第58話:王都冒険者ギルド――“測定不能少年”ふたたび
翌日、王都中心街の一角にそびえる巨大な建物の前で立ち止まった。石造りの三階建て。正面には冒険者ギルド“アルフィア支部”の紋章が掲げられ、表には大きな掲示板、そして絶えず人が出入りする重たい扉。これが、王都最大のギルドだ。
「ここが……冒険者ギルド本部“アルフィア支部”か」
ラザールが淡々と呟く。
俺は内心、ほんの少しだけ胸が高鳴っていた。
(ゲームでしか見たことなかったやつだ……)
隣のセリアがそっと覗き込む。
「緊張してるの、ルイ?」
「ルイなら大丈夫だろ。俺とミリアもいるしな」
「そ、そうですよ。四人で行けば怖くありません!」
(いや怖いのはお前らじゃなくて、“測定器”なんだよ……毎回壊すやつ……)
そんな内心を抱えつつ、ギルドの扉を押し開けた。
中に足を踏み入れた瞬間、ざわめきと酒の匂いと鉄の金属音がいっせいに押し寄せてくる。カウンター前には剣や杖を持った冒険者たちが列をなし、奥のテーブルでは地図を広げて何か話し込んでいる。
受付嬢は、きりっとしたポニーテールの女性だった。
「学院からの紹介ね。書類は届いているわ」
ラザールが紹介状を渡すと、受付嬢は目を通し、ちらりとこちらを値踏みするように見てきた。
(まぁ、完全に子どもだしな……見るよな……)
「では順番に、魔力量測定と適性検査を行います」
ああ……来たか。やっぱりあるよね測定器。
まずアレンが水晶石へ手を当てる。
「アレン・ヴィスト。魔力総量、中の上。火属性寄りの混合型。……うん、Bクラス相当ね」
続いてミリア。
「ミリア・ローゼ。魔力総量、中。風属性主軸の支援型。Cクラス相当」
(おお……二人とも普通に優秀じゃん)
「セリア・エルノア」
セリアが恐る恐る手を置いた瞬間だった。
白い光が、爆発するように水晶石から噴き上がった。
ギルドのざわめきが、一気に静まる。
「な、何だ今の……!?」
「すげぇ……!」
受付嬢が息をのむ。
「……上位光核。王都でもほとんど見ないレベルよ……」
職員たちが慌てて書類を持ってきてひそひそ話し始めた。
(セリア、ここでも規格外か……)
そして――本番が来た。
「最後、ルイ・アーヴェント君」
全員の視線が一斉に集まる。
(さて……どうなることやら)
俺はゆっくり手を水晶石へ置いた。
次の瞬間。
水晶石の奥で、黒と白がぐちゃりと混ざったような光が生まれた。
「っ……!」
ざわっ、と空気がひきつる。
白い光が弾け、同時に底から黒い霧が滲み上がった。
水晶石が嫌な音を立てて震える。
バキッ。
ひびが走った。
「ま、まただよこれぇぇ……!」
(学院入試のときとほぼ同じ展開!!!)
慌てて手を離したが遅い。
水晶石は内部から焼け焦げ、黒く染まり――
ドン、と小さく破裂した。
「きゃっ!?」「な、なんだ!?」「壊れたぞ!?」
ざわめくギルド内。
受付嬢は青ざめた顔で呟いた。
「……“測定不能”……?」
その瞬間、奥の扉が重く開いた。
「騒がしいな。何事だ?」
出てきたのは肩幅の広い中年の男。片目には古傷、片腕は義手。
ただ立っているだけで“ギルドマスター”の圧がある。
「マスター、この子が……」
受付嬢が説明しようとした瞬間、ラザールが一歩前へ。
「測定器の不具合だろう」
淡々と、迷いなく言い切った。
「この子の魔力量については王立学院が“特殊ケース”として保証している。詳細測定は王宮が許可を出してからだ」
(さらっと情報封印した……!)
ギルドマスターは俺をじっと見つめる。
生身の眼光が刺さるように鋭い。
「……なるほど。王都ってのは時々こういう面倒なガキを送り込んでくる」
(ガキ扱いはやめてくれよ……!)
言い返したいのを飲み込み、にこっと笑っておく。
ギルドマスターは受付へ向き直る。
「ランクはEからだ。“観察対象”として、俺の印をつけておけ」
「了解しました」
(観察対象って言い方さらっと怖いんだけど……)
こうして俺たちは正式に“冒険者”となった。
ギルドカードを胸に収めたその瞬間──
ギルドマスターが、誰にも聞こえないほど低く呟いた。
「……測定不能、ね。
学院、王宮、教会、監察局……
どいつが先にこのガキを取りに来るか、見ものだな」
そのつぶやきは、酒場のざわめきに飲まれて消えていった。




