第22話:覚醒の余波──深核の“望み”が囁く
影狩り試験場の大地は、まだ震え続けていた。
深核が実体を持ちかけた余波。
光核が暴れた爆ぜ。
そして、ルイの初めての“二核展開”。
その全てが重なった結果だ。
吹き飛ばされた影獣たちは黒い霧に戻り、風に溶けて消えていく。
(……やべぇ……)
ルイはゆっくりと拳を握った。
黒の力がまだ皮膚の下でざわつき、
光の力がそのたびに押し返している。
(完全には収まってねぇ……)
◆
「ルイ!!」
駆け寄るセリアが、勢いのまま抱きついた。
「戻ってきて……本当に……本当に……!」
「お、おう……」
涙で光る瞳。
その深い安堵を前に、ルイも気恥ずかしさを隠せない。
(……なんつーか……可愛いな……)
だが次の瞬間、セリアは意外にも強い力でルイを離した。
「バカ! どこ行ってたの!?
ルイ、意識が……全然戻らないから……!」
「いや、俺もよくわかんないんだけど……」
◆
ユリウスが近づく。
その表情は驚愕と警戒と興奮が入り混じった、複雑なものだった。
「……これが、“深核(Abyss Core)”……か」
「知ってるの?」
ユリウスは短くうなずいた。
「伝承だ。“影の核”を持つ者は、極稀に現れると言われている。
だが、実際に見るのは……初めてだ。」
そして冷たい声に戻る。
「ルイ。
お前の黒は……“呼ばれている”。
それは喜ぶべきことではない。」
「……分かってる。」
「いいや、分かっていない。」
◆
その瞬間。
ルイの視界の端で、黒が揺れた。
影が、形になりかけていた“あれ”が。
柔らかい声で囁く。
◇【深核の声】
『器よ……まだ足りぬ。
もっと、もっと……呼び戻せ。』
(……まただ)
深核が——喋っている。
◇
『名を……与えよ。
名があれば、我は“形”を得る。
お前の影として……存在できる。』
(……影、か)
この世界にもし召喚獣という概念があるなら、
深核は“影の召喚獣”に近いのかもしれない。
(名前……)
だがその囁きは、心の奥でくすぶる程度。
深核は本気で出てこようとはしていない。
(さっきの覚醒で……力を使いすぎたんだな)
◆
ラザールが静かに言う。
「ルイ。
お前の中の黒と光……“二つの核”は、確かに強い。
だが、今のままでは飲まれる。」
ユリウスも続ける。
「名を与えるのは悪くない選択だ。
名は契約だ。“縛る”力を持つ。」
「……縛る?」
「そうだ。
深核が完全覚醒したら、次に主導権を取るのは黒だ。
お前じゃない。」
(なるほど……そういうことか)
深核に名前を与える=主従を固定できる。
セリアも不安げに口を開く。
「でも……ルイの“黒”って……危険なんだよね?
暴走しないようにするための名前……とか……?」
「まあ、そんな感じかな」
「……じゃあ……私も考えたい」
「え?」
「だって……ルイの力なんだよ?
私も……一緒に名前考えたい……!」
(……そう来るか)
◆
ユリウスは腕を組む。
「だが名をつけるのは今ではない。
お前の精神が安定していない。
深核も疲弊している。
今つければ“適当な名前”になる。」
ラザールも頷く。
「いずれ“名付けの儀”を行う時が来る。
焦る必要はない。」
(名付けの儀……そんなイベントあるんだ……)
◆
ユリウスは試験場を一瞥し、短く言った。
「――影狩り試験は、第二段階へ移行する。」
「第二段階……?」
「お前の深核は初めて牙を剥いた。
ならば次は、“光核(Lumen Core)”の制御だ。」
セリアが目を丸くする。
「えっ!? 私も!?」
ユリウスは冷静に頷く。
「二人はセットで監視対象だ。
ルイだけを鍛えても不十分。
光核の暴走こそ、この試験場最大の危険だからな。」
(いや光核のほうがヤバい扱いなの!?)
セリアは頬を膨らませる。
「私、暴走なんてしないもん!」
「さっき爆ぜてたのが見えんかったのか?」
「み、見えてたけど……!」
ルイは笑った。
「な、セリア。
一緒に頑張ろうぜ。」
セリアは一瞬驚き、それから嬉しそうに笑った。
「……うん!」
◆
こうしてルイとセリアは——
深核(Abyss Core)の“名付け”
光核(Lumen Core)の制御訓練
影狩り試験・第二段階
三つの難題へ、同時に挑むことになる。
その先に待つのは――
まだ誰も知らない “双核持ち(Dual Core)”の真価だった。




