第21話:深核――“黒の声”が形を成す瞬間
影狩り試験場の空気は、もはや“試験”という言葉とは程遠かった。
大地が脈動する。
闇が唸る。
そして、中央に立つルイの“黒”が――
形を持ち始めていた。
ユリウスが息を呑む。
「……まずい。“黒”が実体化しかけている……!」
(実体化って……あの黒いモヤが……?)
ルイの周囲にまとわりついていた黒霧は、もはや霧ではなかった。
牙のように裂け、爪のように伸び、まるで生き物の呼吸のように脈打っている。
「ルイ!! 戻ってきて!!」
セリアが必死に叫ぶ。
だが――
その声が、ルイには届かない。
◆
(……ここ……どこだ?)
気づけば、視界は暗黒に染まっていた。
大地はなく。
空もなく。
ただ、深い闇の底。
その中心に――“何か”が立っていた。
◇【???】
『やっと……会えたな』
(……声……?)
◇
『“器”……ルイ・アーヴェント。
ようやく、ここまで近づいた。』
それは“黒”の声だった。
だが黒霧とは違う。
人の形を持ち、“声帯”を得たかのように発音している。
(お前……俺の中の……深核?)
◇
『深核(Abyss Core)……その名は心地よい。
だがまだ未完成。
我は“核の影”。
器であるお前が名を与えるまで、完全には目覚めぬ。』
(名を与える……?)
◇
『呼べ。
望め。
お前が望む形で、望む強さで……
“我”を、名前で縛れ。』
その時、外界で何かが爆ぜた。
◆
「ルイ!! 戻れぇぇぇ!!」
セリアの絶叫。
光核が膨張し、黄金の輝きが試験場を満たす。
ユリウスが目を見開いた。
「光核まで暴走しかけている!? まずい、これは本気で――」
ラザールが短く言う。
「止めるぞ。
二人同時に暴走したら、この試験場が消し飛ぶ。」
◆
ルイの意識は闇と光の狭間を漂い――
深核の声が再び響く。
◇
『名を……与えよ。
お前の“黒”に。
そうすれば——』
◆
現実では、黒霧が巨大な腕の形を作り始めていた。
セリアが涙目で叫ぶ。
「ルイっ!!
お願い……っ、帰ってきて……!!」
彼女の光核が激しく脈打ち、白金の光が弾ける。
その瞬間——
ルイの瞳に、ようやく光が戻った。
「……セリア……?」
深核の影が揺らぐ。
◇
『その名……その声……
やはり器は面白い……』
影が形を崩し始めた。
だが消えるわけではない。
◇
『よかろう。
名は……“後で”だ。
まずは——』
◆
現実に戻ったルイの身体が、光と闇を同時に纏う。
ユリウスが絶句する。
「……なんだ、この“両核展開”は……!?」
ラザールは冷静に呟いた。
「始まったな。
ルイの“二つの核”の本当の覚醒が。」
◆
そして、ルイは叫ぶ。
『行け!! 深核――!』
初めて、“黒”が命令を受けた。
その瞬間。
黒い腕が影獣を轟音と共に吹き飛ばした。
深核はまだ名前を持たない。
だが、確かに“従った”。
(……これが……俺の“黒”……!)
セリアは涙ぐむ。
「ルイ……戻ってきてよかった……!!」
ユリウスは震えながらつぶやいた。
「……こんな小僧が……
“核使い(コア・ベアラー)”だと……?」
◆
こうしてルイは――
深核との初接触 を果たし、
試験は第2段階へ進むことになる。




