第9話:王都警護区へ──“双核”特別隔離寮へ入居
馬車の車輪が石畳を叩き、低く響く。
王都アルディア。
その中心部にある“王都警護区”は、外の喧騒とは別世界だった。
静か。
澄んだ空気。
衛兵の眼光は鋭く、街の人々とは明らかに違う“訓練された匂い”が漂う。
(うわ……ここ完全にVIP専用区画じゃん……俺、なんでこんな所連れてこられてんだ……)
ルイは半ば現実逃避しつつ馬車を降りた。
◆
「到着だ、ルイ。セリア。」
ラザールが軽く顎をしゃくる。
だが、その表情は一瞬――影のように揺れた。
(今の……?
なんか“黒”と似た気配……)
ほんのコンマ数秒。
けれど双核の感覚には誤魔化せないほど、鋭く深い“異物の気配”。
(やっぱラザール先生……普通じゃないな)
問いただす前に、足音。
◆
「ようこそ、“双核隔離寮”へ。」
現れたのは――
ミネル=クレスト
王都軍直属・近衛師団所属。
淡金のショートヘア、無駄のない動き。
「アインハルト総司令の命だ。
あなたたち二名は、しばらくここで保護・監視下に置かれる。」
(え、いきなり総司令の名前!?
どんだけ俺、規模大きくなってんだ……)
リュミア=フェリシア
教会派遣。
セリアと同年代。
白い修道服、感情を一切見せない瞳。
神官の男が淡々と付け加える。
「光核管理は“シェルナ=グレイス審問官”の命により行う。
彼女は……セリア・リュミアを特に重要視している。」
「え……わ、わたし……?」
セリアがルイの袖を掴む。
(光核の少女の扱い、ガチで重いんだな……)
ウィノ=リード
監察局の末端所属。
だが、子どもとは思えない鋭い目と手札の多さ。
彼はニヤリと笑う。
「オルファス局長からの伝言。“勝手に死ぬな”だってさ。」
(あの人ほんと怖いな!?)
◆
寮の内部は驚くほど広かった。
まるで小さな屋敷。
訓練室、対魔術障壁、影反応感知装置。
(なんか……刑務所と高級ホテルの中間みたいな……)
するとラザールがボソッと言う。
「ここは元々、“双核持ち”を収容するために造られた。
長い間、空室だったがな。」
(双核……?
やっぱりその名称、正式にあるんだ……)
ミネルが説明を続ける。
「深核を帯びた者“深核保持者”。
光核を持つ者“光核保持者”。
君は――両方。」
彼女は少し息を呑む。
「“双核の器”。
王国史でも前例は一つしかない。」
(え……前例? それ初めて聞いたんだけど!?)
「その詳細は近いうちに“レフトナー副団長”から説明がある。
魔導師団の研究対象だ。」
(アマリー・レフトナー……
王都最強の頭脳って言われてる人だよな)
◆
寮に案内されながら、ルイの胸がざわついた。
(……なんか、黒が……落ち着かない)
深核が微かに脈打つ。
同時に。
セリアが胸を押さえて立ち止まる。
「ル、ルイ……なんか……寒い……」
「大丈夫か?」
「うん……でも……光が……揺れてる……」
セリアの光核が反応している。
その瞬間――
◆
“カラン……”
寮の奥から金属が落ちるような音。
全員が反射的に振り向いた。
ウィノが即座に呟く。
「……出たか。」
ミネルは短剣を抜く。
「影反応――微弱だが、確実に“触れ”ている。」
(え、もう来るの!?
王都の中心区画なのに!?)
ラザールが前へ出る。
その横顔は――
いつもの柔和な教師ではない。
“獣”のような目。
(――まただ。
さっき一瞬見えた“裏の顔”……あれが完全に出てる)
◆
そして、誰よりも早く気づいたのはルイ自身だった。
(深淵が……こっちを覗いてる)
背中を冷たい指でなぞられたような感覚。
黒核(深核)が反応する。
遠くで、低い声がする。
『……鍵……みぃつけた……』
(っ!!)
心臓が跳ねた。
セリアが震えながら手を握ってくる。
「ルイ……やだ……」
「大丈夫。俺がいる。」
その一言で、セリアの光がポッと温かく灯る。
◆
だが――
その瞬間。
影が、寮の廊下で“伸びた”。
「……来たな。」
ラザールの声が低く響く。
「歓迎の挨拶だ。
“王都編”――ここから本格的に始まるぞ、ルイ。」




