21話 集落の魔術士
教会の裏口から少し離れた林の茂みの中に、集落の避難所が隠されていた。
バーリの呼び掛けにひとりの魔術士が反応して姿を見せたのだ。
教会にも結界が張られているが、それはカモフラージュだった。
教会を襲撃したとしても、そこには誰もいない。
実際には教会から少し離れたすげ身の中に地下室が準備され、そこに避難した人々が生活をしているのだ。
小角はカモフラージュとして無人の教会に結界を張りつつ、避難所の茂みにも結界を張って外部から見えないようにしている魔術士の存在に、器用な術者だと関心した。
茂みのある結界の中へ入り、草を掻き分けると地下室へ繋がる階段が見えた。
その階段を魔術士に案内され降っていく。
随分と深く作られていることに驚かされる。
階段を降りると大きなトンネルのような空間が広がり、そこに30人ほどの人々が生活をしていた。
外部から救援は来たと聞き、みんなが集まって来る。
「挨拶が遅れました。俺は無所属で活動しているCランク魔術士のバジルです。救援要請にお応えいただきありがとうございます」
「無事で何よりだ。俺はバーリ、そしてこっちが隊長のフランだ」
フランを隊長と紹介した時に、みんながざわついた。
「あんな小さな女の子が隊長……?」
「それよりもっと弱そうな男の子もいるけど……本当に魔術士なのか?」
「こんな子供を寄こして救援ってよ……」
「パジャン村のギルドって、いまにも潰れそうなギルドだったよな」
彼らはエルフ襲撃という恐ろしい状況下の中、救援が来るまで耐え凌いできた。
救援が本当に来るかわからない不安の中、本当に恐ろしかっただろう。
そこに現れたギルドからの救援、心の底から嬉しかったに違いない。
ただ、救援に来たのがパジャン村から小柄な女の子を隊長にした頼りないチーム。
彼らからすると、ぬか喜びさせられた気分になったのだろう。
フランもその雰囲気に気付いていた。
だからこそ、感情が不安定な中でも立派に立ち振る舞おうと姿勢を正していた。
「……もうひとりBランクの魔術士がいらっしゃると聞いています。お会いできますか?」
フランはもうひとりの魔術士に呼び掛けた。
すると、奥からひとりの老人が女性に支えられながらゆっくりと姿を見せた。
神父の格好をしている。
「司祭様、こちらがパジャン村のギルドから救援に来てくださった方々です」
見たところ高齢の男性だ、60歳くらいだろうか。
神父は誰に聞くこともなくフランの方へ真っすぐに向かい、一礼をした。
「遠路大変感謝申し上げます。私、この集落の教会で司祭をしておりますロンズと申します」
「パジャン村ギルドから来たフランです。皆さんのお役に立てるよう、この4名で最善を尽くします」
司祭のロンズはフランの名前を聞くなり、細い目を見開いた。
「フラン……? 閃光のフラン……あの最年少の」
周りがどよめき出す。
「恐縮ではありますが、そのように呼ばれていた時もありました。その名に恥じぬ働きをいたします」
その後4人はバジルに連れられてカーテンで遮られた部屋に入っていった。
遮られた部屋は4人入るのが精一杯の広さなのでロンズとバジル、フランとミラで話し合いをすることになった。
小角とバーリは少しの間待機となる。
「なんで俺じゃなくてミラが同席なんだよ!」
「ミラさんは頭いいからじゃない」
「なっ! てめぇ!」
小角が思ったままのことを伝えたらバーリは機嫌を損ねた。
「ロッキ! お前がいくら強いかっらてよ、年上への敬意は忘れちゃなんねぇよ!」
「バーリ、そんな怖い顔をするから子供たちが怖がっているよ……」
「えっ!?」
バーリという男は可愛い男である。
赤色の髪に性格の悪そうな顔をしているのだが、何処か憎めない性格をしている。
威勢はいいが、戦いはめっぽう弱い。
出世意欲はあるが、絶対に出世しない人間の立ち居振る舞いする。
自分より歳やランクが下の者へ当たりがきついが、いざとなると仲間思い。
悪態を吐くが、言ったあと反省したりする。
自信家なのに周りの目や、評価をやたら気にする。
ガサツに見えて、なにかと目ざとくて勘が良かったりする。
そんなバーリは、パジャン村のギルド内で人気があるから不思議だ。
上からも、下からも可愛がられている男だったりする。
「どこに子供いんだよ?」
「……嘘だよ。だれも見てないよ。うるさいから揶揄っただけ」
「ローッキ!」
小角達がじゃれている間、フランたちはこの集落の状況をロンズ達から確認をとっていた。
――――――
ロンズの話によると、3日ほど前から突然エルフ達は住処を増やすためにこの集落を狙い始めたらしい。
襲撃により50人いた集落の人達は、今は30人ほどになった。
最初は4匹で行動をしていたエルフは、ロンズとバジルで1匹討ち取ったことで、更に4匹増員して今は7匹で攻め込んできているらしい。
今回襲撃してきているエルフは、主に弓矢と短剣を武器に攻撃してくるようだ。
「フラン様。ここに来る途中、エルフとは鉢合わせにならなかったのですかな?」
「2匹と応戦することになりましたが、討ち取っております」
「……なんと、そうでしたか。ならエルフは残り5匹になりますな」
話を聞く中でフランには引っ掛かっていることがあった。
この集落では林業を生業にする人たちが集まって生活をしている。
そのような地域では、土地の取り合いでモンスターやエルフと衝突することも珍しくない。
しかし土地占領のため襲撃を受けている割には、確認できているエルフの数が少ない。
数は力、占領するならもっと多くのエルフで攻めてきてもおかしくない。
それに集落の荒れようから見ても、エルフの襲撃は控えめで破壊行動をとっていない。
フランには、エルフが土地を奪うために襲撃をしているように思えなかった。




