第16話:王都への旅支度──“影狩り部隊(シャドウハンター)”との邂逅
三日後に迫る王都行き。
学院は、まるで嵐の前に静まる森のように落ち着かない空気に包まれていた。
生徒たちのささやきは尽きない。
「ルイ君、監察局本部に連れていかれるってマジ……?」
「セリアちゃんまで同行って……ただ事じゃないだろ」
「ラザール先生も行くって聞いた。護衛らしいけど……」
その全部が、どこか“恐れ”を含んでいた。
(そりゃそうだよな……
俺、完全に“国家機密扱い”だし)
ルイは苦笑しながら荷物をまとめていた。
◆
「ルイ、こっち衣装増やしていい?
王都、寒い日もあるって聞いたし……」
「お前……既に俺の荷物より多い気がするけど……?」
「必要なの! 旅は準備が大事なんだから!」
(いや、半分以上ぬいぐるm……)
言いかけた瞬間、セリアがじと目になったので黙った。
◆
そのとき。
トントン、と扉がノックされた。
「ルイ、いるか?」
「ラザール先生?」
入室してきたのは――ラザール、ではなかった。
黒ずくめの軽装、
肩と腕にだけ金属製の防具。
背中には二振りの短剣。
見た瞬間ルイは悟る。
(……殺気が、一般兵のじゃない)
男は静かに胸へ手を当てた。
「初めまして。
王都直属“影狩り部隊”副隊長、
――ユリウス・ヘイゼルだ」
「影……狩り……?」
セリアが息を呑む。
◆
ユリウスは淡々と言った。
「ルイ・アーヴェント。
君の護衛を、監察局より委託された。」
(え、監察局から?
オルファスの部下とかじゃなくて?)
ユリウスは首を振る。
「いや。俺たちは監察局とは別組織だ。
目的はただ一つ――
影の脅威から“鍵候補”を守ること。」
「鍵候補……?」
「確定とは言われていない。
だが、学院影門事件での反応……
そして地下の“本命門”が君を呼んだ時点で、
我々の監視対象になった。」
(いや……影が勝手に寄ってくるだけなんだけど……)
◆
ユリウスは続けた。
「君たちが王都へ向かう道は危険だ。
“影の残滓”が、既に森へ入り込んでいる。」
「この辺にもいるの?」
「昨日、四体殲滅した。」
(さらっと物騒なこと言った!!)
セリアがルイの腕を掴む。
「やだ……怖い……」
「うん、俺も怖い。」
「え、うそ……ルイでも……?」
「怖いから生きてるんだよ。」
ユリウスがわずかに目を細める。
「……いい判断だ。
恐怖を理解しない者から先に死ぬ。」
(こわっ! けど言ってることは正しい!)
◆
ユリウスは一歩近づき、
ルイの胸元、魂核の位置を見定めるように視線を落とす。
「……君の中の“黒”は、まだ静かだな。」
(えっ、見えてるの……?)
「勘だ。影狩りを二十年やれば、嫌でもわかる。」
短く続ける。
「……だが、その黒は“呼ばれている”。」
(え、お前もそれ言うの!?
なんでみんな分かるの!?)
「嫌な予感しかしねぇ……」
「その通りだ、ルイ。」
ユリウスは背を向け、扉の前で言った。
「荷造りを終えたら、学院の裏庭に来い。
“影狩り部隊の試験”を受けてもらう。」
「試験……?」
「君が王都へ行く前に――
本当に“護衛が務まる側”なのか、判断する。」
(え、逆!?
俺が護衛される側でしょ!?)
「いいや。
影は“君を中心に”集まる。」
ユリウスが振り返る。
「つまり――
君自身が戦えねば、誰も守り切れない。」
(やっぱりそうなるよねぇえええ!!)
◆
そして副隊長ユリウスは言う。
「安心しろ。
今回の試験は“死なない程度”で終わらせる。」
「いや、そこは死ぬ可能性ある前提なんだ……?」
「ある。影狩りとはそういうものだ。」
セリアは顔色を変えた。
「ルイを……危険に晒すつもり!?」
「それを避けたいなら――
実力で証明しろ。光核の少女よ。」
(煽るなこの人!!)
◆
こうしてルイは――
王都に行く前に、“影狩り部隊の試験”を受けることが決定した。
それは
彼の中の“黒”を刺激し、
セリアの“光核”が初めて本気で覚醒の気配を放つ、
危険極まりない戦闘になる。
だがまだ、その時は知らない。




