第13話:新たな“同行者”――ノアと向かうラインベルク
翌朝。
「で、本気で連れていく気か?」
ギデオンは、馬車の前で腕を組んでいた。
その隣には、少し大きめの服を着せられたノア。
「だって、この子の“元いた場所”がラインベルクっぽいし」
「放っておいたら、また影に引っ張られるかもしれないしね」
セリアも当然のように賛成している。
「村に残すって選択肢は?」
「昨日の話、聞いたでしょ。
あのままここに置いておいたら、また“欠片”が来るかもしれない」
俺はノアの頭を軽く撫でる。
「だったら、こっちで見張りながら連れてった方がまだ安全です」
「見張りって言い方、やめて?」
ノアがむくれる。
完全に普通の子どもの反応だ。
◆
ラザールは、例によって本を閉じながら言った。
「個人的には、連れていくのに賛成だ。
“欠片から人へ戻った例”は、研究対象としても貴重だからね」
「先生、言い方」
「冗談だよ。半分は」
「半分は本気なんだ……」
◆
結局、ギデオンも折れた。
「いいだろう。ただし条件がある」
「条件?」
「一つ。ノアの中の影が再び暴れた場合、
俺の判断で“処理”すること」
ノアがびくりと肩を震わせる。
「二つ。ノアを守る責任は、まずルイとセリアが負うこと。
お前たちが選んだ道だからな」
「……了解」
覚悟はしていた。
(俺が門の向きを変えた。その結果生まれた“欠片”だ。
なら、最後まで面倒を見るのが筋ってもんだろ)
◆
こうして、俺たちの馬車は少しだけ賑やかになった。
「ねぇルイ」
「ん?」
「王都って、どんなところ?」
ノアが目を輝かせて訊いてくる。
「なんか、いろんな人がいて、いろんな匂いがして――」
「説明が雑」
セリアが笑う。
「でも合ってるよ。
王都はね、喧嘩してる人もいっぱいいるけど、
そのぶん笑ってる人もいっぱいいるの」
「ふーん……」
「ラインベルクも面白いところだぞ」
ラザールが珍しく会話に入ってきた。
「交易都市だからな。
いろんな国から人が集まる。
影門の余波だけじゃなく、世界情勢も見えてくる」
「世界情勢って?」
ノアの素朴な質問に、ラザールは少しだけ考えてから答える。
「簡単に言えば、“大人たちの面倒くさい事情”だ」
「せんせー、それ絶対授業じゃ言えない説明」
「今は授業じゃないからね」
◆
道中、俺はずっと胸の奥の感覚に意識を向けていた。
黒と白。
ノアと、まだ見ぬ出口。
(……確かに、こっちの方向に“何か”がある)
薄く、遠くで、深淵が笑っている。
『よく来たな、鍵よ』
(まだ着いてもいないんだけど)
『世界は狭い。
お前の歩く先は、いずれすべて“ここ”へ繋がる』
(そのフラグ、いつかへし折ってやるからな)
セリアが隣で小さくくしゃみをした。
「どうした?」
「なんか、嫌な予感がした」
「それは多分正解だと思う」
「え、やだ」
そんな他愛ない会話を交わしながら――
俺たちを乗せた馬車は、
影門の余波が渦巻く街“ラインベルク”へと、確実に近づいていった。




