に力が入る。

 信じてはいないようだ。



 「ロッキをどうした!」


 「父上。それなら信じてくれなくて構いません」


 「なんだと!」


 「ただ、私は父上とお連れ方々を助けたい」


 「……」


 「どうか、そこだけは信じていただきたい」



 ゴーシは手にしていた剣を落とした。

 そして俯きながら小角へ謝罪を始めた。


 

 「……すまん、ロッキ。せっかく助けに来てくれたのに剣を向けてしまうなんて……俺はどうかしてる」


 「大丈夫です」


 「ロッキ、とにかくここを出なければいけない」


 「6人で来られたと聞いていたのですが、残りの3人は?」



 ゴーシが転がっている肉片へ目配せをした。



 「なるほど……私が一足遅かったというわけですね」



 ゴーシは前衛の剣士を担ぎ、ミラの腕を掴んで立たせた。

 妖の一味はすべて討伐したが、ゴーシは急いでいる様に見えた。


 

 「ミラちゃん。もう大丈夫だ、ここを出よう」



 洞窟内に少しの揺れを感じた。

 


 「ロッキも急ごう」


 「父上。敵は全滅させたと思うのですが違いましたか?」


 「……」


 

 その揺れは徐々に強くなっている。


 ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 

 大きな揺れと、大きな音が確実に近づいて来ている。

 これは足音か?



 「ロッキはミラちゃん引っ張って先に外へ出てるんだ」


 「……なるほど、大元の妖が残っておりましたか?」


 「振り向くな、急げ!」


 「大元を残したまま帰った場合、父上の任務結果はどうなるのですか?」


 「失敗に決まってる! 仲間も死亡、討伐失敗、報酬もなし、ただ恐怖のなか死にに来ただけの依頼だ!」



 それを聞いた小角は足を止めた。



 「ロッキ! 何をしている!?」


 「気に入りません……」


 「なに!?」


 「みんながこれほど被害を受けられて無報酬は……気に入りません」


 「バカッ! この足音聞いてわかるだろ、超巨大なトロールが追いかけてきている。出会えばお終いだ」


 

 ――ズドーンッ!



 響いていた大きな足音は、洞窟内の壁面を突き破って小角達の目の前に姿を見せた。

 3メートルはある超巨大なトロールが2匹現れた。



 「壁突き破って……追いつかれた……」



 ゴーシの表情は絶望に変わった。



 「我らの眷属を殺した者達……許すまじ」


 「許すまじ! 許すまじぃー!」



 オスとメス。

 夫婦の妖のようだ。



 「父上、これを始末すれば報酬は得られますか?」


 「始末って……お前はこれを見て言ってるのか?」


 「えぇ、もちろん」


 「キングとクィーンが相手だぞ……依頼内容がAランク扱いになって……生きて帰れたら大金持ちだ」



 それを聞いた小角が前に出た。

 己の足元へ手をやり一言呟く。



 「前鬼、後鬼、おいで」



 すると足元の影から2匹の鬼が姿を見せる。

 


 「今日は小間使いではなく、戦いか?」


 「ふふっ、前鬼は戦い以外興味がないものねぇ……」



 ゴーシは息子の足元から出て来た2匹のモンスターを見て絶句した。

 やはり目の前のロッキは、ロッキの姿をしたモンスターなのではないのか?

 ゴーシの疑いは再燃する。



 「君達と一緒で夫婦の妖のようだ」


 「ほう」


 「ただ、彼らは人を殺める妖だ」


 「……」



 前鬼と後鬼はキングとクィーンと呼ばれるトロールの前に立ちはだかった。



 「任されてくれるかい?」


 「あぁ」


 「喜んで」



 妖とモンスターの戦いが始まる。

 


 


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