第7話:広がる“噂”とセリア家の秘密
森から魔獣が現れた騒ぎは、その日のうちに村じゅうへ広がった。
「ウルグルが突然倒れたらしいぞ?」
「誰が仕留めたんだ?」
「いや、倒したやつはいないらしい……勝手に崩れたとか」
井戸端でも道の端でも、皆が不安を抱えた顔で噂している。
(まぁ……赤ん坊の俺が原因だとは誰も思わんよな)
けれど、あの“影”が俺の魂核の反応だったのは間違いない。
大きな異変になる前に、どうにか制御を──と思っていたところ。
「ルイ〜! 今日も来たよ!」
勢いよく扉が開き、セリアが飛び込んでくる。
その瞬間、家の中の空気が少しだけ明るくなる。
「ほんと仲良しだねぇ、二人は」
母さんの笑顔。
セリアが近くに来ると、胸の奥の黒い揺れが不思議と静まる。
(やっぱり……セリアが近くにいると深淵の黒が暴れない)
昨日の暴走も、彼女に手を握られた瞬間に収まった。
(この子……やっぱりただの幼女じゃない)
そう感じていた時、玄関から静かな足音が聞こえた。
「セリア、迎えに来たわよ」
セリアの母だった。
優しげな雰囲気の女性だが──俺を見る“目”だけが違った。
一瞬、鋭く俺を見つめる。
「……この子、少し……?」
その視線は、俺の周りに漂う“魔力の揺らぎ”を確かに捉えていた。
普通の村人では絶対に気づけない微細な揺れ。
(やっぱ……血筋か。この感知能力)
すぐにセリア母はいつもの柔らかい顔に戻り、穏やかに微笑んだ。
「ルイ君、また遊んでね。
セリアも、あまり無茶しないようにね」
「はーい!」
母娘が帰っていく。
その背中を見送りながら、胸の奥がぞわりと波打った。
(……今の揺れ。深淵だ)
気配の残り香のようなものが、ほんの一瞬だけ触れてきた。
『……鍵は動き出す……』
(今の……声? いや──違う)
耳ではなく、頭の奥の“感覚”へ直接染みこんできた気配。
言葉というより、意思の断片が触れてきたような。
(完全には消えてなかった。深淵……)
母さんは何も気づいていない様子で家事を続けている。
だが夕方になると、村の中央から村長の大声が響いた。
「村人全員に知らせだ!
近くの森で異常が続いている!
明日、簡易結界を張る準備をする!」
村人たちがざわめき始める。
(……簡易結界か)
魔力を遮断する簡易的な防御壁。
魔術師が少ないこの村では、本来めったに使わない手段だ。
(影の力……結界に触れたら反応する可能性がある)
つまり──
“影=俺の力” が露呈する危険があるということだ。
不安が胸の奥に浮かんだ、その時。
「ルイ……」
セリアが再び家の前に現れ、心配そうに俺を見つめていた。
小さな手が、そっと俺の手に触れる。
「なんかね……村の魔力が、ざわざわしてるの」
(感じてるんだな……セリアも)
見えてはいない。
だけど、揺らぎそのものを敏感に察している。
その瞬間だった。
胸の奥の魂核が、黒く──静かに脈打った。
(……悪い予感しかしない)
こうして“村全体を巻き込む小さな異変”が、
ゆっくりと動き始めていた。




