第13話:王都北壁――“第二襲撃”の幕が上がる
◆
夜の王都北壁。
いつもは魔術照明が穏やかに光る静かな場所だが――
今は違う。
「警戒態勢レベル3に移行! 全員、壁沿いに布陣!」
「影反応、継続増加中――5体、いや……6、7……!」
「何だこの増え方……普通じゃねぇぞ……!」
騎士団が慌ただしく走り回り、
魔術師たちが結界を強化し、
影狩り部隊が影の匂いを追う。
そんな混乱の中――
「来るぞ。深淵の“本命”が」
ラザールが低く呟いた。
その目は、誰よりも暗く、
そして――誰よりも鋭かった。
(……先生、完全に“狩る側”の目だ)
ルイは思わず息を呑む。
背後ではセリアが光をこぼし、
ミネルが短剣を抜き、
ユノが静かに祈りに似た姿勢を取っていた。
そしてユリウス(影狩り)が前へ出る。
「ここから先は俺が指揮する。
……ルイ、お前も来い」
「俺も……?」
「“鍵”を狙ってくる相手だ。
中心にいなきゃ意味がねぇ」
(いや怖いけど言ってることは分かる……!)
ユノが静かに言う。
「深核……また、震えてる」
「セリアの光核もだ。外敵に反応してる」
ミネルが短剣を構えたまま言う。
「つまり近いってことね!」
その瞬間――
◆
「来るぞッ!!」
ユリウスの叫び。
北壁の外の闇が――
“膨らんだ”。
“ぼごッ”
夜空が裂けるような音。
地面そのものが“影”に変わる。
黒い霧が渦巻き、
骨のような触手が一本、二本と伸び――
そして。
闇が形を成した。
◆
「……なんだ、あれ……」
ミネルが声を震わせた。
“人型の影”。
だが普通の影ではない。
背丈は3メートル。
骨のような腕と指。
背中に複数の“穴”。
穴からは黒煙が噴き出し、空間を歪ませている。
ユリウスが喉の奥で息を呑む。
「……“深淵人型”……!」
「聞いたこと、ない……」
ミネルが震える。
ユリウスは短く答えた。
「当然だ。
王都記録でも――存在しない。
これは……“禁忌種”だ」
(うわぁぁぁこれ絶対俺が原因のやつ!)
ラザールが前へ進む。
「……ルイ。セリア。後ろに」
「先生は?」
「俺は……“相手にする側”だ」
ラザールの影が広がる。
その目は、完全に人間ではなかった。
(やっぱり先生……!
あのモード、一番危険だ……!)
◆
深淵レイスが口を開く。
『……カギ(ルイ)……』
『……返セ……』
その声は、地鳴りのようで、
同時に――直接、魂に響く。
セリアが苦しそうに胸を押さえる。
「ル……イ……光が……押されてる……」
(ヤバい、セリアが……!)
ユノも珍しく表情を強張らせる。
「深核も……煽られてる……!」
ルイの胸の奥で黒核が“熱くなる”。
(……呼ばれてる……!
でも……押し返す……!)
ルイは足を踏み出した。
「やるしかないよな」
ユリウスが横目で見て、
ほんの少し笑う。
「ビビってても動ける奴は強い。
……死ぬなよ、双核」
「死なないように頑張る!」
◆
深淵レイスが一歩踏み出した。
“ズシィッ”
重圧で空気が歪む。
その直後――影の腕がしなる。
「来る!!」
影の腕が、壁ごと叩き割る勢いで振り下ろされた。
その瞬間。
◆
「ルイに――触るなぁぁぁああ!!」
セリアの光が爆発した。
眩い光の壁が広がり、
深淵レイスの腕を“焼く”。
“ジュゥゥウウ……!!”
影が後退し、苦しげに吠える。
ラザールがすかさず吼える。
「ミネル! 影の核を狙え!」
「任せて!!」
ミネルがまるで閃光のような速度で駆ける。
ノックスが支援術式を展開する。
ユノが光核の祈りを重ねる。
そしてルイは――
胸の奥で、“黒と白”を均衡させた。
(行くぞ……俺の――)
《深核アビスコア》
《光核ルーメンコア》
――《双核デュアルコア》!
黒と白が同時に輝く。
次の瞬間、深淵レイスが吼えた。
『……鍵……それダ……!』
そして――
王都北壁での、最初の大規模戦闘が始まった。




