10話 魔術士ランクの測定
「ロキ坊! 殺される! 下がりなさい!」
ロッキを止めに入ろうとしているフランをギルドの仲間たちが止めに入った。
役小角と鎧の剣士ベルゼは睨み合っている。
「お前がトロールの巣を攻略したと言うのなら信じられる。発している魔力が俺の知っているものと質が違う」
「あなたはトロールという妖より不愉快な顔をしている」
その言葉に怒った魔術士の剣が抜かれ、剣先が小角の目の前に向けられた。
「ガキが、死んでから後悔しろ!」
大剣を脅しのように突きつけるベルゼに対し、小角は一言主神の力を発動させる。
――⦅動くな!⦆――。
小角の一言で鎧の剣士の動きが止まった。
ベルゼは不思議な感覚に狼狽えているようだ。
そこに魔法使いのフィートが、杖の先端に溜めていた魔力のオーラを小角へ向けて唱える。
「魔力開砲!」
凝縮された魔力の塊が、バズーカのように小角へ放たれた。
小角は人差し指と中指を下唇にあてながら囁く。
『身代わりの式』
小角はそう唱えると、人の形に切り取られた紙を放り投げた。
――バチイィィ!
放たれた魔力のオーラは投げられた人型の紙に当たり、弾けて紙と共に消えた。
すると同時に動きを封じられているベルゼの身体から煙が出始めた。
「あぁ! ああぁー! うあああぁぁー!」
ベルゼが叫んでいる。
小角は身体が動かせるように、一言主神の力を解いてやった。
するとベルゼはその場に倒れ込んだ、よく見ると鎧が焦げて歪んでいる。
「身体があぁー! 身体が熱い!」
叫びながらのた打ち回り始めた。
魔法使いは何が起こっているのか判らず、小角へ向けて次の魔法を準備を始めた。
「彼を助けなくていいの? 君の攻撃のせいで仲間が苦しんでいるんだ、僕へ攻撃する前に助けるという判断が正しいと思う」
「何を言っている?」
「あなたが僕に放った魔力開砲という術を彼に直撃させたんだ。放っておいたら死ぬんじゃない?」
小角が使った呪術は、身代りの式。
本来なら対象者に降りかかる厄災を、人型の紙へ代わりに受けさせる呪術。
今回はその効果を転用し、紙が受けた厄災を人に受けさせることとした。
「ベルゼ! 大丈夫か?」
魔法使いは治癒の魔法をベルゼに当て始めた。
それをみて、小角はフランのもとへ駆け寄る。
「フラン姉さん、大丈夫ですか?」
「……ロキ坊」
「多少なら治癒の心得えがあります。口の傷を見せてください」
「いらないよ。こんなの放って置けば治るから」
このフランという受付嬢。
ロッキのことを幼い頃から知っている近所のお姉さん的な存在のようだが、受付嬢とは思えない気の強さを持っている。
馬車を呼んでゴーシを助けに行かせたり、粗野な魔術士の連中に意見を言ったりと、ただの町娘ではない印象だ。
「う……うぅ……」
「しっかりしろ、ベルゼ! もうすぐ痛みも和らぐ」
小角はギルド協会本部のふたりに向けて言う。
「立ち上がれるくらいまで回復したら出て行ってくださいよ。扉の修理代は後で請求させてもらうので」
「……くっ!」
しばらくすると魔法使いは鎧の剣士を抱えてギルドハウスを出ていった。
ふたりが出て行ったと同時に、ギルドメンバーがロッキに賛辞を贈った。
「ロッキ! かっこよすぎだろ!」
「なんだよ! なにしたんだ今の!」
「Aランクの魔術士相手に圧勝? うそだろ?」
「おやっさんが言ってた、生まれ変わりってマジだったのか!」
すでにゴーシは生まれ変わりの話をみんなにしているようだ。
ゴーシが3人だけの内緒にしようと言っていたはずなのに困ったものだ。
生まれ変わりと聞いて、フランが反応をみせた。
「生まれ変わり? どういうこと? ロキ坊、わたし聞いてない!」
「えっ、いやぁ……」
小角の困った様子を見てミラがやって来た。
「フランちゃん。わたしから説明させて、ロッキ君自身があまりわかっていないことだから」
ミラはフランへ、昨日起こったタリア洞窟での顛末を説明した。
ギルドへ報告の際に、ロッキの生まれ変わりのことは伏せていたのは、変な目で見らることを防ぐためゴーシからの提案だった。
「いきなりみんなに言ってるみたいだね……」
「ゴーシさんお酒はいると口が軽くなるでしょ……昨日帰って来てからここのみんなと飲んでたから……」
フランを見ると怖い目で小角を見ている。
なぜ怒っているのかわからない。
「ロキ坊! 約束破って洞窟入ったんだね、それにわたしは生まれ変わりの話しを知らなかった」
「フランちゃん、落ち着いて。ロッキ君は悪くないの。わたし達を助けてくれたの」
「ミラさん、いくら何でも信じられません。この前ロキ坊は正式な検査を受けてEランクの魔術士で登録されています。それがトロールの巣を壊滅させただなんて……」
フランは不機嫌そうな顔を見せた。
先ほどAランクの魔術戦士に殴られても冷静だったのに、明らかに機嫌が悪い。
するとギルドにいたひとりの男が、再検査を提案してきた。
「正式な決闘だったらAランク倒した時点でロッキはAランク認定されたはずだろ? 生まれ変わりっていうぐらいなんだから再検査してもいいんじゃねーか」
他のギルドの連中も同意見のようだった。
フランは同僚の受付嬢に依頼して、水晶玉のような物を持ってこさせた。
この水晶玉に手を当て魔力を流し込むと色が変り、その色の判別で魔術士ランクがわかるらしい。
透明……判定不可。
緑色……Eランク。
青色……Dランク判定。
黄色……Cランク判定。
赤色……Bランク判定。
白色……Aランク判定。
虹色……Sランク判定。
この水晶玉は簡易検査なので、この場で正式認定される訳ではないが、ひとつの目安として確認できるという利点がある。
みんなが見守る中、小角は水晶に手を掛けた。
「さぁ、ロキ坊。魔力を流し込んでみて」
フランの誘導に、小角は渾身の力を水晶玉に流し込んだ。
水晶の色が変わっていく。
様々な色を見せ始め、じわじわとひとつの色へと整っていく。
白ならAランク、赤でもBランクだ。
ギルドのみんなが息を飲む中、水晶はその色を示した。
……緑色。
期待を大きく裏切るEランクの判定結果だった。
今までと変わらない緑色のEランクの判定。
これだけ持ち上げといてEランクなんかい!
と、フラン以外のその日その時その場所に居た全員が思ったのだった。




