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3話 異世界から来て異世界を知る


 鳥のさえずりと洗濯物を叩く音で役小角は目が覚めた。



 窓から見える空は真っ青で、最高の散歩日和の天候だ。

 書物を読んでいる最中、睡魔に負けて眠ってしまったようだ。

 

 小角はあくびをしながら大きく伸びをした。

 その傍らで前鬼、後鬼はすでに部屋に戻っており小角の起床を待っていた。



 「おはよう! 前鬼、後鬼」


 「あぁ……」


 

 前鬼はいつもながらぶっきらぼうに答えた。


 

 「おはようございます。小角様」


 

 後鬼は笑顔で挨拶を返した。



 「この世界のこと、何かわかったかい?」

 

 「起きたのなら我々は影に戻る。話さずともお前の頭にすべての情報が流れるようにしておく」



 そう言うと前鬼は小角の影に溶け込むように消えて行った。

 前鬼、後鬼の体験したことや情報は、彼らの意思で小角の影に戻ればすべて同期されるようになっている。



 「そうだね、助かるよ」


 「ふふっ、いろいろと情報が多いので驚かないでくださいましね」



 後鬼も続いて影に消えていった。

 

 食卓からすでにいい匂いが漂っている。

 小角は、朝食を食べながら情報を整理しようと思った。



 ――――――



 ロッキの父親はすでに家を出ていた。



 テーブルの上には昨日食べたパンと卵を焼いたものが置かれている。

 ふと見るとミルクも置いてある。


 まったくもって、裕福な朝食だと思った。

 小角はパンをかじりながら、前鬼と後鬼の情報を確認することにした。



 「……」


 「……」


 「……」


 

 後鬼が言っていた通り情報が多過ぎる。

 というよりは、簡単に信じられるような情報がほとんど無かった。



 前鬼と後鬼の情報を纏めると、まず役小角という人間とこの辺りに居る人間を比べただけで、完全に別者だとの見解だ。

 この辺りの人間には、小角のように体内に気という物が流れておらず、代わりに魔力というものを体内に流して生きている。

 その魔力という物は小角の持つ呪力ともまた違う物だという。

 

 魔力量が高いものほど強者として扱われ、身分や位が高いようだ。

 そして、村はずれにはモンスターと呼ばれる妖の類がいて、有償でそれらを退治する者が集まるギルドという集合所があるのだとか。

 今朝早くからその集会所にロッキの父親が向かったとのことだ。

 

 いろいろと得た情報を総じて言うと、いま小角がいる世界は海を渡った遠い国にいるなどとかではなく。

 今までいた世界とは違く別の世界にいるのだと結論付けられた。

 

 前鬼と後鬼は、この世界を異世界と表現した。



 ――異世界。

 

 

 小角は初めてその言葉を耳にした。

 

 黄泉の生き物である鬼からすれば、この世はすでに異世界。

 彼らからすれば、そこまで珍しいものではないのかもしれない。



 ――――――

 


 報告によると、村はずれの森や山にさえ行かなければモンスターはおらず安全な村のようだ。


 村の中ではいくつかの商売が行われており、人々の交流も多く見られる。

 小角は散歩がてら村まで歩いて行くことにした。



 ……その前に。

 小角は日課の吉凶占いを忘れていた。

 

 小角は毎朝遁甲盤を使い、吉兆の方角へ散歩をする。

 これは彼の日課の1つだった。



 「後鬼、遁甲盤をもらえるかい」



 後鬼が影から姿を現せ、遁甲盤を小角へ渡した。



 「情報を受けとられたご感想は?」


 「異世界とは恐れ入ったよ。私と彼らは、私と君たちみたいに別の生き物ということだろう?」


 「左様です。ただ、極めて人間に近い生き物なので共存は可能だと思いますよ」



 鬼門遁甲盤を机に置き、指で小さく印を切る。

 するとゆっくりと遁甲盤は回転を始めた。



 「天気も良いので散歩をするには適しております」

 

 

 遁甲盤の回転が止まる。

 北東が吉と出た。


 

 「今日は北東に向かって散歩に行ってみようか」



 南西は凶兆。

 窓から南西の空を見た。


 まったく凶兆を感じさせない綺麗な空をしている。



 北東方面にはモンスターと呼ばれる妖を退治する連中の集合所がある。

 モンスターに関しても少し学べる場所かもしれない。


 小角はギルドと呼ばれる集合所がある北東に向かって散歩することにした。

 

 

 ――――――



 村を歩くと、中世ヨーロッパの世界観を彷彿させる景色が続いている。

 小角は見たことのない景色に衝撃を受けながら歩みを進める。

 

 集合所は家から15分ほど歩いた場所にあった。


 ロッキの家は木造だったが、集合所は石の壁と陶器の屋根で作られた立派な建物だ。

 小角のいた世界の貴族の屋敷くらい立派な建造物だった。

 

 入口の扉が何とも大きい。

 扉を開けて進んでいくと、数人の受付嬢の姿が見えた。

 また奥の広間には鎧や武器を纏った猛者たちが、仕事に取りかかる前準備をしている姿が見える。



 「ロキ坊!」


 

 小角は声のする方へ振り向いた。

 受付嬢のひとりが手を振ってこっちに向かって走って来ている。

 可愛らしい顔をした、小柄なボブカットの女性だ。

 ロッキより少し年上な雰囲気を持っている。



 「昨日怪我して大変だったんでしょ? だからDランクの依頼は行ってはダメだって言ったじゃない!」


 

 この受付嬢のおかげで、小角の謎が1つ解決した。

 実力に不釣り合いな依頼へ出たせいでロッキは死んでしまったことがわかった。



 「ロキ坊のために医者や薬、ギルドの魔法使いを呼んだりおじさん大変だったんだよ」


 「……うん、気を付ける」


 「さっきおじさんお金が必要だからって無理してBランクの依頼に荷物持ちで出動したんだ。わたし止めたけど聞かなくて……」



 小角はDランクやBランクの意味が理解できずに話を聞いていた。

 話の流れ的に、DランクよりBランクの方が難しい依頼なのだとは理解ができた。



 「Bランクは行ってはダメなの?」


 「おじさんはDランクの魔術士だよ。何かあれば死んじゃうよ!」


 

 この世界では、モンスターと呼ばれる妖を退治する連中を総じて魔術士と呼んでいる。

 魔術士はAからEランクに分けられており、ロッキの父親はその中のDランクにあたる。

 剣を使って戦うので、役職は剣士に当たる。

 

 ロッキを助けるために父親はずいぶんと無理をしたようだ。

 受付嬢の話を聞く限り、父親は昨日のロッキ同様に実力に不釣り合いな依頼へ行ったことがわかった。



 「隣村を襲ったトロールの巣を討伐だなんて危険だよ。もしかするとAランク案件かもしれない」


 「Aランク……?」


 「本来Aランクの依頼にはAランク魔術士が最低1名は必要でしょ。でもこの村には最高でBランクの魔術士しかいないから……。下手すればおじさん死んじゃうかも」


 「父上は……どこの依頼へ行ったのです?」



 受付嬢は南西を指差して言った。



 「トロールの襲撃にあったベムトナ村近くのタリア洞窟だよ」


 「……タリア洞窟」


 

 南西は凶兆。

 

 

 小角は遁甲盤の占い結果を思い出していた。


 



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