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転生したら世界の鍵でした 〜俺と相棒で紡ぐ異世界物語〜  作者: くろうさ
第3章:王都編

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第12話:影の子ども――“欠片”との初接触

 白い光が、そっと闇を押し広げる。


 影の子どもは眩しそうに目を細め――

 それでも、逃げようとはしなかった。


「……あったかい」


 今度は、はっきりと声が聞こえた。


(……喋った?)


『喋りたがっている“誰か”の声を借りているだけだ』


 黒が冷静に告げる。


『その影は器。

 だが、中に入り込んでいるものは――まだ“人”だ』


(まだ、って何)


『そのうち人ではなくなる』


(ねぇ、説明を最後までちゃんとして?)



 セリアがそっと問いかけた。


「あなた、名前は?」


 影の子どもは首を振る。


「なまえ……わかんない。

 でも、さむい。こわい。ひとり」


 感情だけが、子どものものだった。


 俺は一歩近づく。


 黒がざわりと反応し、

 胸の奥で白がそれを押さえ込む。


「ここは、お前のいた場所じゃない。

 どこから来た?」


 影の子どもは少し考えてから――

 ゆっくり、空のある一点を指さした。


 西の空。

 次に向かう予定の街、ラインベルクの方向。


「そこ……まっくら。

 たくさん、おなじ。さけんでる」


(やっぱり、出口の候補か)



 そのときだった。


「おい!」


 背後から、鋭い声が飛んだ。


 振り返ると、ギデオンがこちらへ走ってくるところだった。

 その視線は俺ではなく、影の子どもに釘付けになっている。


「それ以上近づくな」


 彼は即座に短剣を抜き、構えた。


「その影は、魂を喰う」


「ギデオンさん、待って!」


 セリアが慌てて叫ぶ。


「この子、まだ“人の心”が残ってます!」


「残っていようがいまいが関係ない。

 危険なものは処理する。それが――」


「じゃあ質問」


 俺は遮るように言った。


「処理して終わりなら、何で俺たち、わざわざ旅に出たんです?」


 ギデオンが言葉を止める。


「門の向きを変えた先で何が起きてるか、ちゃんと見て、

 可能なら“被害を減らす方法”を探すためじゃないんですか?」


「……」


「だったら、“欠片がどうなるか”も見ないと。

 全部焼き払ったら、何も分からないままですよ」


 自分でも驚くほど、声が強かった。


(……学院長やラザールの影響かもしれないな)



 ギデオンはしばらく黙っていたが――

 やがて、短剣をわずかに下ろした。


「……五分だ」


「五分?」


「その間に、お前の白と黒で“安定させられるか”試せ。

 失敗したら、俺が処理する」


 かなり譲歩してくれた方だろう。


「分かった」


 俺はうなずき、影の子どもに向き直る。



(いいか、黒)


『なんだ』


(飲み込むな。繋げ。

 この子の“影”を俺の中の黒に繋げて、

 セリアの白で表面だけ保護する)


『それは、つまり――』


(仮の“器”を、こっち側に作るってことだ)


 リスクは大きい。

 失敗すれば、俺の黒が暴走するかもしれない。


 けれど――


(門の出口を探す前に、まず“こぼれた欠片”への対処法を見つけないと)


 セリアが不安そうに俺の手を握る。


「本当に、大丈夫?」


「大丈夫じゃないと思う」


「えっ」


「でも、やる」


 それが、今の俺にできる“鍵”としての仕事なんだろう。



 深く息を吸い、影の子どもへ手を伸ばした。


 黒が、静かに広がる。


 触れた瞬間――

 冷たい何かが、腕を駆け上がってきた。


「っ……!」


 視界の端に、暗い影が広がる。


 セリアの手から、白い光が流れ込んできた。


「ルイ!」


「焦るな。流れを見ろ」


 ラザールの声が、少し離れた場所から飛んでくる。


 黒と白の境目を、意識する。


 影の子どもの輪郭が、少しずつはっきりしていく。


 ぼやけていた顔立ちが、

 普通の村の子どもと変わらないものへと形を取っていく。


「……あったかい……」


 子どもの目から、涙のような黒い雫がこぼれた。


「こわくない……?」


「怖いけど、大丈夫だ」


 俺は笑う。


「こわいの、半分こな」


 その言葉に、セリアも笑った。


「じゃあ、あったかいのは三人分だね」



 五分が過ぎた頃――


 影の子どもは、完全に“こちら側”の存在になった。


 地面に、ちゃんと影ができている。


「……成功、か」


 ギデオンが信じられないという顔をする。


「こんな方法、聞いたことがない」


「俺も、今思いつきました」


「軽々しく言うな」


 それでも、彼は短剣を納めた。


「お前は本当に……厄介な鍵だな」


 それは、少しだけ褒め言葉に聞こえた。



「ねぇ、名前どうする?」


 セリアがこっそり聞いてくる。


 影だった子どもは、きょろきょろと村を見回しながら、

 まだ自分の手足を確かめているところだ。


「……そうだな」


 俺は少し考え――

 遠くでこちらを見ている村の灯りを見た。


「“ノア”は?」


「ノア?」


「暗いところから船で連れ出す神話、聞いたことある。

 ……まぁ、前世の話だけど」


 セリアはすぐに頷いた。


「いいと思う!」


 子ども――ノアは、少し照れくさそうに笑った。


「ノア……。ぼく、ノア……?」


 その笑顔だけは、どこからどう見ても“普通の子ども”だった。

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