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5話 この世界の地獄絵図


 ミラがトロールの攻撃で気を失った前衛の男剣士に治癒魔法をかけた。

 Bランク魔術士のひとりがミラに尋ねる。


 「どうだ?」


 「軽傷です。打ちどころが悪かっただけだと思います」



 前衛魔術士の安否を確認したあと、Bランク同士が話合いを始めた。

 そのタイミングでゴーシがミラのそばに寄る。



 「ミラちゃん、何か手伝うことない?」


 「ありがとう、大丈夫だよ」



 松明のあかりで照らされたミラの表情は暗い。



 「おじさん、わたし達ここから絶対に引き返したほうがいいよ……」


 「……だな。悔しいが、ずっと生きた心地がしないんだ」



 トロールが握っていた棍棒。

 それが落ち着いてみると人間の足だとわかった。


 

 「Eランクの仕事でこんなの見たことがない。やっぱりBランクは異次元の世界だ」


 「Cランクの依頼でもここまでの死体をみたりしないです……わたしは帰りたい」



 後衛魔術士である魔法剣士がゴーシ達のもとへやって来た。



 「みんな、今回は引き返そうと思う。申し訳ないがみんなを守りながら進んでいくことは危険だと判断した」



 前衛魔術士の女剣士だけ不服そうな仕草を見せたが、誰も反論はしなかった。

 そこにいる全員が只ならぬ危険な予感だけは感じ取っていたようだ。

 とりあえず、ゴーシが気を失っている男剣士を担いで帰ることになった。



 「追手が来る前に戻ろう」



 パーティーは急いで来た道を戻ろうとした。



 「!」


 「しまった!」



 洞窟の開けたその場所の、四方八方からトロールが姿を現した。

 忘れていた訳ではないが、ここはトロールの巣なのだ。

 


 「ギイッ! ギイッ!」

 「ギィエェ!」

 「ギエィ! ギイィエ!」

 「ギイイィ!」


 

 トロールの大合唱が始まった。

 大型、中型を含めて50匹はいるだろうか。



 「みんな逃げろ! ここは俺たちが足止めする!」



 すぐにBランクのふたりがその光景をみて指示をだした。

 そして他の4人を逃がすために時間稼ぎを買ってでてくれた。

 

 ゴーシたちは急いで逃げようとするが、そのゴーシ達にトロールの群れが飛び掛かる。

 そこに中衛魔術士の剣士が間に入って守ってくれた。



 「ゴーシさん! いそいで!」


 「すまん!」


 

 トロール達は的をBランクのふたりに絞って、一斉に飛び掛かった。



 ――――――



 タリア洞窟前。


 役小角は、ゴーシ達の潜入から一足遅く到着した。

 鬼門遁甲盤で占うところ、凶兆を指していた場所とゴーシの居場所はここで間違いないようだ。



 「もしも間に合わずゴーシが洞窟に潜入していた場合は私だけで帰って来いと言っていたな。あの娘……」



 小角は妖力や呪力とは違った、この世界特有の魔力というものに興味を持ち始めていた。

 集合所や村人などから感じとれる気配を魔力と識別していたが、この洞窟の奥から発せられる気配は村で感じ取れていた気配とはレベルが違う大きさだった。


 

 「この気配が洞窟に潜む敵のものならギルドのみんなは全滅だろうな……。ゴーシなど一溜りもないよ」



 受付嬢には往復の馬車代に依頼費用も渡されているため、いささか手ぶらでは帰り難く思った。

 ロッキの父親でもあるわけだし、死なすと夢見も悪くなりそうだ。

 


 「仕方がない……行ってみようか」



 モンスターへの興味もある小角は、散歩に行くような足つきで洞窟の中へ入っていくのだった。



 ――――――



 ――ゴンッ!ゴンッ!ゴンッ!



 巨大なトロールは、Bランク魔法剣士の頭を岩に打ち付け、砕けた頭蓋骨から飛び散ったものを摘まんでは食べている。

 その傍らで小型の複数のトロールが女剣士の身ぐるみを剥がし、抵抗する力もない彼女の身体で遊び始めていた。

 彼女を奪い合うために喧嘩を始めるトロールの姿もあった。

 

 もうひとりいたBランクの剣士、トロールの群れからゴーシ達を守った英雄の姿はもうなかった。

 トロール達の怒りを買い、集団のトロールから餅でもつくように地面に打ちつけられ、すでに何物でもなくなっていた。

 這いつくばりながら、なんとなしに残った彼の血肉を啜る小型のトロールもいる。

 


 まさに地獄絵図だ――。



 この世の地獄がタリア洞窟内にあった。

 ゴーシは地べたに腰を付き、気を失った前衛剣士を背負ったまま岩にもたれかかっていた。


 

 「ミラちゃん……逃げなさい」


 「おじさんも!」


 「……足を潰されたんだ。もう動けない……君だけでも」


 「足を治します!」


 「そんな時間はない! 行きなさい!」



 トロールに食後のデザートというものがあるとすれば、残ったゴーシ達がそれに当たる。

 先の3人で存分に遊びきったあと、奴らはゴーシ達に目をやった。

 

 

 「ギイッー! 」

 「ギィエェ! ギィエェ!」

 「ギエィーッ! ギイィエッ!」

 「ギイーエィ! ギエッギエッ!」



 ゴーシは座ったまま、折れた剣をトロールに向けた。

 恐怖で腕は震え、声も裏返る。



 「ミラちゃん逃げてくれー!」



 ミラは腰が抜けてしまい、座り込んで失禁した。



 「おじさん……ごめんなさい……」


 

 ミラのその姿見た時、ゴーシはようやく今の自分たちに何の希望も無いことを悟った。

 涙があふれる。

 ゴーシは放心状態のミラを片腕で抱きしめた。



 「ちきしょう……こんなとこ来るんじゃなかった……」


 「……」


 「せっかくロッキが助かったていうのに……くそぉ……」



 鼻を突くような臭いを放ちながら数匹のトロールがゴーシの前に立った。

 ゴーシは震える手からすでに落ちた剣にも気付かず、空になった手で構え続けた。



 「ごめんエイナ! ごめんロッキ!」



 トロール達がそれをみて嘲笑う。

 真ん中のトロールが棍棒を振りあげた。



 「エイナ! ロッキー!」



 死を覚悟したゴーシは目を閉じた。


 

 「……」


 「…………」


 「………………」


 

 攻撃がない。

 ゴーシは恐る恐る目を開けた。



 「!」



 目の前のトロールが棍棒を振り上げたまま止まっている。

 いや、すべてのトロールの動きが止まっていたのだ。



 「こっこれは……?」



 ゴーシは入り口方面から誰かが来る気配を感じた。

 松明に揺らぐ影が見える。

 

 それは見覚えのある影。

 ここに居てはダメな影……。

 

 その影はゴーシのもとへ辿り着くと一言尋ねた。

 


 「父上、お呼びですか?」


 「……ロッキ、どうして?」



 ゴーシのピンチに役小角が到着した。

 

 

 

 

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