第12話:深淵の“触手”が残したもの──王都、目覚める影
深夜の静寂は、もう完全に消えていた。
“特別隔離寮シェルター・ゼロ”の廊下には
護衛兵、魔導師、監察官が集まり、
まるで小規模な作戦会議のように騒然としている。
ラザールは影の残滓を調べながら、低く呟いた。
「……やはり、“本体”が近いな」
(本体……? 影獣より、もっと上が……?)
ルイの背中が冷たくなる。
セリアはまだ息が荒いまま、ルイの袖を掴んでいた。
「さっきの影……普通じゃなかった……」
「うん。あれは“呼んでた”」
「呼んでた……?」
「俺を。“鍵”として」
セリアはぎゅっと手を強くした。
「……勝手に連れて行かせないから」
(いや……かわいいけど言葉が重い……!)
◆
その時、護衛少女のルナが走ってきた。
「ラザール先生!
影反応の追加報告、入りました!!」
「言え」
「王都警護区の北壁……
“外側から”影の侵入痕跡が見つかりました!」
「……外側から、だと?」
(え……待って。王都の外から?)
ルイは思わず声を漏らした。
「影って……外から入れるの?
王都って、強力な結界が張ってあるんじゃ……」
ノックスが震えながらメモを書き続ける。
「普通は絶対に無理です。
けれど今回は“影門の欠片”を媒介してます」
「つまり……結界を迂回して侵入した、ということだ」
ラザールの顔が深刻に変わった。
「深淵は――すでに王都へ“手”を伸ばしている」
セリアが息を呑む。
「ルイ……やっぱり危ないよ……!」
◆
ラザールが二人へ歩み寄った。
その気配は、教師というより――
“戦場の指揮官”。
「ルイ。セリア。」
「……はい」
「お前たちを守る体制は強化される。
だが――同時に、“戦力”として扱う」
「やっぱりそうですよね!!」
「影門事件の時に言っただろう。
双核は、この世界で唯一“深淵の触手”を追い払える。
お前が狙われる理由もそこにある」
(唯一……)
(俺しか……いないのか)
胸が少しだけ重くなる。
そんなルイの手を、セリアがそっと握る。
「ルイ。わたしも……ついていくから」
(……反則すぎるだろそれ)
ラザールの視線が一瞬だけ二人の手に向いたが、何も言わなかった。
◆
だが次の瞬間、
ラザールの雰囲気が――“変わった”。
影が、彼の背に一瞬だけ揺らめく。
低い声で呟く。
「……深淵が動くということは――
“天使側”も、必ず動く」
「天使……?」
「セリア、お前の方にも“異常反応”があった。
あれは光核が“覚醒兆候”を始めた証だ」
「えっ……私……?」
「近いうちに“教会側”から接触が来る。
おそらく、巫女候補の選定を理由に」
(うわ、絶対面倒くさいやつ!)
セリアは怯えたようにルイへ寄った。
「……ルイと離れたくない……」
「離れさせるつもりはない」
ラザールの声は、妙に“強かった”。
◆
そのとき――寮の奥で、
“パン! パンパンパン!!”
魔術信号の音が鳴る。
ルナが叫ぶ。
「北壁で第二影反応!!
しかも、さっきのより――“大きい”!!」
「もう次……!? 早すぎ!!」
ノックスが青ざめる。
ラザールが短く言い放つ。
「――全員配置につけ。
今夜、王都警護区は“本格的に狙われている”」
ルイとセリアを振り返る。
「お前たちも来い。
避けられないなら、迎え撃つ方が早い」
深核が共鳴する。
光核が震える。
――逃げられない。
――もう始まってしまった。
ルイは息を吸う。
「……分かった。
俺も行く」
セリアもすぐに続く。
「ルイと……戦う」
ラザールが短く頷いた。
「――双核、前へ」
こうして、
王都に来てたった一晩で、
ルイは“第2の襲撃戦”へ向かうことになった。
影の数は増え続ける。
深淵の“手”は確実に伸びてくる。
そして、
その裏で――別の勢力も動き始めていた。
次回へ続く――。




