第2話:王都“エルディア”の門──揺れ動く視線、囁かれる“鍵”の名
王都へ向かう馬車は揺れながら、
昼下がりの陽光を受けてきらめく大河を越えていった。
「すげぇ……」
まるで空に届く塔のように伸びる城壁。
巨大な水門。
幾重もの魔力障壁が淡い青を放つ。
これが――人類最大の都市、エルディア。
セリアが目を丸くする。
「王都……本当に大きい……!」
フェンリスは尻尾をぴんと立てて警戒。
ユリウスは腕を組み、城門を睨みつけた。
「気を抜くな。
影の残滓は、都市の中にも潜む。」
(やっぱりそう来るよね……)
◆
馬車が門へ近づくと、衛兵が慌てて姿勢を正した。
「し、シャドウハンター副隊長!?
本部からの迎えですか!?」
「違う。
俺は、“この少年の護衛”だ。」
「少年……?」
衛兵がルイを見る。
その瞬間、ルイは分かった。
(――見てる目が、完全に“特別扱い”だ)
好奇、恐怖、あやしみ……
全部混ざった視線。
門番たちの囁きが聞こえる。
「……あれが……影門事件の……」
「鍵候補だって噂の……」
「王家も教会も動いてるらしいぞ……」
(うわぁ……すでに噂回ってんのか……)
セリアがルイの腕を握る。
「大丈夫。ルイはルイだよ。
みんなが何を言っても。」
「ああ。ありがとう。」
ユリウスは鼻を鳴らした。
「気にするな。
英雄も怪物も、この街では紙一重だ。」
(フォローになってないんだけど……)
◆
門がゆっくり開く。
視界に飛び込んだのは、巨大な市場と石造りの街並み。
魔導街灯が昼でも輝き、至る所を冒険者や貴族が歩く。
「すご……人多すぎない?」
「これでも平日だぞ。」とユリウス。
ラザールが軽く肩を叩く。
「ルイ、気をつけろよ。
王都は良い奴も悪い奴も山ほどいる。」
「悪い奴の方が多い気がする……」
「正しくは“多い”だ。」
(うわ……この街で生きてく自信なくなってくるな……)
◆
瞬間――空気が変わった。
“視線”が向けられる。
いや、視線というより…… 観察されている。
王都の石畳を歩いた数歩の間で、
三つの気配がルイを測った。
(……今の……)
ユリウスが低くつぶやく。
「王城の監視魔導師……
教会の預言官……
そして……影の密偵か。」
(え、全部!??)
ラザールが苦笑する。
「人気者だな、ルイ。
着いてすぐこれか。」
「勘弁してくれ……!」
◆
そのとき、馬車の屋根の上。
黒い影が、静かに身を伏せていた。
人ではない。
だが魔物でもない。
“影の王”の眷属。
「……器。
よくぞ来たな。
本当の“扉”の前へ。」
赤い瞳がルイを射抜いた。
「間もなく、試練が始まる。」
影はスッと霧に消える。
その存在には、誰も気づかなかった。
――この王都到着の瞬間が、
ルイの運命を大きく動かす最初の分岐となる。




