第20話:白核の疼き──セリアに訪れた“光の代償”
影獣が霧散した直後。
訓練場には、まだ黒い魔力の名残が漂っていた。
ルイの深核が暴れた余韻は、空気そのものを重たくしている。
だがその中で――
セリアだけが、胸元を押さえて息を荒げていた。
「っ……はぁ……はぁ……」
「セリア……!?」
ルイが駆け寄ろうとすると、
彼女の身体が淡く発光した。
白い光。
だがいつもの柔らかさとは違う。
痛みに震える光。
「セリア! 大丈夫!?」
「だ……いじょ、ぶ……
ただ……胸が、熱いの……っ」
(これ……まさか……)
ユリウスが叫ぶように言った。
「離れろ!
光核が“過負荷”を起こしている!!」
「なっ……!」
◆
白い光が一瞬だけ強くなる。
セリアの周囲へ、小さな羽のような光が舞う。
(これ……前に一度だけ見た……
巫女覚醒の“片鱗”……!)
ラザールが素早く駆け寄り、手をかざして状態を確認する。
「……ルイの深核を押し返した反動だ。
白核が一時的に“拡張”しようとしている。」
「どうすればいい!?」
「落ち着け。命に関わるものではない。
だが……これはもう隠し通せないぞ。」
ユリウスが眉を寄せる。
「光核の使い手。
王都でも“聖職者級”の扱いになる。」
(終わった……
セリアまで国家機密入りしちまう……!)
◆
だがセリアは震える手でルイの袖を掴んだ。
「……ルイ、行かないで……
今、離れたら……やだ……」
涙目で必死に。
ルイはそっと手を重ねた。
「行かない。
俺はずっとそばにいる。」
その一言で、セリアの光がふっと落ち着いた。
白い羽の光が収まり、胸元の疼きも弱まる。
ユリウスが驚いたように目を細める。
「……ルイの魔力が、セリアの核を“安定化”させている……
これは、かなり異常な現象だ。」
ラザールも同じく驚きの表情。
「深核と光核……
本来交わらぬものが、互いに“支え合う”?
まるで魂レベルで紐づいているようだ。」
(いやそんな簡単に一蓮托生みたいな言い方されても!!)
◆
セリアは弱々しくも笑った。
「……ルイが触ると、落ち着くんだ……
なんでだろ……」
(そ、それ俺が聞きたい!)
ユリウスは腕を組んで思案した。
「“鍵”……か。
影も光も引き寄せる存在……
お前たち二人の関係は、思った以上に危険だな。」
「危険って言うな!!」
「事実だ。」
(ぐぬぬ……!!)
◆
ユリウスは深く息を吐いた。
「いいだろう。
影狩り試験は――ルイもセリアも“合格”だ。」
「え……私も……?」
「光核の出力を見れば十分だ。
むしろ、お前の方が価値は上かもしれん。」
セリアは困惑したようにルイの袖にしがみつく。
「そんな……わたし、ただ……ルイを助けたくて……」
(お前は本当に……すごいよ……)
◆
ユリウスはラザールと目を合わせると、静かに告げた。
「王都への移動日程を前倒しする。
二人の核の反応がここに留まるほど、影が寄る。」
「本命門が動く可能性も高い。」
ラザールの言葉にユリウスも頷く。
「出発は――明朝。
急いで準備しろ。」
「明日!? 早すぎるだろ!?」
「影は待たん。」
(いや影ってそんな積極的かよ!!)
◆
セリアが小さくルイの服を引っ張った。
「ルイ……大丈夫かな、わたし……
なんか……怖いの……」
不安に震える肩。
それでもルイの手を離さない。
「大丈夫だ。
セリアが光なら――俺はその影を押さえる。」
「うん……信じる……」
(やめてくれ……そんな可愛い言い方……!)
◆
こうして二人は――
深核と光核、初めて“名を持った力”として認識され、
同時に王都へと向かう運命を背負う。
だがこの時、誰も知らなかった。
この翌朝、
王都へ向かう道で
影狩り部隊ですら想定しない“最初の異変”が起こることを。




