第26話:黒炎狼フェンリス──“従属の牙”がルイを試す
森を裂くように響いた咆哮。
黒炎狼フェンリス――幼体とはいえ、影狩り部隊が数人束になっても倒せない格の存在。
だがその鋭い眼は、ただ一人に向けられていた。
ルイ。
「ガアアアアッ!!」
黒炎が飛んだ。
空気が焼け、地面が黒焦げになる。
「ルイッ!!」
セリアが叫ぶより早く――
ルイの《深核》が反応した。
黒い波紋が足元から立ち昇り、
フェンリスの黒炎を飲み込むように吸収していく。
(……喰ってる? 俺の深核が……?)
フェンリスの目が鋭く細まる。
「ガ……ォ……」
炎は攻撃ではなく――試しだった。
◆
ユリウスが歯を噛む。
「フェンリスは“核に忠誠を誓う種”だ。
深核を持つ者が現れれば、本能が逆らえない。」
「つまり……」
「ルイへ従属したい本能と、
“影の獣としての誇り”がぶつかっている……!」
フェンリスは低く唸りながら、
ルイの影に足を踏み入れる。
(……来るなよ。来たらやられるって……!)
しかし――
その黒い体は震えながらも、まっすぐルイへ近づいた。
目が語っていた。
――選べ。
俺を従える資格があるなら、“深核”を見せろ。
◆
(うわ……これ完全にペットイベントじゃん……
でもやり方が分からん!)
その時、胸の奥で黒が囁いた。
いつもの“冷たい声”ではなく、もっと深く――
≪……我を、開け≫
(開け……って)
手が、自然と前へ伸びた。
深核が黒い光を放つ。
フェンリスの影も同時に揺らぎ――
【深核共鳴】
発動。
黒い波動が二つの存在をつなぎ――
森全体が一瞬“沈黙”した。
風も止み、音も消える。
セリアが息を呑む。
「ルイの……“黒”が……!」
その光景は“暴走”にも見えた。
しかし――違う。
(わかる……これは“選別”だ。)
◆
フェンリスが跳んだ。
黒い弧を描き、ルイの首元へ“従属の牙”が迫る。
普通なら死ぬ。
影狩りの訓練で使われる儀式だが、失敗すれば即死級。
だがルイは――一歩も動かない。
(……来い)
“黒”が左右に分かれ、牙を受け止めるように形を変えた。
ガチィィィン!!
衝撃と共に、フェンリスの体が震える。
「ガ……オォ……」
牙が折れる寸前で止まった。
黒い煙が、フェンリスの体からルイへと流れ込む。
共鳴――完了。
◆
「……っは……!」
我に返った瞬間、ルイの影が揺れた。
フェンリスはルイの前に跪き、頭を垂れる。
(おおおお……成功した……!?)
「ガウ……!」
狼というより、大型犬のように尻尾を振る。
「え、可愛いのかよ……!」
セリアは呆然。
「……ルイ、それ……ペット……?」
ユリウスは信じられないという顔で呟いた。
「……深核の資質。
本当に“鍵”の器かもしれん……」
◆
こうして――
ルイの主ペット:黒炎狼フェンリス(幼体)
が正式加入する。
だがこの瞬間、もっと厄介な変化が起きていた。
セリアの《光核》が、
ルイとフェンリスの“黒”に刺激され……
胸の奥が、白い光で暴れ始めた。
「ル、ルイ……なんか……熱い……!」
「セリア!?」
光が暴走しかけている。
それは――
光核の“第1段階覚醒”の前兆。
影狩り試験は、まだ終わらない。




