第11話:影の侵入者──“王都警護区での初戦闘”
夜。
“特別隔離寮”は静寂に包まれていた。
だがそれは、平和の静けさではない。
空気が――妙に重い。
(……深核、ざわついてる)
ルイは胸の奥で“黒”が微かに脈動しているのを感じていた。
隣では、セリアも落ち着かなげに毛布を握っている。
「ルイ……なんか……嫌な感じする」
「俺も。黒の方が……うずうずしてる」
「黒って……深核のこと?」
「うん」
セリアはルイの手をそっと握りながら、小さく息をする。
「じゃあ……ちゃんと押さえる」
その手を握った瞬間、ルイの中の黒が落ち着く。
(……本当にお前、すごいな)
◆
――その時、
“カン……ッ”
金属が転がるような音が、廊下からかすかに聞こえた。
セリアがビクッと震える。
「ルイ……いま……」
「聞こえた」
ルイはベッドから静かに降り、扉の前へ歩く。
ちょうどそのとき。
ドンッ!
扉の外で、何かが“跳ねた”音がした。
(……影、だ)
確信と同時に黒核が反応し、ルイの視界が一瞬だけ暗く染まる。
◆
「下がれ!!」
鋭い声。
扉を開けた瞬間、廊下の中央に――
黒い“裂け目” が広がっていた。
その前に立つのは、護衛少女ルナ。
「侵入反応! 中規模クラス!!」
「影門の……欠片か……!」
ノックスが怯えながら呟く。
裂け目の奥から、黒い影が“ずるり”と床を這い出してくる。
四足獣のような形状。
だが輪郭が揺れ、重さを持たず、光を吸い込む黒。
ルイに視線を向けた瞬間――影は口を開いた。
『……カギ……』
『……鍵……よこセ……』
(こいつ……俺、狙いなのか……!)
◆
「セリア、下がれ!!」
「でも、ルイが……!」
「大丈夫、絶対に離れない!」
セリアの手を掴んだまま、ルイは一歩前へ出た。
深核が震える。
(黒が……呼ばれてる……でも……押されてない)
逆だ。
押し返している。
(……これが、“名前を得た”効果か……?)
< 深核 >
名前を得たことでその存在が“固定”され、
以前より簡単に暴走を抑えられている。
(よし……いける)
◆
だが影は容赦なく迫る。
床板が黒く侵食されながら、獣の形を歪にしながら突進する。
「ルナ!!」
「分かってる!!」
ルナが二刀を抜き、回転しながら突撃。
「――“疾閃!”」
短剣が影を切り裂くが、
ズルッ……
切断面がすぐに戻る。
「うそっ……!」
「影は“物理耐性高い”ってユリウスが言ってたろ!!」
「今それ言う!? あーもう!!」
◆
影はルイへ一直線。
(くる!)
――その瞬間。
「ルイに、触るなぁぁああ!!」
セリアの叫びとともに、
光が炸裂した。
白く暖かい光が、影を“弾き飛ばす”。
影が壁に叩きつけられ、形を崩しながら呻くように揺れる。
(……セリア、完全に覚醒寸前じゃん)
「ルイは……絶対に渡さない……!」
震えているが、その瞳は強い。
◆
「ルイ、食い止めろ!!」
ラザールが駆けつけてきた。
「戦えるか?」
「やってみる!」
ルイは息を吸い、手を影の方向へ突き出す。
(深核……少しだけ……!)
黒が、軽く光り――
影の足を“縛った”。
(……できた……!)
影は動きを止め、もがき、軋んだ声を上げる。
『……ギ……キィ……』
その間にラザールが飛び込む。
「“断影”!」
影が、真っ二つに裂けた。
闇が霧散し、フラグメントは消滅する。
◆
静寂。
倒れ込むセリアをルイが受け止める。
「セリア、大丈夫?」
「うん……ちょっと……光が勝手に……」
ラザールが近づく。
さっきの獣のような目とは違い、いつもの穏やかさへ戻っていた。
「ルイ。セリア。よくやった」
彼はふと、影の裂け目があった場所を見る。
「……王都警護区に、侵入を許したか」
表情が明らかに険しい。
◆
ノックスが震える声で言う。
「こ、これって……ただの影じゃないですよね?」
「当たり前だ」
ラザールは低く告げた。
「――これは、“深淵本体”の“触手”だ」
(……っ!)
「お前たちを“試している”」
◆
ラザールはゆっくり振り向き、ルイを見据える。
「双核。
……本格的に狙われ始めたな」
(……俺……本当に“鍵”になっちまってるんだな)
◆
こうして――
ルイが王都に来て最初の夜は、
“深淵の触手”との戦闘で幕を開けた。
次の襲撃は、もう止まらない。




