第5話:影獣との初決戦──深核暴走前兆と“二つの光”
影穴から溢れ出した黒霧は、
まるで世界を飲み込む前触れのように蠢いていた。
その中心から――
“それ”は姿を現した。
巨大な四足獣。
骨のような脚、霧の肉体。
眼の代わりに、不吉にゆらめく赤い光。
「……影獣……上位種だ。」
ユリウスが低く呟く。
「こんなの王都で出てくるなんて……」
祓魔師たちの顔色が一気に変わった。
◆
影獣は咆哮した。
地面が震え、空気が歪む。
(ヤバ……なんか今までのと全然違う……
黒の濃度も……“圧”も……)
深核が、勝手に震え出す。
『……喰わせろ……
あれは“影界の真肉”……』
(うわキタ!! 黒の声!!)
胸の奥で黒が暴れる。
周囲の影が寄ってくる。
「ルイ!!」
セリアが必死に腕を掴む。
「光核で押さえるから、絶対に離れないで!!」
(セリア……!)
彼女の胸から、白く柔らかい光が広がる。
黒い霧がそれに触れるたび、
“ジュッ”と燃えるように消えていった。
だが影獣はさらに声を響かせる。
「――――ォォォォアアア!!」
地面が弾け飛び、近衛兵が吹き飛ばされた。
「は、速い!!」
「避け――ぐああっ!!」
兵士数名が影の爪に薙ぎ払われる。
リュミアが叫ぶ。
「光属性陣、展開ッ!!」
王女の足元に魔法陣が広がり、
眩い光が結界のように広がる。
その光を浴びた影獣は一瞬怯み――
だがすぐに咆哮した。
「効きが……薄い!?
殿下の光でも……!」
「この影獣……“深淵寄り”だわ……!」
リュミアが歯を噛む。
(深淵寄り……つまり“俺の黒”と同質ってことか!?)
深核がより強くうずく。
『ゆけ……
あれは“我”の欠片……』
(何で俺に語りかけてくんだよ……!!)
◆
ユリウスが動いた。
影のように滑り込み、
影獣の顎下に短剣を突き立てる。
「“影穿”!」
霧の肉体が裂け、黒い液体が飛ぶ。
だが影獣は怯まない。
ユリウスを丸呑みにしようと口を広げた。
「ユリウスさん!!」
ルイが咄嗟に手を伸ばす。
瞬間――黒が漏れた。
(う……!?)
影穴の奥から黒い気配が“応答”し、
影獣の攻撃が一瞬止まる。
「……ッ!?」
「何が……今の……?」
祓魔師たちがざわめく。
ユリウスはその隙を逃さず離脱した。
「ルイ……今のはお前か……?」
「……たぶん、黒が勝手に……」
「勝手に!? 化け物かお前は!!?」
近衛の一人が叫ぶ。
◆
影獣が再び吠える。
深核が反応――
黒がさらに漏れそうになる。
(やべ……このままだと暴走する……!)
「ルイ!! 見て!!」
セリアがルイの手を握り、
光核を最大まで展開した。
「光核、
“安定域まで上げる……!!”」
彼女の身体から輝く光が放たれ、
黒が一気に押し返される。
「ぐっ……!」
「ご、めん! 疲れるけど……
でも絶対、深核なんかに負けない!!」
(セリア……!!
お前の光、俺の黒を抑えてくれる……!)
リュミアが前に出る。
「二人とも……!
あなたたちの“核”の力……借ります!!」
「え……?」
リュミアは二人の手の上に手を重ねた。
淡い光が三人の間に流れ込む。
「光核……“共鳴”……?」
「王家の秘術です。
光の核を、複数で結び合わせる技。」
(そんな秘術があるのか……!!)
「いきますわ――!」
◆
三つの光が重なり――
巨大な魔力の奔流がルイの深核へ流れ込む。
「う、うわ……っ!!?」
深核の暴走が、一気に抑制される。
『……ガ……ァ……
白……に……縛ら……』
(いける……! セリアとリュミアの光が……黒を縛ってる……!)
ルイが息をついた。
「……ありがとう。
これなら……いける……!」
ユリウスが叫ぶ。
「影獣が来るぞ!!
全員構えろ!!」
ルイは前に出る。
「俺が行く!!」
「ルイ!? 危ないよ!!」
「大丈夫。
――今なら、“黒”を使える。」
深核が静まり、
白と黒が均衡を取った。
影獣が飛びかかる。
ルイは拳を握り、低く呟いた。
「深核――
第一制御形態《フェーズ1》。」
黒が、静かに拳へと集まる。
「行くぞ……!」
王都の中心で、
ルイの初めての“深核制御”が始まった。




