第17話:王都任務一日目──影の街アンダーブルグへ
翌朝。
深淵レイスを撃破した翌日だというのに、
ルイの休息は一秒も保証されなかった。
「ルイ、起きろ。任務だ」
ラザールが寮の扉を無造作に開けてきた。
「……え、今日からって本気で言ってたの?」
「当たり前だ。お前はもう正式戦力だ」
(いや、昨日まで学院生だったんだけど!?)
隣では、寝ぼけたセリアが毛布から顔を出す。
「ルイ……いかないで……」
「いや、俺も行きたくないよ……!」
◆
そこへ、ユリウスとミネルが合流した。
「任務場所は“影の街アンダーブルグ”だ。」
「アンダーブルグ……?」
ミネルが眉をひそめる。
「王都の裏通り区域よ。
犯罪者、闇商人、影孤児……なんでもありの治安最悪地帯。」
「教会も王都軍も管轄できていない“闇のスラム”だ」
(なんで初仕事でそこ行くの!?)
◆
「で、なんで俺?」
「昨夜の影レイスの残滓が、アンダーブルグで観測された」
「……あー、はい。絶対俺関連だよね……」
ユリウスが淡々と告げる。
「深核保持者は“影の濃い場所”と相性がいい。
お前なら気配を捕まえられる」
(なんか便利に使われてない!?)
◆
出発準備中。
セリアが不安そうにルイの袖を掴む。
「ほんとに……大丈夫? 昨日あんなに危なかったのに……」
「大丈夫。セリアがここで光核を安定させててくれれば、それだけで強い」
セリアは小さく頷いた。
「……絶対、帰ってきてね?」
「帰る。約束する」
◆
馬車に乗り込み、王都の中心から外縁へ。
石畳が徐々に黒ずみ、
建物の窓が割れ、
空気に“湿った影”が混ざっていく。
ユリウスが言った。
「……感じるか?」
「うん。ここ……なんか、黒い」
「それは“影に触れられた者の匂い”だ」
(そんな危険なとこに住んでるのか……)
◆
しばらくして、馬車は止まった。
「到着だ。“影の街アンダーブルグ”」
ユリウスが扉を開けた瞬間――
空気が変わる。
冷たく、ざらつき、
深核が“ざわり”と反応する。
(……やだな、この感じ)
◆
ラザールが指で前方を指す。
「ルイ。影の反応はこの奥の地区だ。
感じる方向へ進め」
「俺先頭!?」
「当たり前だ。お前が最も影に敏感なんだから」
「いや俺、まだ訓練もして――」
「影は待たん」
(理不尽すぎる!!)
◆
ゆっくり足を踏み入れると――
アンダーブルグの子どもたちが、遠巻きにこちらを見ていた。
怯えて。
影に触れたような虚ろな瞳で。
(……影孤児って、これか)
胸が痛くなる。
その時、深核がまた“ドクン”と跳ねた。
(……来る)
◆
ユリウスもすぐ反応した。
「構えろ。影が“こちらを見ている”」
その瞬間。
建物の陰から、黒い手が“ずるり”と伸びた。
あの――深淵レイスと同じ系統の“影の手”。
影孤児が怯え、物陰に逃げ込む。
「ルイ、行け!!」
「うわぁぁああ!!マジかよ!」
ルイは深核をわずかに開放し、
黒い波が視界に広がる。
(見える……影の“芯”……)
◆
「――いくぞ!!」
任務一日目にして、
ルイは早くも“影追跡戦”へ突入する。
それは――
深淵と王都に潜む闇が、
本格的に動き出す序章だった。




