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転生したら世界の鍵でした 〜俺と相棒で紡ぐ異世界物語〜  作者: くろうさ
第1章:幼少期編

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第9話:結界師の視線と“揺れる魂核”

 結界が張られた翌日になっても、村のざわつきは収まらなかった。

 広場を歩く大人たちの声は、どれも不安を滲ませている。


「また森のほうで気配があったらしい」

「黒い煙みたいなの、見えたって話も……」


 確かに魔獣は結界を越えてこない。

 それでも“異常な黒”はまだ村の外周に残り続けていた。


(この黒……絶対に俺の魂核の残りだよな)


 胸の奥で、黒い霧が日ごとに濃くなったり薄くなったりする。

 誰にも見えないが、俺だけははっきり分かる。


 セリアと手を繋いで外を歩いていた時──

 白いローブの影が目の前に現れた。


「やあ。君はセリアちゃん……だよね?」


 王都の結界師、リオネル。

 昨日見た時より、どこか表情が硬い。


「昨日の魔獣の件、助かったよ。結界のおかげで被害が出なかった」

「いえ、私はただ……」


 セリアが答えようとした瞬間、リオネルの視線が俺に向く。


「……君だね。ルイ君」


(なんで俺を見るんだよ……)


 胸がひゅっと縮む。

 もしかして、揺れに気づいたのか。


 リオネルはしゃがみ込み、俺へそっと手をかざした。


「失礼。少し魔力の流れを見るだけだ。痛くないよ」


 柔らかな魔力が俺の身体を包む。

 その瞬間──彼の呼吸が止まった。


「……っ……これは……?」


 眼鏡越しの瞳が大きく揺れ、驚愕が走る。


「赤ん坊とは思えない……この濃密さ……魔力の層が……」


(終わった……!?)


 だが、リオネルはすぐに表情を整えた。

 まるで“見なかったことにする”かのように、一歩後ろへ下がる。


「……すまない。少し疲れているようだ。また後で村長のところへ向かうよ」


 淡々と告げ、村の奥へ歩き去っていった。


(見えたわけじゃない……けど“揺れ”には気づいたな)


 危なかった。

 ただの赤ん坊扱いされない可能性が現実味を帯びてきた。


「ルイ……だいじょうぶ?」


 セリアが俺を抱き直し、不安な目で覗き込む。


(お前がそばにいてくれなきゃ、マジでバレてた)


 彼女が触れている間だけ、胸の黒は信じられないほど静まる。


 けれど、その夜──。


 家が寝静まり、灯りが消えた頃。

 俺は部屋の隅で小さな呼吸を整えながら、胸の奥に意識を向けていた。


(今日の黒……濃い)


 セリアが帰ってしばらくしてから、魂核の黒がゆっくり重く沈んでいく。

 このままではまた影が暴れ出しかねない。


(……少しでも制御できるか、試すしかない)


 赤ん坊の浅い呼吸で、そっと魔力を撫でるように意識する。

 ふ、と小さな身体が吐息を漏らした。


 胸の奥で光が微かに揺れる。


(……く……!)


 黒が渦巻くように膨れ──

 その反対側で、白が脈打つ。


 黒と白が押し合い、ひび割れのような光が魂核の中心を走った。


「ッ……!」


 声が漏れる。

 窓辺の風がザワリと揺れ、外の木々がざわついた。


(あ……まずい……!)


 黒い気配が、ほんのわずか外へ“漏れ出た”。


 その瞬間──

 遠くで犬が吠え、村のあちこちで物音が立つ。


「なに今の……!?」「風が逆流したぞ……!」


(また迷惑かけた……これじゃ練習にもならない)


 そんな後悔が胸に沈んだ瞬間。


『……鍵よ……』


(!?)


 言葉の形にはなっていない。

 声でも音でもない。

 それでも、脳の奥を微かに震わせる“深淵の囁き”。


『黒を恐れるな……

 ゆっくりでいい……

 お前は……その器……』


(はっきり喋るなっての……!)


 怖い。

 でも、不思議と嫌ではなかった。


 黒も白も、どちらも自分の一部であることを体が知っている。


(両方……扱えるようにならなきゃ)


 胸の奥でそう決意した時──


「ルイ……?」


 部屋の入口。

 暗闇の中に、小さな影。


 セリアだった。


(なんで来た!?)


「なんかね……胸が苦しくて……

 ルイが呼んでる気がしたの」


(いや……テレパシーかよ、お前……)


 けれど次の瞬間、セリアが部屋に入ってきて俺を抱き寄せると──


 黒は完全に沈黙した。


 揺れも

 風も

 影も

 全部、ひと息で消える。


「……よかった。ルイ、無事だ」


(……やっぱり、お前は“光”なんだ)


 この夜、俺ははっきり理解した。


 これから深淵の力はもっと強くなる。

 だけど──


セリアだけは、その暴走を止められる唯一の存在。


 この確信こそが、

 俺とセリアの運命を決定づけていく。

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