第17話:影狩り試験──“黒”の呼応と、光核の震え
学院裏庭の空気は、いつもより冷たかった。
朝の光が差しているのに、空気だけが妙に重い。
ルイとセリアが到着すると、すでに“影狩り部隊”が並んでいた。
黒い軽装、防具は最小限。
動きに特化した暗部集団――シャドウハンター。
その中心に立つのは、昨日の男。
「来たな。ルイ・アーヴェント。」
副隊長、ユリウス・ヘイゼル。
(やっぱりこの人、存在感だけで怖いんだよな……)
セリアはルイの袖をぎゅっと掴む。
「ルイ、本当にやるの……?」
「やんない、って選択肢がなかった。」
「……だよね。」
◆
ユリウスが試験の内容を告げる。
「この裏庭には、昨夜捕獲した“影の残滓”が三体いる。」
「えっ、捕まえるんだ……?」
「生け捕りにするのは骨だがな。
暴走する前なら、弱い影もいる。」
(軽い口調で言ってるけど、一般人には絶対無理だろ……)
ユリウスは続ける。
「君には“黒”がある。」
(やっぱり見えてるのか……!)
「影はそれに引き寄せられる。
だから――試験内容は簡単だ。」
「簡単……?」
ユリウスの短剣が地面を“コツン”と叩いた瞬間。
裏庭の奥が、ぬるりと揺れた。
黒い影が地面からあふれ出し、三方向に散る。
「――この三体を、逃がさず倒せ。
ただし、今回“魔法は禁止”だ。」
「魔法禁止!?」
「影狩りは基本、近接戦闘だ。
魔法頼りでは、生き残れない。」
(いや、それ俺の戦い方ほぼ封じてない!?)
◆
影の残滓は、黒いもやと獣の輪郭が混ざったような形だ。
目は赤い光点だけ、動きは速い。
「セリアは後方支援。
君の光は影に強い。最低限、抑えておけ。」
「わ、私も……戦うんですか……?」
「君の“光核”は、昨日から揺れている。
制御の訓練にもなるだろう。」
(セリアまで……!?)
だがセリアは震えながらも頷いた。
「ルイを守れるなら……やる。」
(お前……ほんと強いよ……)
◆
影が動いた。
地面を裂くような速度で、三体同時に襲いかかってくる。
「っ、早っ……!」
「ルイ、右!!」
セリアの声と同時に、ルイの中で“黒”がざわめいた。
――来る。
身体が勝手に動き、第一の影の爪をギリギリで避ける。
(……やっぱり黒は“戦い”に反応する……!
呼ばれてるみたいに、勝手に身体が動く……!)
二体目が背後に回り込む。
「後ろ!!」
「分かってる!」
ルイはくるりと回転し、足を払って影を転ばせる。
黒い霧が散り、影が煙のように形を崩す。
(大丈夫……まだ“黒”は暴れてない……)
◆
三体目が一番やばかった。
霧状ではなく、人型に近い。
獣の影ではなく、兵士の影のように“意志”がある。
「グルル……ァァッ!!」
飛びかかる速度が段違い。
「ルイっ!!」
「――っ!」
黒が跳ねた。
魂核の奥で、黒い波が“ドクン”と脈動する。
(……来る……!!
“黒”が出る……!)
視界が一瞬、陰った。
影が触れる寸前――
「ルイ!!」
セリアの叫びと、眩しい光。
彼女の胸元から“淡金の光”が弾けて、影を吹き飛ばした。
「光核……!」
ユリウスの声が珍しく驚いていた。
セリアの身体が小さく震えながら光を放つ。
「ルイに……触らないで……!」
(セリア……!
これ、完全に覚醒前兆じゃん……!)
◆
光に焼かれた影は形を保てず、地面に黒い霧を散らしながら消えていく。
最後の影が消えた瞬間――
ルイの中の“黒”も、すっと静かになった。
(……助かった……
危なかった。あれ以上暴れたら、絶対バレてた。)
ユリウスが歩いてくる。
「終わりだ。」
「え、これで……?」
「十分だ。
黒に飲まれず、光核と連携もできた。
――影狩り部隊の基準を満たしている。」
(いや、俺正式に影狩りに入るの!?)
「王都への同行、問題なし。
だが――」
ユリウスはルイを真っ直ぐ見つめる。
「君の中の“黒”は、確実に成長している。
そして“呼んでいる者”も強くなっている。」
(……やっぱりか。)
「王都へ向かえば、もっと大きな影が現れる。」
「……分かってる。」
「いい覚悟だ。
では――三日後、出発だ。」
◆
ルイは静かに息を吐いた。
セリアがそっと寄り添う。
「ルイ……怖い?」
「怖いよ。
でも、支えてくれるやつが隣にいるから。」
セリアの頬が赤くなる。
「……うん。」
その瞬間、ルイの魂核の白がふっと揺れた。
(黒だけじゃない。
……白も強くなってる。)
何かが、確実に動き始めていた。




