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転生したら世界の鍵でした 〜俺と相棒で紡ぐ異世界物語〜  作者: くろうさ
第2章:学院編前編

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第60話:影門暴走――崩れゆく学院と“鍵”の選択

 学院へ戻る途中、空の色がゆっくりと濁っていくのが見えた。王都の上空に、黒い雲の柱が一本、突き刺さるように立っている。


「……あれ、学院の方向だよな」アレンが歯を噛みしめる。


 近づくほどに胸の奥の黒が熱を帯びてざわめいた。


『……開くぞ……扉が……』


(うるさい。黙ってろ)


 白を全力で押し込むが、黒の圧は今までと比べ物にならない。セリアの手が震え、俺の腕をしっかり掴んだ。


「ルイ……心臓、すごく熱くなってる……!」


(分かってる。俺が一番分かってる)


 


 学院にたどり着いた時、正門前はすでに地獄絵図の様相だった。建物の一部が崩れ落ち、空中には黒い裂け目のような影が漂っている。教師たちが結界を張り、生徒を避難させて走り回っていた。


「ルイ君!」


 エリナ先生が駆け寄ってくる。顔色は悪いが動きは速い。


「ここは危険よ! 君たちは――」


 ラザールがその前に出た。


「学院長からの指示だ。“鍵”は地下封印区画へ同行させる」


「鍵……って……」


 一瞬、先生の視線が俺へ向いた。そこには恐怖と心配が入り混じった複雑な感情が浮かんでいた。


「……死なないでよ」


 それだけ言い残し、彼女は生徒の避難へ戻っていく。


(なんだあれ……めちゃくちゃ刺さるんだけど)


 


 地下封印区画への階段を駆け降りると、空気がすでに“向こう側”の匂いに満ちていた。黒い霧が壁を這い、床に描かれた封印陣が軋みながら光を失っていく。


 そしてその中心にあった。


 巨大な“門”。


 石でも金属でもない。空間そのものがえぐられ、歪み、その穴が黒く口を開けているような異様な裂け目。


『……見えるか、鍵よ』


 声が、はっきりと耳の奥に響いた。


(クリアに聞こえるようになってるの、やめてくれ)


『ここが“本門”だ。お前が触れるべき、深淵への正規の扉』


(触れたくねぇって何回言わせんだよ)


 門の縁からどろりと影が伸び、封印術式へ絡みつく。


 それに対峙していたのはベルムート学院長と数名の教師陣。汗がしたたり落ち、全員が限界寸前で封印陣を維持している。


「遅かったか……!」


 ラザールの舌打ちが混ざる。


「学院長!」


「来てくれたか、ラザール君……ルイ君も……!」


 学院長の魔力は明らかに限界に近かった。


「封印は……まだ間に合うんですか!?」


「完全閉鎖は……無理だ。だが――“出口の角度”さえ変えれば、この学院は飲まれずに済む……!」


(出口の角度……?)


『そうだ。この門は今、“学院”へ向けて開こうとしている。向きを変えれば……流れは別の場所を侵す』


(つまり……誰か別の場所が代わりに被害を受けるって話じゃん)


『世界とは、そういうものだ』


(ほんとクソみたいな理屈だな!?)


 


 ベルムートが俺を見る。


「ルイ君。君の魂核は“白と黒の均衡”だと聞いた」


「……まぁ、一応」


「ならば――その均衡を利用させてほしい」


「!」


「君の“白”で門の流れを押し返し、“黒”で向きを固定する。この無茶をできるのは……世界でも君だけだ」


(無茶だと分かってるんだな!?)


 セリアが一歩前へ進んだ。


「だったら、わたしも……! ルイの“白”が足りないなら、わたしの光も使って!」


「セリア君、それは危険――」


「わたし、ずっと守ってもらってばかりでした。今度は……わたしがルイを支える番です!」


 瞳の奥が強く光っていた。


(……ほんと、こういう時のセリアはずるい)


 


 俺は門の前に立ち、胸の奥から白と黒を呼び出す。


(黒は……深淵そのもの。白は……俺が俺でいる証)


 セリアが隣で手をぎゅっと握る。


「一緒だよ、ルイ」


「……ああ」


 白が膨れ上がり、黒がそれを飲み込もうとせめぎ合う。門の向こうからも黒い奔流が押し寄せてきた。


『来い、鍵。こちら側に来れば、苦痛は終わる』


(だからその甘言やめろっつってんだろ!)


 白と黒を意識の中で強引に噛み合わせた瞬間、魂そのものが軋む音がした。


「ルイ……!」


 セリアの光が温かく流れ込み、白が一瞬だけ優勢に転じる。


 その刹那――


「今だ、門の“向き”を捻じ曲げる!」


 ラザールと学院長が術式を叩き込む。


 黒い裂け目が、鈍く軋みながら方向を変えた。学院の上空へ向けられていた流れが、遠く離れた“どこか”へ向きを変えていく。


 


 だが、その代償は大きかった。


 地下区画の壁が次々と崩れ、地上にまで衝撃が走る。校舎の半分が、まるで地面ごと抉られたように崩落していった。


 それでも――学院そのものは飲み込まれずに済んだ。


 


 気づくと、俺は冷たい床に倒れていた。


 視界は揺れ、耳鳴りの向こうで叫び声が飛んでいる。


「脈はある! 生きてるぞ!」


「セリア君もだ! 魔力枯渇がひどいが無事だ!」


『……やはり面白い。お前は深淵に背を向けたか。ならば――もっと試したくなるな』


(試さなくていい。ほんとマジで)


 遠のく意識の中で、薄く笑うしかなかった。


 こうして――王立学院は“半壊”。長期休校に追い込まれることになる。

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